閑話休題 ある日の徳田家(混沌)
少し短めの日常です。
日曜の午前9時。
私は夜勤明けで帰ってくる。平日なら誰もいない家に帰ってきてお風呂に入って寝るだけなのだけど、今日は日曜日。
大好きな旦那(?)もお休みで家にいるので、足取りも軽くインターホンを鳴らす。
ぴんぽーーーん
『はーい』
聞きなれた声ではないけど愛しさが込み上げてくる。
「ただいまー」
『あ、おかえりー今開けるねー』
玄関の扉の向こうで、パタパタと足音が聞こえる。
カチャカチャ ガチャッ
ドアが開き、子猫のような愛らしい眼でまっすぐこちらを見てお出迎えしてくれる。
「おかえりーおつかれさまー。今日は早かったね」
早かったんじゃない、早く終わらせてきたの!だって今日は休みでヒカルちゃんがいるから!!
あーもうぎゅーーーってしたい、人目もはばからずハフハフしたい。
でも、ここはまだ道路に面したとこだから我慢我慢。私は我慢ができる大人の女、だってこの子は私のだもの何を慌てることがあらりょうか。
なんて表面上は平静を保っているフリをしている私に、ヒカルちゃんがぎゅぅっと抱きついてきた。
はぁあああああぁぁああああぁぁぁあああ!!なに不意打ちしてくれてんのこの子はぁぁぁぁぁ!!
「えへへー今日はいっぱい一緒にいられるねー」
押し倒していいかなー、玄関だけどいいかなー、これ私悪くないよねー、だれだって押し倒すよねー。
「ヒカルちゃっ・・・」
と、言いながらもうガバチョと押し倒しかけた時、階段をトントン降りてくる音が聞こえる。
「あ、ママおかえりー、だめだよ?そんなとこでヒカルちゃん襲ったら」
ぬう、我が愛しの娘、そしてヒカルちゃんを密かに(全然密かじゃないけど)狙うライバル、友里め……いつもいいとこで降りてくるのよねぇ、どっかにカメラでもついてるのかしら。
「友里ってば変なこと言わないのーママが襲うわけないでしょ。ねー?」
すいません、めっさ押し倒そうとしてました。そしてねぶろうと思ってました。ホントごめんなさい。
「ふぅーん、まぁいいけどねー♪」
そう言いながら再びトントンと、二階の自室に戻っていった。
「あ、ボク朝御飯作ったんだよー、食べる?」
ヒカルちゃんは生まれ変わる前から結構料理が好きで、自分が休みの日などよくご飯を作ってくれる。しかも、男料理で大雑把なのに、妙に美味しかったりする。
作ってるとこ見てても、なにか特別な事してる訳じゃないんだけどねー、ヒカルちゃんの不思議の一つでもある。
「うん、じゃあ食べようかなぁ、なに作ったの?」
「えっとね、豚のひき肉余ってたからそぼろ作ったの、おいしーよ」
ほう・・・朝からガッツリですな・・・でも仕事明けの私ならちょうどいいだろう、ふふふ愛妻・・・じゃないな、妻は私だ。
愛夫飯?なんかしっくりこないけどまあいっか、いただこうじゃないの。
「じゃあ、暖めるから手洗ってきてー」
「はーい」
洗面所で手を洗ってダイニングキッチンに行くと、ヒカルちゃんがお皿にペタペタご飯を盛り付けていた。そして、上を平らにしたご飯の上に真ん中を凹まして、その周りに甘く煮しめた感じのそぼろをご飯が見えなくなるまで隙間なく敷き詰めていく。そして最初に作った真ん中の凹んだ部分に、生卵の黄身を置いたら完成らしい。
「はい、どーぞ、召し上がれー」
「いっただきまーす」
うひょー、美味しそうー。パクっ。んー疲れた身体にあまじょっぱさがたまらないー。半分位食べ進めた所で、真ん中の黄身を崩して混ぜ合わせる。んんー、またちょっとまろやかになっておいしーー。私が作るとこの味にならないんだよねー、おんなじ分量の砂糖と醤油使うんだけどなぁ。
ヒカルちゃん曰く、外に出て調味料と混ざった肉汁が、再びお肉に戻る時が来るんだそうで、そこまで我慢して混ぜ混ぜしなきゃいけないらしい。
私そこまで我慢出来ないんだよなぁ。
三分の二程食べたら、野菜ジュースの入ったコップがトンと、脇に置かれた。
