友里、修学旅行にいく その9
エネルギー(肉)で満たされたボクは巨人級を睨み付ける。
右腕が食べられた時にスーツも分解されたので、全身のスーツごと作り直す。今度はあっさりと分解されないように、何層にも違う材質で重ね合わせていく。
取り合えず十層重ねたけど、さほど厚みは変わらない。
言うなれば薄手のシャツからデニム地のシャツに変わったくらい。
気持ちの問題だけど、奴は分子的には消化してくるから、違う素材を重ねればそれなりに分解するのにも、時間がかかると思うんだよねー。
「どう思う?エレス」
『恐らくその考察は正しいと思われます。先程までのスーツですといくら丈夫とはいえ、炭素のみで形成されてましたので、分解は容易かったかと』
ふむ、じゃあいきなりさっきみたいに肉まで食べられちゃうってことはないね。
「ちなみに、奴が分解してくる時の仕組み解析出来た?」
『ええ、おおよそ解りました。奴はご主人様のように直接原子、もしくは分子構造を分解してると言うよりは、奴の元になってる生物、つまり「クラゲ」の能力である毒針を使っているようです。何ミクロンという、視認が難しい程の毒針を、分子の隙間に差し込んで毒液、もしくは消化液を流し込んでいるようです』
なるほど、それで奴の身体に右手が入った時に熱いと感じたのかな?あの熱さは消化液、つまり酸か何かの反応熱ってことだね。ってことは長時間触れなければ分解されないね!
「よし!腕、そして脚部装甲強化!!」
ボクの肘から先が分厚い多重構造の装甲覆われていく。勿論膝から下もブーツのような装甲が覆っていく。
そして、拳にはトゲ付きナックルガード、手首からはブレードが生える。そして爪先はこれでもかって言うくらい鋭利に尖り、踵からも外刃のブレードが生える。
ブレードとナックル、爪先からは「ピィィィィィンン」と鼓膜がくすぐったくなるような音がしている。
高周波で震動することによって、奴に食われにくくしてみたんだよねー。食いたかったら震動打ち勝ってみろってやつだね。
他の部分の装甲は申し訳程度にしてみた。速度重視、攻撃特化の方針だよ。奴の知覚外の攻撃なら塊魂が砕けることが解ったからね。(最初の鞭攻撃参照)
つまり奴が反応する前にフルボッコにする作戦だ。
勿論精霊力は拳とかに付与させてぶちこんでやる。
『ご主人様、そんな顔でぶちこむなんて言われたら、私もう・・・はふぅ!』
どうしよう、ボクの頭のなかに変態がいる!
『変態じゃないですー、変態って言うほうが変態なんですー』
「お前は小学生か!!っていうかボクは変態じゃないもん!普通にエッチだもん!!」
『か、可愛く言ったって誤魔化されませんからねっ!まったく隙あらば奥さまとあんなことやこんなこと・・・見てないフリしてるコッチの身にもなってくださいよね!!プンプン』
「え?見てないんじゃなくて、フリなの・・・?」
ボクは恥ずかしいやら何やらで、アワアワしてしまう。
『やっ、いえっ、見てると言うか聞いてると言うか、ほら実家で一緒に暮らしてる、お父さんお母さんの心境と言いましょうか、すいません眼福でした!』
エレスの言葉を聞いた瞬間、ボクの中に冷たくて暗い感情が渦巻いた・・・。
「今度・・・・・・・」
『え?なんですか?』
「コンド、ミタラコロスゾ?ア"ン?」
これが殺意って感情なんだねっ初めて知ったヨ(怒)
『ひぃっ!!もう見ません!電源オフにしておきますッ』
エレスの翻訳機能もボクのマジ怒りには勝てなかったらしい。まったく、家族でもプライベートはきちんといてほしいよね。
っていうかエレスって電源オフできるんだ?へぇ。
ほどよく緊張がほぐれたところで、うねうねしてる奴を見る。
まずは、触手をどうにかしないとなー。攻撃のほとんどがあの触手だもんね、身体のほうは取り込まれると厄介だけど、攻撃と防御力は然程じゃないしね。
「よし!じゃあ気合い入れていこーぅ!!」
『はい、ホテルのガードは私が担当しますので、最大推力が出せる八枚分の翼を展開してください』
「おっけー、ありがと」
