友里、修学旅行に行く その3
次の日、優と二人で朝食を食べながらニュースを見る。
お天気コーナーでは笑顔のお天気お姉さんが、先っちょに太陽マークがついた棒をふりふり、日本列島の北から南までのお天気情報を伝えていた。
「あーあ、台風は沖縄に上陸しちゃったかー、友里だいじょうぶかしらね。しょげてなきゃいいけど」
「そうだねー、せっかくカメラ届けたのに風景撮れないねー。でもあの子、こういうのではメゲないから、きっと出かけられないならそれはそれで、お友達と楽しんでると思うなー」
あの子は自分で失敗したとかそういう時は落ち込むけど、自然のせいとかもうどうしようもない事では落ち込まないんだよねー、だからきっと大丈夫。まあ明日には台風も過ぎちゃうだろうから、三日全部潰れるってことは無いでしょ。
二人でトーストをむぐむぐとかじりながらそんな会話をしてると、『メールダヨ』と友里からのメールが届いたらしい。んーなになにー?なんだって?
『すごーい暴風雨だー。こんなのウチのとこでは見たことないよー、すごいよー、ある意味貴重な体験だよー。高波もほんとにたかなみっ!って感じだし、ホテルから動けないけどおもしろーい!』
やっぱりねー、これ以上無いくらいに楽しんでるわー。まあこっちじゃまず台風なんて来ても、ちょっと風が強くなるくらいで、大したことなく終わっちゃうもんねー。まあ楽しめたならよかったね。
『興奮して外に出て遊んじゃだめだからねー』と返信しておくと
『わかったーょ( ̄▽ ̄)ゞりょっ!!』と返ってきた。
さて、仕事にいこうかなーと思ってると、突然テレビから慌てたようなアナウンサーの声が聞こえてきた。何事?と思って優とテレビの前に行くと沖縄の台風の映像を前に、とんでもないものが映っていた。
『皆さまに避難勧告です、台風が現在停滞している沖合に、未確認生物と政府から発表された生物と、恐らく同じ物と思われる巨大な生物が現れました。その大きさは航空部隊、およびレーダーでの索敵による情報から推定300m超との発表があり、自衛隊による迎撃を行うと共に、沖縄に現在いる人たちの避難を優先させるとのことです。しかし台風の影響の為、空路、海路ともに少々困難な部分もあり・・・』
なんかえらいことになってる。ナニあのでかい侵略者、今まであんな大きさ見たことないよ?
プルルルルルルルル・・・とボクのスマホが鳴った。表示を見ると鷹村と表示されていた。
「はい、もしもーし」
『おお、ヒカルちゃんか、今日は会社来なくていいぞ!』
「うぇ?なんで?」
『なんだニュース見てないのか?沖縄に行ってるんじゃないのか?友里ちゃん』
「う、うん。行ってる確かに大変だけど・・・いいの?行ってきても」
『ああ、もちろんだ!お前は家族のために生き返ったんだろ?だったら行かなきゃ生き返った意味ないよな?どうせ少しくらい仕事溜めても、お前ならすぐに終わっちまうだろ?それに友里ちゃんになんかあったら後悔するだけじゃ済まなくなるぞ』
「そっか・・・そうだね!ボクのアイデンティティにかかわるもんね!じゃあ、今日はお言葉に甘えさせてもらうからね!行ってくる」
『おう!行ってこい!!』
優を見ると、ボクの方を見て微笑んでいた。
「ホントにいい上司だけど、鷹村くん、ヒカルちゃんにダダ甘ねぇ、ふふ」
うん、この甘さはちょっと問題あると思うよ?ボクもね。まあ助かるから言わないけどね。
「だけど、確かにあんなのが出ちゃったらとてもじゃないけど楽観できないね・・・、すぐにでもいかなきゃ。でもアレはなんなんだろ?クラゲ?ウミウシ?」
『ご主人様・・・よろしいでしょうか』
ん?なんだか珍しくエレスの声が沈んだ感じがする。どうしたの?
『現地に行くなとは言いませんが、「アレ」と戦うのはおやめ下さい』
「へ?なんで??」思わず声に出してしまう。
『アレは・・・「ギガント級」です・・・近づいてはいけません』
ぎがんときゅう?なにそれ??
『巨人です、しかも私がアレと戦った時より数段大きくなっています。まだ50m級だった
時ですら、私は封じ込めることしか出来なかったのです。ですからお嬢様を助けたら、すぐにでも離脱することをお勧めいたします』
え?それって、友里以外は見捨てて逃げろって言いたいの?
『いえ、そこまでの事は言いません。言いませんが、戦ってはいけません』
何やら、エレスの言葉の端々から怯えの様なものを感じる。
「なんで?なんでそこまで戦うのを避けるの?ボク強くなったんでしょ?二人合わせたら強くなれるって言ったじゃない。現にいろんな能力使えるようになったんでしょ?だったら前よりも勝てる可能性だってあるじゃない」
『確かに、以前の私単体よりも強くはなっています。しかしアレは別格なのです。ひょっとしたら百以上の奴らの魂が使われてる可能性があります。以前私が戦った時も、その場で憑依できる一番大きな岩盤に合体して、それでも足りずに岩盤ごと奴を巻き込んで封じたのです。おそらく奴らはそこから出てきてさらに成長したものと思われます。しかも先程の情報ではあの時よりも6倍以上の大きさになってます。いかに私たちが強くなろうとも勝てません・・・』
嫌な沈黙がその場を支配する・・・
「きっとその100以上の奴らが使われてるっていうのは正しいかもしれないね・・・もともとクラゲとかって群体っていうものから出来上がるから、『使われた』って言うよりは『集まった』って言ったほうがいいのかもね・・・。エレスがそれだけ大変だったんだからきっと勝てないかもしれないね」
『で、では戦いを回避していただけるのですか?』
エレスは、まだちょっとボクの事を理解してないなぁ。
「あのね、エレス。勘違いしてるようだから教えてあげるね。ボクはエレスの事も家族だと思ってるから」
極力優しい声音で語り掛ける。
「家族を守るってことは、その周りの環境も同時に守らなきゃいけないんだ。例えばもしエレスの言ってる通りに友里だけを助けて『逃げ帰った』としようね、その後友里はどうなる?友達が奴らに殺されてしまうかもしれない状況で、友里だけ助けたとして、あの子がまともでいられると思うの?笑って過ごせると思うの?」
『そ、それは・・・』
「きっと優しいあの子の事だから、そんな状況で笑える訳はないよね。だったらボクは丸ごと守るよ?優と友里二人、彼女たちを取り巻くすべてのモノをね。だからボクは行くよ、奴を倒しに」
『……わかりました。私もあなたと同化した時に覚悟を決めるべきだったのですね……、あなたが意外と欲張りだったのを忘れてました。ですが、絶対に無茶だけはやめてください。不死に近い存在とはいえ、精神的に死んでしまったらさすがに肉体が生きていても「死」と同義です。アレはそれが可能な存在とだけ伝えておきます』
精神的に殺す?どんなふうなんだろ?まぁ気をつけよう、エレスが無駄に怖がらせるとは思えないしね。
「よし、そうと決まったら、早速行こうかな。一応沖合で動いてないけど、いつ動き出すかもわかんないしね」
「でも、エレスが言ってたこともあるから絶対に危なくなったら逃げてね……あなたがまた帰ってこなかったら、私もうほんとに生きていけないからね」
「うん、わかってるよ、二度と悲しませるようなことはしないよ……」
ボクは胸の内に固く決意した。
絶対に帰ってくると。
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。