友里、修学旅行にいく その2
意外と長くなりました。
ボクはツナギじゃ目立っちゃうので、観光客みたいなちょっとよそ行きな感じの服に着替える。
七分丈のパンツにシャツ、そして黒い薄手のショールみたいなのを肩にかけて、赤いデッキシューズを履いて爪先をトントンっと鳴らす。
「じゃあ、行ってくるけど、渡した後着替えに帰ってくるからねー」
と、優に声をかけると、ボクに一万円渡してきた。
「これで会社とウチにお土産買ってきて。信玄餅かなんかで。あ、あとほうとうの乾麺も有ったら買ってきてね」
どうやら、今日の晩御飯はほうとうらしい。
鶏出汁で作ると美味しいんだよねぇ。
「うん、わかったー、いっぱい食べるの?」
「んー職場にも持って行きたいから五個くらい買ってきてもらっていい?」
「あいあーい。じゃ行ってきまーす」
そう言ってボクは玄関を出ていつものように庭の方に回り込む。
最近は通勤の時もそうなのだけど、翼は出さない。
とりあえずジャンプだけで100m上空までいってしまえば、誰の目にも止まらないことが、この前の会社での騒動の時に解ったんだよね。
ボクは優に手を振って微笑むと、ちょっとだけ溜めを作り、次の一瞬で上空100mまで一気に浮上する。
その際地面に対して慣性制御を使うのを忘れちゃいけない。
使わないと、地面が陥没しちゃうからね。
上空まで来てしまえば、後は翼を出しても問題ない。
みんなに聞いたら、意外とこの翼が出る時の光りが目立つんだそうで、庭で出してから消えてもダメなんじゃない?との御意見をいただいちゃったのだ。
まあ、確かに此方のほうがボクも楽チンなんだけどね♪
さーって、とりあえず翼を、力場にして自分を包み込むと、光学迷彩で透明になる。
そしてポケットからスマホを取り出してGoog○e先生を起動する。
マップをクリックして現在地を指定。
これでどっちに飛んでいけば高速道路にぶつかるか解るはず。
ボクは、くるーりと180度反転して、北東に向かって進路を取る。
「でわでわ、しゅっぱーっつ」
一人だけどノリノリで加速し始めた。
通勤で毎日のように飛んでいるので、最近は加速もゆっくりじゃなくて、一気にトップスピードまで上げれるようになった。
加速し始めて約十秒、一瞬の抵抗を感じるとスパーーンって感じに抵抗を突き破るような爽快感が訪れる。
俗に言う『空気の壁』ってヤツなんだけど、ボクは連続して白いリング状の雲を引き連れながらグングン加速する。
会社行く時だと、すぐに到着しちゃうからこの加速の快感はなかなか味わえないんだよねー。
いつか優と飛んでみたいんだけど、きっと気絶しちゃうよね?
力場の中は加速の時のGも無ければ酔うことも無いから快適そのものなんだけどねー。
山を三つ位一気に越えると、山の間を蛇のように進む灰色の道が見えた。
スマホのナビを見ると目的の高速道路の名前が出てる。
高速道路に交差すると、直角にまがり東に向けて高速の上を飛び始める。
この速度でほぼ直角に曲がるなんて慣性の法則を無視しない限り無理だろうね。
下の車を見ながら飛んでいると、地元のバス会社の見馴れたカラーリングが目に入る。
4台で連なってるから間違いないだろうね、確か友里達の学年は4クラスだったし。
一応確認のために前に回り込んで、バスのフロントガラスに書いてある札を見てみると、『晴峰女子高校 修学旅行御一行様 2-2』と書いてあった。
うん、間違いないみたい。友里は確か三組だったので、このバスの後ろにいるのかな?少し減速して1台後ろのバスの前に移動する。
札には『2-3』と書かれているので、このバスで間違いないかな。ボクはバスの周りを移動し始める。
先頭から真ん中辺りまでバスの左側を、滑るように移動していくと、ちょうど窓側の席でボーっと外を眺めてる友里を見つけた。
隣の席には真弓ちゃんがいて、何やら一生懸命話しかけてるようだけど、当の本人は落ち込んでるのか、曖昧な相槌を打って外を眺めてる。
目の前にボクがいるなんて思ってもないだろうからね。
昔からこの子は、一旦落ち込むとなかなか浮上してくれないんだよね。
このモードになっちゃうとかなりめんどくさい子なんだけど、それでもこうやって友達が離れていかないのは、人徳なのかな。
普段はいい子だもんね、最近ちょっとアレなことがあるけどさ。
ちなみにボクはこのモードの友里をいち早くご機嫌にさせるのを、誰よりも得意としてるのだよ、むっふぅ。
(誰に見せるわけでもないけどドヤ顔)
友里の横を並走(飛?)しつつ、少しだけ光学迷彩を荒くする。
するとあら不思議、某マッチョなアーノルドさんが出てた映画の宇宙狩人さんのように、少し後ろの景色との間に違和感が生まれるじゃあーりませんか!