「サラダ作らなかったから、ジュース飲んでね」
そう、ヒカルちゃんの男料理たる所以、それは1品しか作らないのだ。どんぶりものorパスタor鍋or魚の煮付け、等である。
多分1品に力を注ぎすぎて疲れちゃうんだろうなと思うんだけどね。
その代わりその1品がめちゃくちゃ美味しいのである。
「はぁーごちそうさまー。お風呂入って寝たいわー」
「お風呂洗ってあるから、すぐ溜めれるよ?どうする?」
「んーシャワーでいいわー、暑いから汗かきたくないしー」
「そ、じゃあボク、ゲームキリのいいとこで終わらせて一緒に寝るー」
「ひょっとして、夜更かししてた?」
「うん、一緒に寝るだろうと思って、夜更かしして早起きしたの」
こういうとこ、他の人からみたら変かも知れないけどいいんだよねー。もうほんと好き。
ヒカルちゃんは、テレビの前のソファーに座り、放置していた自分のキャラを動かし始める。
「相変わらず、女の子キャラなのね。しかもなんか今のヒカルちゃんに似てるし」
「ふふーいいでしょーエディットに凄い時間かけたんだよー。あ」
ん?なんかあったのかな??
「どしたん?なんかした?」
「んーなんかねー昨日からこの人がイヤに絡んでくるんだー。ボクネカマですって言ってるのに、ほんとは女の子なんでしょーわかってるんだよーって。しかもなんかカップルになろうとか言ってくるしさー。こんなおっさん相手にしてもしょうがないのにねー?」
心のなかで、この子ツッコミ待ちなのかしらとか思いつつ、ちょっかいを出してると思わしきキャラを見る。
あんまり、ガチムチなキャラじゃないけど、何て言うのかなー、私みたいなネナベが作りそうなキャラっぽい。
つまり男臭くない感じとでも言えばいいんだろうか。
キャラの名前も『月彌』か、女っぽい、勘だけど。
「このゲームって、無料でダウンロードできるやつなの?」
「うん、できるよーパソコンでも出来るけど時間かかるよ。あ、確か友里が前にダウンロードしてたかも」
「よし、じゃあ私がちゃっちゃとキャラ作ってログインして追っ払ってあげるわ。ちょっと友里の部屋行ってくるから待っててね。あ、ナンチャンネル?」
「7チャンネルー」
「はーい」
トントンと友里の部屋まで上がり、コンコンと軽くノックをする。
「友里ーちょっと、いい?ママに少しゲーム機貸してー」
『ま、ママっ!?ちょっと待ってね!?』
ん?なんか怪しい、こういう時は大抵なんか悪さしてるときだ。
「ダウトッ!!友里なんかしてるでしょ!?」
と、言いながらドアを開け放つ、ちなみに我が家の部屋には鍵なんて付いてない。そして、悪さしてると思った時は先程の「ダウト」と叫びながら開けることが許されてる。
これは逆もありなので文句は言わせない。
そこには、テレビの前のクッションに座り、ゲームをしてる我が娘の姿。
別段変なことは無かった。ありふれた風景である。
なのに友里の目は泳ぎまくっている、なんでだ?
「なにしてんの?っていうかなんでそんなに焦って・・・」
言いながらゲームの画面を見る。
友里のキャラの前には、どこかで見たようなキャラ。
あれえーなんかヒカルちゃんにそっくりー。
そして、後ろから見たアングルの友里のキャラ、顔は見えないけどなんか見たばっかの気がする。
さらに、画面の左すみにあるキャラの名前。
『月彌』
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「お前かああああああぁぁぁぁ!!」
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁいぃ!!」
現実は私がいるから、せめて仮想の世界で付き合おうと思ったらしい……。
我が娘ながら、油断も隙もあったもんじゃないわね、まったく。
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