ボクはエレスにお礼を言って翼を広げる。そして上左右二枚を姿勢制御用に大きくして、下の左右二枚を推進用にツバメの尾羽のように後ろに大きく伸ばす。
軽く砂浜を蹴って浮き上がると、一気に速度を上げる。奴の触手が届きにくくなるように、水面ギリギリを飛んでいるため、ボクの後ろで海が大きく割れている。
奴はボクに気づくと、触手を何本か振り下ろしてくるけど、やっぱり空中にいるときよりも攻撃がしにくそう。
水面ギリギリだと、殆ど正面にある触手しか攻撃できないみたいだね。
ボクは攻撃してくる触手の一本をすれ違い様に腕のブレードで切りつけると、簡単に先端部が切れてクルクルと振り下ろした勢いのまま吹っ飛んでいく。
吹っ飛んでいった先端は、海にぽちゃんと落ちるとその形が、ぐねぐねと変化していく。変化が終わるとそこには、直径が2mくらいのクラゲがプカプカと浮いていた。
「ひょっとして、あれが一匹分の大きさ?試しに殴ってみようか」
『だとしたら、体積からあと何個分の塊魂があるかおおよその数がわかりますね』
ボクはギュンっと方向を換えて海にプカプカ浮いてる大クラゲに接近する。そして、右腕を引き絞り、ナックルに陽炎を纏わせる。同時に「キィィィィィィィィィン」とナックルの振動が耳障りな音を奏で始める。
「えいっ!!」
気合いと共に大クラゲに拳を付き出すと、さすがにこの大きさでは耐えられないのか、一撃で爆散して散らばった破片は空中でシューシューいいながら蒸発していった。
「どう?手応え的には一個分だったと思うんだけど・・・」
『そうですね、完全に消滅したのと、少しばかり残った部分が、標準サイズのクラゲちゃんに戻りましたので、一個分で間違いないかと思われます。そこから算出しますと、3750個の塊魂で構成されてると思われます』
よかったー、一万くらい固まってるかと思ったから何となくホッとしたよ。ってことはあと4000回くらい殴れば、消えちゃうってことだもんね♪
何となくだけど、先が見えると頑張れるってもんだよね。
ボクは再び奴に向かって高速で突っ込んでいく。また、触手がボクを叩こうと振り下ろされたけど今度は斬らずにすり抜ける。斬ってもダメージ無さそうだし、バラけて逃げられたらめんどくさいしね。
とにかく殴って殴って表面から削りまくってやる!
奴の淵にたどり着くと、ボクは表面から少しだけ離れたところに浮いて構えをとり、右手には陽炎を、左手には風を纏わせて、連打を打ち込んでいく。
「とりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁっ」
本当はオラオラって言いたいのに翻訳機能のせいなのか大人の事情のせいなのか、可愛いい掛け声に変換されちゃった。やれやれだね。
爆発が起きたかのような衝撃と共に、奴の表面が激しく波打つ。頭に響いてくる塊魂が砕けるとき特有の奴等の叫び声が連続して聞こえる。
「どう?結構効いてるよね?手応えあるよ?」
『ええ、今ので100近い塊魂が消滅したと思われます。このまま反撃が無ければ楽勝なんですが、そうはいかないと思います』
背後から奴の触手が迫ってくる気配がしたので、ボクは一気に上昇して触手をかわす。
かわされた触手は勢い余って、自分の身体を叩いてしまう。流石に自分の身体叩いてもダメージは無いだろうけど、魂同士で仲違いとかしてくれたらいいのに。
『恐らく中に一番の最初からの個体がいるはずです。その個体を中心にネットワークが組まれているので、一体になってる間の意思は統一されてると思います。先程のように切り離されると、そのネットワークから外れて元の個体に戻るようですね』
「じゃあその中心にいるヤツを破壊したら、バラバラに分解するかなぁ?」
『なるかもしれませんし、ならないかもしれません。恐らくいくら別次元の精神体でも、常時支配し続けるのは無理なので、二番手、三番手の代理がいると思われます。なので外から削り続けるほうが、確実だと思われます。幸いなことに先程の攻撃も効果が有りましたし』
ふむ、じゃあこのままヒットアンドウェイで付かず離れずで削り飛ばそうかな。