友里はボーっと外を見ていたのだけど、次第に訝しげな顔で外の景色を見始める。
眉間にシワを寄せて、ナニかがそこにいる違和感に気付く。
こちらに注目してくれたのなら後は簡単で、真弓ちゃんが一瞬向こう側の席の子と喋るために、あっちを向いた瞬間にボクの顔の付近だけ光学迷彩を薄くして、友里の前に見えるようにして、ヤッホーと手をフリフリする。
ビタン!っとガラスにぶつかるかのような勢いで、顔をくっ付ける友里。
ボクはフフっと微笑むと、他の子に見つかる前に再び迷彩の歪みを直して完全に消える。
そのままバスの上に移動すると、小判鮫のようにバスの屋根の部分に、力場を固定してスマホを手に取る。
『次の休憩でカメラ渡すね』と、友里にメールを送る。
すると1分も経たずに返事が来た。
『ありがとぅー愛してるぅー(はーと)』
ふふーほらね、もうご機嫌になった♪後は渡せば完了だから先に行ってお土産買ってようかなー。
『次の休憩、談合坂でよいよね?』と、メールを送る。
『うんうん、そーだよ』と返事が来る。
おそらくバスは後、30分位はかかるはずだから、先に行ってお土産買う時間は余裕でありそうだ。
『じゃ、ちょっと先に行って買い物してるネ』と打つと
『えー、いっちゃうのー』とちょっと拗ねたような返事が。
んーしょうがないなーちょっとだけスゴいの見せるか。
『今からそにっくぶーむ見せてあげるからいい子にしてて』
そうメールを送ると、スマホをしまってかなり後ろまで、加速するために一旦距離を取る。
ボクは少し高速道路から距離を空けて、加速を始める。
そのまま一番後ろのバスに追い付く位の位置で、空気の壁にぶつかると、そのまま突き抜けるように再加速する。
ズッバァァン!!と言う音とがすると、ちょうど友里が乗ったバスの横辺りから、白いリングが発生する。
普通ならジェット機がいて、その周りにリングが見えるのだけど、ボクは今透明になっているので、超高速で飛ぶリングしか見えないという、摩訶不思議な現象がバスからは見えてるはずだ。
そのままリングをお供にあっという間に飛び去るボクのスマホに、友里からメールがきた。
『なに今の!?すごーい!!クラスの子もみんなビックリしてたよーー!?』
おお、ウケたウケた(笑)
『へへースゴいでしょー、じゃあ後でねー』
返信した頃には、目的地の談合坂に着いちゃったけどね。
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ボクは優に言われた物の他に、二、三個気になったお菓子があったので、買い込んで手提げの紙袋を二つばかりぶら下げていた。
途中で売ってたフランクフルトを、買うか買うまいか少し悩んでじーっと見ていたら、何故か店の兄ちゃんが真っ赤な顔で、「こここここれよかったりゃたべてくりゃれ!!」と謎の言語を発しながら二本差し出してきたので、今はベンチに座って、それをもっきゅもっきゅ食べていた。
男の時はこんなサービス受けたことなかったけどなぁ。
二本目を食べようとフランクフルトを手に取ると、少しばかり離れて周りに人垣ができてた。それも若い男ばかりが何故か。へんなのーって思いながら足をぱたぱたさせてると、地元のバスが入ってくるのが見えた。
むぅー人垣で友里が見えないじゃないか、しょうがないので立ち上がり歩き出すと、人垣が割れていく。
ボクはモーゼか?そんなこと考えながら人垣の間を歩いていくと、その先にちょうど友里がいた。
他の女子高生も、人垣の間をテクテク歩いて現れたボクに、「ナニモノ!?芸能人?」みたいな視線を投げ掛けてくる。
ちょっと照れちゃう。
友里はボクに気付くと、ぱぁっと笑顔になりそのまま割れた人垣の向こうから走ってきた。
そのまま目の前まで走ってきて止ま……らない!?ボクを押し倒さんばかりの勢いで抱きついてきた!
