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閑話休題 ある日の公務員達

23話目の最後に出てきた彼のお話です。

 男は慌てていた。


 自分自身が先程カメラに納めた画像を、一刻も早く上官に見せて報告するためだ。


 少し古めの雑居ビル……というにはそれよりも大きなビルの前に男はついた。胸のポケットからカードキーを取り出すと、建物の入口脇にあるカードリーダーにスライドさせる。


 リーダーの上のランプが赤から緑にかわる。


 扉はその見かけに反して、音もたてずに滑らかな動きで左右に開く。

 建物の外観と弱冠不釣り合いな機能だが、その建物の立地が、ほとんど人通りのない裏通りの為か、それを気にかける者は皆無だった。


 男は開いた扉に入る前に、目だけで左右を見て人が居ないか確かめ、体を中に滑り込ませた。

 男が中に入ると、再び扉は音も立てずに閉まってしまう。

 

 建物の中は薄暗く、人の気配が感じられなかった。

 男は突き当たりにあるエレベーターを何故か上下のボタンを同時に押して呼び出す。

 すると正面のエレベーターは反応せずに、右側の壁がいきなりスライドして、隠れていた別のエレベーターが現れる。

 一体誰がメンテナンスしてるんだろう?と、男は疑問に思いながらも乗り込む。

 エレベーターの階数表示をみるとB1~B10までと、全て地下に向かう階数しかなく、男は迷うことなく自分の部署があるB5のボタンを押し込む。

 わずかな震動と共に起動したエレベーターは、地下5階に着くと扉が開く。

 そこから延びる一本の通路先に、男が所属する部署があった。


『防衛省未確認生物対策部 観察調査室』


 それが男が所属する部署の名前だった。

 秘密にする気があるのか無いのか解らないくらいに、大きな檜の板にでかでかと筆で書いてあった。

 ここまで入ってくるときの、セキュリティから考えたら何も書かないほうがいいんじゃないか?と男は考えたが、自分のような下の者が何を言っても変わることは無いだろうと、早々にその考えを捨てるのだった。