ボクは降下して、さっきと違う場所に移動すると再び拳打を打ち込む。奴が攻撃してきたら横に移動してかわし、また、打ち込む。
繰り返すこと10回くらいだろうか、丁度奴の回りを一周したのか、元の島を背にした位置に戻ってきた。
ボクは一旦大きく離れて奴の全体が見れる位置まで上昇する。さすがに受け続けたダメージのせいか、触手もしんなりとして元気が無くなっている。
「どうかな?1000個位は逝ったよね?」
『はい、奴の体積の減りかたから見て1200は消滅したと思われます』
ちょっと高めに飛んでるからアレだけど、だいぶ縮んだ気がする。半分は言い過ぎだけど、それに近いものがある。
もう一当て行こうかと、少し下降し始めると奴の表面が激しく泡立った。警戒してると、泡立った部分から今までは下からしか生えてなかった触手が泡の数と同じくらい、つまり数百単位でボクに向かって突っ込んできた。
さすがに奴もこのままじゃ不味いと思ったのかな、まさかここに来て進化みたいなことしてくるとは思わなかったよ。
だけど、触手でも本体でもやることは変わんないんだけどね。ボクは自分に向かってくる触手に向かって先程と同じくらいの拳打プラス蹴りを放つ。
ボクと触手がぶつかり合った瞬間、空気が膨張するかのような炸裂音が響き渡る。
拳とぶつかる度に弾けとんでは消えていく触手。
1本の触手に付き一個の塊魂があるとすれば、この攻撃はヤツにとって諸刃の剣のようなものだろう、少しずつ奴が小さくなっていくのが解るほどに削れている。
『先程の触手を全て捌いて凌ぎきれば、奴は残り30%程にまで減少すると思われます』
油断はしないよ、しないけどこれは勝ったでしょ!
完全に奴も悪手だと気付いたのか、気がつけば触手の攻撃が止んでいた。なんだか、丸っこくなって防御力を上げてるのかな?ボクは加速しながら下降して、水面ギリギリのところで水平飛行に切り替えて奴に突っ込んでいく。そのままの勢いで拳を引き絞りながら、ぶつかる1m手前で慣性制御をフルに使って一瞬で止まり、それまでの運動エネルギーを右拳に載せて、奴の土手っ腹に打ち込む。
ボヨヨーーーン
今までとまるで違う感触、さっきまでが少し固めのゼリーなら、今度は羊羮?そのくらいの違いなんだけど、何せ体積が多すぎる、超巨大な羊羮の感触、しかもト○ヤ。旨くてしっかりしてる。
だけど奴の体積が小さくなった事と、さっきより固くなったせいで衝撃が吸収しきれずに、丸くなった身体がゴロンっと転がり始めた。
「お、おおー?こ、転がり始めたよ?」
『そ、そのようで?このままだと、裏返ってしまうんじゃないですかね?』
エレスの言う通り奴はゆっくりと転がっていくと、今までと下になっていた部分、つまり移動に使っていた部分が上向きになっていく。
うわーおっさんの足みたいなのがいっぱい生えてるよー。
気持ち悪いことこの上ないんだけど・・・なんか足の形がちょっとずつ変わってない、気持ち悪さが無くなって代わりに・・・代わりに・・・トンガってきてる?ヤバくない?アレ。
『ご主人様・・・今すぐ退避したほうがよろしいかと・・・』
返事もせず後ろにに飛ぼうとするよりも速く、奴の足が飛び出してきた。マズイっ回避しきれない!だって目の前余すことなく飛んできてるっグッ!!
なんて思ってる間に右足に食らった!エレスが痛覚切ってくれてるから痛くはない、けどっバランスが崩れるっ!うあっ今度は左右の肩にっ!!くらいながらも何とか離れることが出来たけど・・・ダメだぁ。
ボクはそのまま砂浜に何とか不時着した、これマズイよ、突き刺さった部分がボクの身体に毒を流しているのが解る。
さっきの理屈だとこの一本でも奴等の魂一個分だよね、それが3本も・・・ああ、ダメだ抜こうにも腕も足も動かない・・・。
毒と消化液が流し込まれて、ボクの身体は胸から上を残して、殆ど分解されちゃった・・・。
沖合いでは引っくり返ったままの巨人級が嗤ってるような気がした。
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