周りからどよどよとざわめきが聞こえる。
友里だってどこに出しても恥ずかしくないくらい可愛い外見をしてるのだ、そんな女の子がこれまた人垣を作ってた美少女に抱きつけばどよめきも起こるだろう。
「ヒカルちゃんヒカルちゃんヒカルちゃんヒカルちゃんヒカルちゃんヒカルちゃんヒカルちゃんヒカルちゃんハァハァ」
友里はボクに抱きつくと息をハァハァと荒げて、頬擦りしながら名前を呼び続けてた。
うん、端からみたらかなりアブナイ子だね、落ち着け。
ボクは興奮してる友里をべりっとひっぺがすと、おでこに軽くチョップをして落ち着かせる。
赤くなったおでこを擦りつつ、友里が我にかえる。
「はっ余りの嬉しさと興奮が溢れ出してしまった」
うん言わなくても解るから。最近結構そんなだから。気にしないで。
とりあえず、どよめき続ける周りは無視して、話を進める。
「はい、これ忘れ物。だめじゃん、せっかく撮りまくるって言ってたのに置いてっちゃ」
と言いながら、ハンディカメラを渡してあげると、受け取った友里は大事そうに胸に抱くと、顔を赤くしながら「ありがと……」と、小さな声で言った。
「ヒカルさんなんでこんなとこに居るんですか??」
ようやく事態に追い付いてきた真弓ちゃんが、ボクに声をかけてきた。
「ああ、この子が忘れ物しちゃったんでねー、大急ぎで届けにきたの」
と、友里の頭をポムポムしながら答える。
「へぇーよく追い付けましたねー、でもよかったですよぅ、この子落ち込んじゃってて、ホントどうしようかと思ってたんです、助かりましたー」
すいませんね、ウチの子が……心配してくれてありがとねー。
1人でも自分の知り合いが喋り出すと、好奇心を押さえられないのが、女子高生だ。真弓ちゃんがボクとしゃべったのを見ると、私も私もと群がってくる。
「あのあの、おねえさん芸能人ですか?」
「徳田様とはどういったご関係ですか?シスターなのですか?」
「あの御姉様、一目惚れなんです、私と姉妹になってくださいませんか?」
ちょっと、恐い。
その時だった、困ったボクとみんなの間に立ちはだかるように、友里が仁王立ちになった。
すぅっと息を大きく吸い込むと
「ヒカルちゃんはウチのだから(自分のって言うと怒られるので)ちょっかい出しちゃだめーーーーーっ!!」
めーーーっめーーーーーめーーーーめーーー・・・
(えこー)
一帯に響き渡る声で叫んだ。
友里がすごい剣幕で叫んだことにより、取り囲んでた人垣も、女子高生達も、なんとなく「あーそういうことなのかー」みたいな、生暖かい反応を残しつつ散っていった。
中にはそういった雰囲気に流されずに、そわそわと遠巻きに見てる人もチラホラいるけど、無視してもいいくらいだと思う。
いまボクのそばにいるのは、友里と真弓ちゃん、そして人垣で近付けなくて、後から合流した薫子ちゃんの3人だ。
「ああ、そう言えばエレスがこれ持ってて下さいって」
そう言いながらボクは、友里に数珠みたいなブレスレットをわたす。
基本がピンクの水晶で出来ており、五ヶ所がそれぞれ、赤、青、金、緑、そして紫の五色の水晶になっている。
