友里、修学旅行に行く その7
久しぶりに乗ったままの洗車場に行きたくなりました。
空中でふよふよ浮いて巨人級を観察していると、下の方がなんだか騒がしい。
「天使?天使降臨ですかな??」
「ちょっとあれなに?友里知ってるでしょ?あの人の正体絶対知ってるでしょ?」
下の方をチラリと見ると、窓から乗り出して此方を見てる友里の脇から私も私もと、友人二人が顔を出して、ボクの事を見ようとしてるのが見える。他の窓開ければいいのに・・・。
そんな二人にお構いなしに、友里は目に涙を溜めてボクを見上げてる。
「がんばったよ!わたし、ヒカルちゃんくるまでなんとかしなきゃってがんばったよ!!」
「「ヒカルちゃん??」」
ご友人二人の声が綺麗にハモった。あーもうバレたわー、完全にバレたわー。
ボクはしょうがないので友里たちと同じ目線まで高度を下げて窓に近づくと、そこには胸の前で手を組んで、完全に王子様を待つお姫様みたいな感じになってる友里がいた。
ボクは飛び出される前にとスッと近づいて、その頭をナデナデしてあげた。
「よくがんばったねー、後はボクがなんとかするからね」
「うん、信じてるから、怪我だけしないでね」
「あのー本当にヒカルさんなんですか?どうしてそんな恰好で、しかも飛んでるんですか??」
「あ、まさか昨日もそうやって飛んで来たんですかな?そうすれば全ての辻褄が・・・」
ご友人二人空気読んでよ。
「まあ、細かい事情は、また説明するよ。とりあえず危なくないところに逃げてて」
ボクはそういうと、光の盾の向こう側にいる巨人級に目を向ける。
奴も本能的に、本当の敵はボクだと気付いたのだろうか、触手を数十本持ち上げてこちらに向けてくる。
とりあえず盾は一枚置いておこう。実はこれボクの翼の一番下にある二枚なんだけどね。力場って実は取り外し可能だった。つまりこういう盾ならあと三枚作ることが出来るみたい。
その代わりに飛べなくなると思うけど。ひょっとしたら全部外すと、また生えてくるのかな?そこんとこどうなの?エレス。
『おそらく生えてくるかもしれませんが、制御することは難しくなるでしょう。なのでもし使う場合は、先に出したほうの翼を、完全自立にして浮かべるか、私に一括して任せていただくかになると思われます』
ふーん、そっか翼はとりあえず今出してる数がボクに制御できる枚数ってことなんだね。まあ普通に飛ぶ分には六枚生えてれば十分だしね。このまま戦うことにしよう。
ボクは町から離れるように、大きく旋回して巨人級の横に回り込む。顔も何もわからないコイツに対して横とか意味あるのかよくわからないけど、触手の方はボクを追いかけるように島から90度回転してボクを標準してきた。
ボクは飛びながら風の刃を作り出して、ヤツに向けて発射する。その数、200発。
風の刃は色んな角度で飛んで行き、すべて奴に命中する。しかし、その体にわずかにできた切れ目は、プルンと表面が波打つと、きれいさっぱりと消えてしまう。再生能力というかもともとバラバラの身体がくっつきあってるのか、切り傷なんてなんの問題もないらしい。
『あの再生力に私も苦戦したのです。気を付けてください』
なるほどね、確かにエレスは打撃しか攻撃方法が無いからね、相性は最悪かもしんないね。
「それなら、これでどうだ!!」
ボクは水の精霊に呼びかけると海面がボクに向かって伸びてくる。ボクはその先端をつかむと、力いっぱい振り回す。さながら水の鞭と化した海水はその長さ1kmまで伸びていく。
思いっきり振りかぶると、水の鞭を奴の身体のど真ん中に叩き付ける。1kmあればここからでも奴に余裕で届くだろう。バチィィィン!とものすごい衝撃音と共に奴の身体が真っ二つに割れていく。
おそらく先端の速度は軽く音速を超えてたはずだ。材質が水(海水)だから音速にもなれば当然その高度も増し増しで鉄骨のような硬さになってるはず。
水の鞭は奴の身体を断ち割り、そのまま海面にぶつかると盛大な水しぶきを上げた。真っ二つになった奴の身体を見るとグラリグラリと揺れているのが見える。かなりの塊魂を壊した感触があったかからひょっとしてやっつけた?なんて思ったボクが甘かった。
奴はぐらりとお互いに支えあうようにもたれかかったかと思うと、その接着面からどんどんと癒着していき、あっという間に元通りの形になってしまったのだ。やばいなーこれはちょっと洒落にならない再生力だなぁ。
『だから言ったじゃないですか、戦っちゃダメだって。あいつは私と戦った時もああやって削れては再生し、割れてはくっついて治ってしまうのです。今からでも遅くはありません。奴とつかず離れず沖合に向かって誘導しましょう』
ボクは少し考える。
「でもさ、それって問題先延ばしだよね?確かに今友里たちを逃がすにはいい案かもしれないけど、今度あいつがまた現れた時にはもっと大きくなってる可能性もあるんだよね?そしたら今よりきっと倒せなくなっちゃうと思うんだけどな」
『・・・それは、確かにその可能性も無きにしもあらずですが・・・』
「一応今の攻撃も再生はされたけど、少しダメージ受けたと思うよ?あいつが何個分の塊魂で出来てるかはしらないけど、さっきのでもだいぶ壊れた感触があったし、続けてればいつかなくなるんじゃない?」