 ドアを開け室内に入ると上官の姿をさがす。

 彼は自分の机の上のパソコンのディスプレイを、食い付くように見ていた。

 そのパソコンのスピーカーからは、時折何かが壊れるような破砕音が漏れ出ていた。


「また未確認生物の動画をご覧になってるんですか?」


 男が話しかけると、彼は視線を少しだけ男に向け


「ああ」と、短く答える。


 彼が見ているのは一般人がネット上流した、未確認生物と、「木人」と呼ばれる未確認生物に対抗している人形ひとがたが、高速道路上で戦闘を繰り広げている映像だった。


「こんなでかいものが出現してるって言うのに、一向に発見出来ないと言うのは、どうしてなんだろうなぁ・・・」


 彼は誰に言うでもなく呟く。実際出てきて通報があった後に対処は日本の中でも何ヵ所か確認されてるのだが、通報される前にレーダーなどの索敵に引っ掛かることがないのだ。

 なのでいつでも後手に回ってしまうことを、彼はどうにかしたいと考えていた。

 このビルの地下10階全てを占めているのは、政府が作った『未確認生物』に対抗するための部署である。

 彼らの部署の仕事は、いち早く未確認生物を発見、その生態などを調査して、その結果を戦闘班や、対抗武器の開発部などに情報を伝えるための役目を持っている。

 しかし彼の視線は、未確認生物よりも、そのお相手『木人』に釘付けになっているようだった。

 一時期、公にはなっていなかった未確認生物を、兵器として利用できないか等の計画が立っていたこともあった。

 しかし未確認生物は、生態活動が停止すると、その元となった生物の本来の大きさに、縮んでしまうことが確認されてる。

 これでは、表向き非核宣言しちゃってる国の、新たなる兵器足り得ないということで、お偉いさん方が悩んでいたときに現れたのが件の『木人』だったというわけである。

 動画に映し出された映像は、ほんの5分ちょっとのモノだったが、それだけでもこの『木人』の驚異的な動きがよくわかる。

 なにせ足払いをかまして空中にいる敵に、浮いてる間に踵落としを決めて地面にめり込ましているのだ。

 例え生身の人間でも同じことをしようと思ったら、それなりの武術家や、一流のアスリートでも無ければ難しいだろう。

 しかもそれを成しているのは、大きさが6mもある木の人形ひとがたなのである。

 もし、人類に某アニメのようなロボットが仮に(・・)有ったとしても、同じ動きを再現するには、あと10年以上は余裕でかかるのではないだろうか。

 そう考えたら、此方のほうが余程、核なんかよりもおとこのロマンが感じられようものだ。

 ちなみに、この『木人』も未確認生物と戦闘して相討ちになった後回収され、徹底的に調べられたのだが、結局あの動きが嘘だったかのように、ただの材木と化していた。

 関節等の連結箇所は分子結合と言って良い位の融合を果たしたままになっており、明らかに人類では再現不可能な、オーバーテクノロジーが使われた事を、如実に語っていた。

 彼はそんな動画を、惚れた相手を見るかの様な熱い眼差しで見続けながら、男に声をかける。


「それで、こんな時間に報告したいことってなんだい?何か面白いものでも見つけたのかな?」


 いいながら、動画の停止ボタンをクリックして男に向き直る。

 男は些か緊張した面持ちで報告を始める。


「本日、いつものようにビルの屋上から、望遠レンズを着けたカメラで監視体制を撮っていたのですが、こんなものが撮れまして……」


 そう言うと男は、胸ポケットからメモリーカードを取り出して、上官たる彼に手渡す。

 彼はそれをパソコンのスリットに差し込むと、外部ファイルを選び、その中に含まれている動画のファイルをクリックする。

 再生が始まると、そこには数人の女生徒らしき者が映っていた。

 映像の中でじゃれあったりしてるような映像がしばらくの間続くと、やがて女生徒は3人は校舎の中に、一人は屋上に残って中に入っていく者に、手を振って見送る様な動作をしていた。

 しばらく見送ったままの姿勢でいた女生徒は、屋上の真ん中まで移動すると、その背中からいきなり光の奔流が溢れだした。

 彼は無言で食い入るようにその様子を見つめていた。

 やがて光の奔流は翼の様な形を作り出したのだが、驚くことにそのままでも飛べそうな翼の形状から、さらに大きく伸び始め女生徒の身体を覆い始めるではないか。

 そして、覆われていくその姿が少しずつ景色に溶け込むかのように消えていくと、そこには何者も居ない屋上だけが撮され、ブツッっと映像が終わるのだった。


「これは一体・・・なんなんだ?」

 

 彼が呟くと、男は慌てて答えた。


「私にも解りません。ただ偶然カメラで見ていたらその光景が撮れたので、ひょっとしたら何かの関係者なのかもと思い報告に戻った次第です」


「そうか・・・御苦労だったね、ところで、この映像は何処かの学校の屋上のように見えるんだけど」


「はい、確かあの位置から見えるとなると、晴峰はれみね女子高校だと思われますが……」


 少し考えるような仕種をすると、彼は男に言った。


「では、少なくともこの学校には3人程の、不思議な能力を持った人間の関係者が在学中な訳だね。ふむ、面白い。何かの調査と称してデータを集める必要がありそうだね」


「はい、恐らく背中に翼が生えておまけに消えてしまうなんて、普通の人間であるわけがないです」


 うんうん、と男の答えに満足そうに微笑むと彼は言った。


「いやぁ大特ダネだよ、すばらしい。これは特別にボーナスとして反省文・・・10枚位でいいかな?」


「え……は、反省文ですか……?」


 男は呆気に取られたような顔で聞き返す。それに対して彼はいつでも笑ったような目を少しだけ開いて、それでいて笑ってない瞳で、男を見つめ返す。


「そう、反省文。いやー確かに撮った内容はすばらしい。拍手喝采浴びてもいいだろうね。だ・け・ど・なんで女子高校の屋上にピント合わせちゃってんのかなぁ?おかしいよねぇ?偶然合ったにしちゃ合いすぎだもの。誰が仕事中に盗撮しろって言ったのかな?と、言うわけで20枚書かなきゃいけないところを、ボーナスとして10枚にしてあげた訳だけど、何か質問はあるのかな?」


 男は撮った物の凄さに有頂天になってしまい、直前まで自分が何の為にそこにピントを合わせていたのかなんて、すっかり忘れてしまっていたようである。


 意気消沈して、背中を丸めて自分の机に向かう男に、彼は声をかける。


「いやいや、そう落ち込む事もないんじゃないの?今度はワザワザ盗撮なんかしなくたって、学校の中まで堂々と入っていけるんだし?調査って目的で触れ合うことだって出来ちゃうんじゃないの?ねぇ」


 男は一瞬彼の言葉に反応出来なかったが、しばらく反芻すると、意味を汲み取ったかのようにニヤっと何とも言えない笑みを浮かべて、ご機嫌に反省文を書き始めるのだった。


 そんな様子の男を楽しげに見つめながら、彼もまた嗤いながら背もたれに体重を預けて呟く。


「こんな部署でも面白いことになりそうだね・・・ククク」

感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。

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