友里、修学旅行に行く その5
短いです、すみません。
生き物のように蠢いてものすごい勢いで流れていく雲を見ながら、友里はため息をつく。
「はぁーさすがにこれだけ荒れちゃうと、なんもできないねー」
「だねー、せっかく可愛い水着買ってきたのになー」
友里の隣で真弓がスマホでゲームをしながら答える。
遠くからパタパタとスリッパを鳴らして走ってくる音がする。
「ゆうりどのーまゆみどのー大変ですぞー」
薫子がスマホをふりふり近づいてくるのがみえた。
「どしたん?そんなに慌ててー」
薫子は近くまで来ると、乱れた呼吸を整えつつ、二人にスマホの映像を見せる。
「いま、ニュース見てたらすごい大きな未確認生物が沖合にいるそうですぞ!しかもこっちに近づいているらしいですぞ!あぁ、やっとこの目で未確認生物を見ることが出来るのですなぁ」
あきれたような目で薫子を見る、友里と真弓。
「はぁーまた始まったよ、薫子の未確認フェチが」
「しょーがないよ、元々ああいう怪物っぽいの好きだもんね」
薫子は自分の肩を抱きつつぐねんぐねん体をくねらせて喜びを表現している。
「ちなみに今どの辺にいるの?」
友里は心の中で、結構やばいのかな?ひょっとしてヒカルちゃんきちゃうのかな?などと思いながら、薫子に聞いてみる。
「さっきまでは沖合5㎞のところで動かなかったんですが、大国の空軍の攻撃で活性化してこっちに向かって、動き出したらしいですぞ、何やら島の反対方向に避難しないといけないっぽいのですが、まだ連絡が行き届かなくてホテルとかは遅れてるみたいですな」
「それって結構やばいんじゃないの?どんだけの速度で動いてるか知らないけど、こんな海が見えてるホテルなんてめっちゃやばいじゃん」
「ふむ、今沖合3㎞まで接近してるそうですぞ、ちなみに未確認の大きさは300mと今まで発見された未確認の中でも最大の大きさらしいですぞ」
(そんなおっきい敵なんて、大丈夫なのかな?ヒカルちゃん来たとしてもどうにもならないんじゃ)
友里は人類より自分の大切な人が大事である。あの親にしてこの子ありといったところだろうか。もしヒカルが傷つくくらいなら、戦わずに逃げてほしいと思うくらいである。
ぷるるるるるるる・・・
そんなことを考えてたら、友里のスマホが鳴った、ヒカルからの着信である。
そそくさと、二人の友人から離れてスマホを通話状態にする。
「もしもしーヒカルちゃん?」
『あ、友里?無事だった?なんか侵略者が出ちゃってさーすっごいでっかいの!今からやっつけに行こうと思ってるんだけど、その前にエレスから伝言があるんだって』
「ふえ?なになに?」
『えっとね、昨日渡したブレスレットあるじゃん?なんかね、危なくなったら空に向かってかざせってさ』
友里は自分の左腕にはまったブレスレット(数珠)を見る。
「えっと、かざすだけでいいの?これを」
『うん、危ないときしか反応しないみたいだけど、守ってくれるらしいよ?』
「ふーん・・・わかったよー。あ、ヒカルちゃんなんか敵って300mもあるらしいけど、だいじょぶなの?怪我とかしない?死んじゃやだよ?」
『・・・・うん、だいじょぶだよ。ママとも約束したからねー絶対に帰るって。それよりも避難の準備とかできてるの?』
「ううん、なんかまだこのホテルは全然そういうのないんだ。ひょっとしたら島民の方が優先されてるか、もっと海に近いとこの避難が先なのかもね」
『そっかー・・・まあしょうがないけど、なるべく早く着いてボクが倒すよ、あはは』
「うん、信じてるけど、無理だけはしないでね」
『うん、わかってるよ。じゃあ加速するから切るね』
友里は、スマホを切るとポケットにしまいこみ、二人の元に戻る。
「ヒカルさん?なんだって?」と、真弓が聞いてくる。
「うん、なんかニュースみて心配になって電話かけてきたみたい」
「むふー愛されてますなぁ、うらやましいぃ」
三人がきゃいきゃいはしゃいでる頃、沖合では巨人級と航空部隊が戦闘を繰り広げていた。
打ち込まれるミサイルをその体にめり込ませ、溶かして吸収しつつ、海面から湧き出した触手からは高圧水流による攻撃を繰り返す巨人級。
航空部隊はそのレーザービームのような水流を躱しつつ、ミサイルや機銃の攻撃を繰り返す。
両者とも一歩も譲らないように見えるが、実は航空部隊の方が焦っていた。
何故なら、巨大な生物は着実に島に向かって近付いているからだった。確かに牛の歩みほどの速度なのだが、上の部分は攻撃しつつ、海面より下の部分は独自に歩みを進めているのだ。
それは人の味を覚えて求めるが故なのか、それとも人の魂を輪廻の輪から外すという使命を思い出したからなのかは解らないが、どちらにしても、食い止めよう、せめて進行方向を変えようという航空部隊の思惑が叶うことはないようだった。
そんな、どちらとも決定打にかける攻撃を互いに繰り返していたのだが、巨人級の攻撃がふと止んだ。
怪訝に思いながら、編隊を整え巨大生物の周辺を旋回しつつ様子を見ている航空部隊。
再び、生物が動き出したが、今までと少し様子が違った。
今までうねうねと、それぞれが勝手に動き回っていた触手だったのだが、その触手が数十本現れたかと思うと、綺麗に縦一列に整列したのだ。そして自分の周りを飛び回ってる航空部隊に合わせて動きながら、高圧水流を斉射したのだった。
そこに出現したのは、逃げ場の無い、水で出来た格子だった。
巨大なだけで下等な知恵しか無いと思われていた生物は徐々に学習し始めていたのだった。
効率よく敵を屠る手段を、自分の本来の使命を遂行するために何処に行けばいいかを。
水の格子が通り過ぎた後には、賽の目に刻まれた航空部隊の残骸が空中で分解するのみだった。分解した機体の成れの果ては、島に流星のように降り注ぐ。
巨人級は島まで2㎞の位置まで近づき、その姿は島からでも目視できるほどになっていた。
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