『それまで体力が持てば良いのですが・・・』
「大丈夫だよー、まだまだ戦えるし。いろんな攻撃して一番効率のいい倒し方考えよう」
ボクはそう言うと再び水の鞭を作り出して奴にぶつける。唸りを上げて巨人級に迫りゆく水の鞭。
だけど、ボクもエレスも奴の学習能力をちょっとなめてた。あいつ鞭が当たる瞬間に自分から真っ二つに割れた。そりゃもう潔いくらいにぱっくりと。
ただただ綺麗に割れていくその様子を見てるしかなかった。
やっぱりさっき攻撃した時はダメージがあったからか、同じ攻撃は二度と喰らってくれないらしい。
ならばと、今度は土の精霊に呼びかけて奴の足元から、砂の槍が何十本と上に向かって飛び出した。
しかしさっきの鞭と違って攻撃速度が遅すぎるためか、奴の身体を貫いているものの、なんらダメージを受けた様子が無い。
「鞭は避けれなかったからダメージがあっただけだね・・・」
『ですね、砂の槍は遅すぎてたぶん包みこまれた感じですね、攻撃来ます』
エレスの警告に奴を見ると、さっきの砂の槍を途中でへし折って、身体の中に取り込んでいる。そして身体の中で向きを変えてこちらに先端の向けてくると、そのままミサイルのように飛ばしてきた。
「くっ!まさかこっちの武器を再利用されちゃうとは、ねっ!」
ボクは飛んでくる砂のミサイルを避けまくる。一本のミサイルとすれ違った時、突然ただの砂だったはずのミサイルが爆発する。
爆発自体はダメージが無かった。が、その砂煙で視界が塞がれて隙が出来てしまったみたいで、そのあとから飛んで来た砂のミサイルが何発かボクの身体をかすめていった。
『大丈夫ですか、ご主人様』
「ああ、なんとかだいじょぶ!」
『ご主人様!前!!』
エレスの警告は間に合わず、砂煙を突き抜けて奴の触手がボクの足に絡みついた。そしてそのまま振り回されると、とんでもない速度で景色が流れ、次の瞬間には海面に叩き付けられていた。
まるでさっきの水の鞭の仕返しと言わんばかりの行動。水面はコンクリートのような硬さでボクの身体を受け止めた。
「ぐっ!!やってくれるじゃない!!」
ボクもかなり頑丈なので、叩き付けられたことによるダメージはさほどない。が、さすがにノーダメージとはいかなかったようで左腕が上がらなかった。
『関節がやられましたね。修復始めます、約50秒で完治します』
50秒か・・・早いほうだとは思う、思うけど今の状況がやばすぎる。
なんせ奴の触手がボクの周りを取り囲んでひゅんひゅん言ってるのだから。
「完全に取り囲まれちゃったな……」
『ええ、しばらく力場を展開して、完治するまで凌ぐしかないかと』
凌げるのかね・・・確かに耐えることはできると思う、思うけどあいつが攻撃の隙を作るとはイメージできない。なんせあの本数の触手が順番待ちしてるからね、次の順番を待ちわびてることだろう。
「たはは……人気者はつらいなぁ」
『冗談言ってる場合じゃないですよ?』
次の瞬間、すべての方向からレーザーのような高圧の水が打ち出される。背中の翼を力場に変えて自分を丸く包みこむ。力場が閉まると同時にぶつかってくる大量の水。
「なんかガソリンスタンドで車に乗ったまま洗ってもらう時ってこんな感じだよねー」
『これが力場ではなく、乗用車の類でしたら、今頃粉々に切り刻まれてお魚ちゃんのご飯になってますけどね』
「あははは・・・こわっ」
その攻撃はしばらく続いたが効果が無いと解ると、触手で力場ごと包み込まれた。
握りつぶす気かな?そのまま上に持ち上げられる感覚があったかと思うと、どぷんっと何かに沈められる感覚が今度はあった。触手が解けていき、視界が広がる。
なんだか濁ったような半透明の水の中にいるような感覚だったので、力場ごと浮き上がろうと丸かった力場を尖らせていく。
そして、一気に浮上しようと飛ぶのだが、何かに捕まってるように微動だにしない。
「エレス・・・これってひょっとして・・・」
『はい、大変不味いですね・・・いやご主人様は美味しいかもしれませんが、状況が不味いです。捕食されてしまったようです』
やっぱりー、この粘度の高いゼリーみたいなのは奴の身体の中だった・・・。
しかもなんか、飛行機の残骸みたいなのあるし・・・かなり溶けちゃってるけど。
んん??溶けちゃってる?ってことは今ボク達って消化中?
『どうやらそのようです。しかも普通の消化液じゃなくて、奴らの魂を使っての分子分解的な消化らしいですよ?』
ということは・・・?
『どんなに頑丈なものでも徐々に分解されていくということです。おそらく詰みですね。ご主人様、短い間でしたがとても楽しかったですよ?』
「ちょーーーー!!あきらめるのはやっ!!まだ溶けてないじゃん!力場頑張ってるじゃん!!あきらめんなーーーー!」
『しかし、その力場も風前の灯ですよ?ホラ、隅っこの方ちょっとずつ変色してます』
ほんとだ!!やヴぁい!!どうしよ!どうしよ!!どうしよ!!!
ボクは自分の中で出来ることを一生懸命に考えた。
『力場が溶けるまで、あと五分・・・』
あせらせるなよ!もうっ!!
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。