ちょっと見、雑誌の後ろに載ってる『これで、幸運が舞い込んできました!!』的なブレスレットに見えなくもないが、そこはそれ、何となく女の子向けに可愛く作られている。
「エレス?どのとは誰ですかな?初めてお聞きする名前なのですが」
薫子ちゃん、聞き逃さないねー。
「えっとねーエレスは、ヒカルちゃんのお友達で物作るのが上手なんだよ」
友里が上手いことはぐらかす。
「ほほーう、でわでわ今度コスプレの小物とかお願いしたいんですが紹介してくれますかな?」
「う、うんまた今度ね、ね?ヒカルちゃん」
「う、うん、ちょっと忙しかったり遠くにいたりだから直接会うのは難しいけど、作るのお願いするくらいならね」
『私の価値が知らないところで上がってますね』
何だか嬉しそうにエレスがボクと友里に話しかけてきた。
心のなかで、「まあそう言うわけだからヨロシク」と言うと、『畏まりました、貸し1つですよ?フフフ』と不気味な含み笑いをしていた。
変なこと言わなきゃ良いけど………。
「さあ、そろそろ休憩終わりじゃないの?」
と、バスの方を見ると、みんな集まり初めていた。
「あ、大変大変、怒られちゃう!じゃ、じゃあ行ってくるねーありがとーぉ」
と言って3人は手をブンブン振りながら、バスの方走っていった。
人数点呼が済んだのか、バスは再び4台連なって出ていったが、見送るボクの方に女子高生の大半が手を振りまくっていたのが、異様な光景だった。
さーて、帰ろっかなーと後ろを振り返ると、またも男達が壁になっていた。
しかもお互い牽制してるけど、今にも喋りかけて来そうな勢いだったので、ちょっと考えた。
ボクは掌を上にしてみんなの前に差し出す。当然みんなの注目はボクの右手に集まった。
そこに水の球がぽよんとひとつ生まれる。
宙にふよふよ浮いてる水球をみんな不思議そうな顔で見つめている。
水球はふるふると振るえながら、バスケットボール位の大きさになると、今度は中にはこぽこぽと気泡が生まれ始める。
段々と膨らみだした水球は、水風船になり、大きさは直径1mくらいまで膨らむ。
ボクは振りかぶって、その水風船を人垣の後ろの方に、ぽーんと放り投げる。
釣られてみんなの顔がふんわり飛んでいく水風船を追いかける。
ある程度飛んだところで、水風船はパンッっと弾けて霧状の水を撒き散らして、いくつもの虹を作り出した。
その幻想的な風景にみんな、ほーっとなっていて、小さい子など、「ままーキレーだねー」と手を叩いてはしゃいでいる。
しばらく漂っていた霧状の水も消え、それと共に虹も消えると、再び注目を浴びるのはその水球を放り投げた主なのだけど、そんな時にはすでにボクは遥か上空に飛び上がっていた。しかも用心して300mまで上がってきたから、余程目がいい人じゃないと見つけられないでしょ。
何人かはボクから目を離さない人がいたけど、秒速300mで動いたボクは消えたようにしか見えないよね。
さて、急いで帰らなきゃ。
家に帰って着替えて出社したら、ちょうど10時だったので、お土産の信玄餅をみんなで食べました♪
うまー。
まだ、続くのです。修学旅行編
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