友里、修学旅行にいく その4
短いので連続です。
その生物は沖合5㎞位のところに浮いていた。
ひょっとしたら海底に足がついてるかもしれないので、浮いてると言うと語弊があるかもしれないが、小山のような半透明の体を海面に晒している。
哨戒機だろうか、少し離れてその周りを何機かヘリのようなものが飛んでいる。
『報告します、依然対象は沈黙を保っています』
『了解、そのまま各機補給まで監視を続けて下さい』
『了解』
不気味なほどの沈黙を保ちながらも、その生物らしきものは、圧倒的な存在感を醸し出していた。
『しかし一体こいつは何なんだろうな』
『一応上の方の判断では、本島の方でちょくちょく現れてる「未確認生物」ってやつらしいんですけどね』
『このまま大人しくどっかに行ってくれるってことはないんだろうなぁ』
とりあえず、3台の哨戒機は、まだある補給までの時間を監視に充てることにした。
その時空気を切り裂くような『ギィイイイン』と言う戦闘機特有の、ジェットエンジンの音が辺りに響き渡る。
『っち、まさか出てきやがったのか』
『まあ、基地が有りますからね、出てきますよ、あいつら』
それは沖縄に基地を持つ、大国のマークが付いた戦闘機の集団だった。様子見などする気が無いのは、翼の下に搭載数一杯に着けられたミサイルが物語っている。
『おいおいおい、あいつら寝てる子を起こす気じゃあるまいな?』
『いや、起こすどころか永遠に寝かしつける気じゃないですか?』
大国の戦闘機集団は、巨大な円形の生物の周りを、大きく3周程すると、一度距離を取った。
そして、三角の編隊飛行の形態を取りつつ一定の距離に来ると、各機から二発づつのミサイルが発射される。
『何も警告無しでぶっぱなしやがったぞ!?あいつら』
『本部より通達。哨戒機各機前線より後退してください。繰り返します各機後退してください』
『本部、順番が違うんじゃないか!?全員下がれ!!』
『了解!!』
戦闘機より発射された合計10発にミサイルは、目標に吸い込まれるように、全て命中した。
しかし、命中したミサイルは爆発することもなく、目標にめり込むと、その推進燃料を使い果たして停止してしまう。
『なんで爆発しないんだ??』
弾頭が命中した時点で爆発するはずなのだが、依然ミサイルは沈黙したままだ。
しかし、動きがあった。ミサイルが再びめり込み始めた。
いや、よく見ると少しづつミサイルの輪郭がぼやけ始めている。どうやら、溶かされて吸収され始めているようだ。
『ミサイルってスナック菓子か何かで出来てましたっけ?』
そのあり得ない光景を前に、同僚が思わず冗談めいた皮肉を言った。
再び編隊飛行をしながら、未確認生物に対して攻撃姿勢を取る戦闘機たち。
その時、変化が訪れる。巨大なドーム状の生物の表面がじわりと波打ったのだ。そして、ドーム状の体と海面の境界付近から、無数のそれこそ一本が電車程もある透明な触手が湧き出してきた。
『変化有り!対象が動き出した!』
うねうねと蠢く触手の先が、戦闘機に狙いを定める。距離的に届かないだろうと、高度を上げて鷹をくくっている戦闘機に、触手から一条の線が走った。
『レーザー兵器だと!?』
最初何が起きたか解らなかったが、線が当たったとおぼしき戦闘機が音もなく縦方向にズレ始める。コックピットは真っ二つから逃れたらしく、緊急脱出をしてパラシュートで落ちてくる。
しかし、そんな風にゆっくりと落ちてくるパイロットに、触手が伸びてくる。推進力も何もないパラシュートはなすがまま逃げることは出来ない。
そのまま、触手はパイロットを絡めとると、自分の胴体と思われるドーム状の部分に押し付ける。パイロットは先程のミサイルと同じ運命を辿るしか無くなった。
声は聞こえない、しかしコックピットの椅子ごとゆっくりと、沈み混んでいくのが遠目にも解る。
『パイロットが1人喰われたぞ・・・』
人の味を覚えたわけでは無いだろうが、再び触手がうねうねと動き始める。
触手は各々戦闘機に先を向けており、幾条もの線が連続して走る。さすがに戦闘機集団も一機やられたことにより警戒してるので、そう簡単には当たらないが、これで距離や高度の有利は潰されてしまった。
そして何発も放たれたことにより、レーザーだと思われていた線の正体が、実は超高圧で発射された海水だった事が解った。
事態は最悪である。レーザーなら減衰による無力化など、取るべき対策はいくらでもあるのだが、海水となるとそれはただの質量兵器と言うことになる。つまり、通常に射程はあるのだが、水蒸気や煙幕などによる熱量やエネルギーの減衰が出来ないのである。
しかも奴は海水にその半身を浸けているので、弾切れも無いと言って良いだろう。
此方の攻撃は通じない、飛び道具は無限に等しく撃てるとなると、超長距離からの攻撃などしか攻撃手段がなくなるが、その攻撃も先程飲み込まれてしまったミサイルを考えると、あまり有効な攻撃とは言えないかもしれない。
しかも台風が接近し始めているので、哨戒機達もそろそろ飛んでいるのが辛くなり始めていた。
これで奴が移動し始めたら、どうしたらよいのだろうか。
『そろそろ補給もある、風も強くなってきたし一旦帰還する』
哨戒機が島に向かって戻り始めると、戦闘機達もそれにならってか、帰還し始める。当然戦闘機の方が速度が速いので、哨戒機が置いていかれる形になるのだが。
うねうねと戦闘機を求めていた触手が、島に帰る戦闘機を名残惜しそうに追いかける形で、島のある方向に伸ばされる。信じられないことに、その触手に釣られて巨大なドーム状の体も島に向かって動き始めた。
『お、おい、奴が島に向かって動き始めてるぞ!!』
『このままじゃ、島の人間も喰われるぞ』
『あの速度ならまだしばらく時間はかかるだろうから、とりあえず、補給だけすませてどうにか此方に興味を持たせるしかないだろう』
『どうやって?人間でもぶら下げて飛ぶのか?』
『わからん、わからんが奴が大国の攻撃で動き始めて、パイロットを喰って飛んでる物に興味を持ったのは確かだ、その辺を利用するしかあるまい』
『・・・了解』
台風が近付いて来て、暴風が吹き荒れる空に、嫌なプレッシャーを感じつつ、全ての機体は帰還するのだった。
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