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火葬場にて、誕生?

 ほんとに冗談みたいだった・・・。


 まだ現実に起こったこととは思えない、どこか夢を見てるようだった。


 ふと振り返ったら人好きのする笑い顔を浮かべてそこに立っているような。


 そんな気がしてならない・・・。


 だけど、火葬場に漂う独特の雰囲気と、隣でうつむき私にもたれかかっている、娘の存在感が否応なしに彼がいなくなってしまったんだと、私を現実に引き戻す。


 散々泣いてもう枯れたと思ったはずの涙が、現実に戻ってくるとまたあふれそうになってくる。


 普通なら子供の手前いつまでも泣いてたらいけないんだろうけど、ウチの娘は「泣きたいだけ泣いて?ママ」と私のことを甘やかす。


 本来なら私を甘やかすのは彼の仕事だったのだが、その彼はもういない。


 今頃燃えて灰になりもうすぐ私たちの前に現れるのだろう。


 ほんとに冗談みたいな死に方としか言えない。


 生き方も結構冗談みたいな彼だったし、オタクという生き様を変えることなく悠々と生きてた彼にふさわしい死に様とも言えるかもしれない。


 突然現れた未確認生物の戦闘に巻き込まれて死ぬなんて、なかなかできる死に方ではないと思うひょっとしたら雷に打たれるよりも珍しいんじゃないだろうかと思う。


まあ、それも5日前までの事なのだけれども。

 

 未確認生物が現れるという事件はあれから各地で話題になっている。


 それは様々な形であり、大体が虫や甲殻類の形を模しているらしい。


 一応今のところ国の自衛手段でどうにかなっているようだけれど、彼はその初めてともいえる未確認の出現に巻き込まれたということだ。


 そのおかげとは思いたくないのだけれど、事故に関する交通規制や、その他諸々の補償問題に関しては免除されたらしい。


 でもそんなことはほんとに些細なことで、彼はもういないのだ。


 バカみたいなことを言って私のことを笑わせてくれたり、子供と同じレベルになってはしゃいで遊んで家の中を明るく照らしてくれていた彼は死んでしまったのだ。


 未確認生物などという訳のわからないモノの争いに巻き込まれて・・・。


 館内のアナウンスが流れる。


『徳田 光一様ご遺族様・・・』

 

 どうやら、火葬が済んだらしい。


 もうこれで彼が生前冗談で言ってたように笑いながら生き返るようなことも無くなったということだ。

 

 あれだけ自分は不死身だーみたいなことを言ってたくせに、死んでしまえばこんなものだ。

 

 そんな都合よく変な能力に目覚めたり、生き返ったりなんてするわけないのだ。

 

 銀色の大きなトレイが台車に乗って私たちの前にやってくる。


 そこには彼の遺灰・・・遺灰?遺灰は確かにあるのだけれども・・・遺灰以外のものがある・・・?なんだろうこれは・・・。係員の方に聞いてみる。


「あの・・・すみませんがこれは・・・なんですか?」


 係員も戸惑いを隠せないようで、困ったような表情で答える。


「ええ、すみません。私どももこういった物は初めてでして・・・」


 ソレにちらりと視線を送る。ソレは遺灰のちょうど心臓があった辺りに鎮座していて、目まぐるしく色彩を変えていた。ほんとになんなんだろう・・・これ。


「失礼ですが・・・ご主人はペースメイカーか何かを・・・?」


「いえ・・・そんなものは入れてませんでした。それに私は看護師なのですが、こんなペースメーカーは見たことがありません。」


 それに一応簡単な司法解剖の検査を受けた時にも彼の心臓は、未確認生物の戦闘時の破片で潰されているのだ。まさに即死だったのだけれど、その時も破片も何も見つからなかったと言っていたはずだ。


「まあ、私共も仕事柄色々なものを見てきたのですが、これは初めて見ました。それに・・・ちょっと失礼します。」

 

 そういうと係員は白い手袋をはめて、その色彩の移り変わる直径五センチほどの球体を持ち上げようとする。しかし、どんなに係員が顔を赤くして力を込めても持ち上がるどころか、転がりもしないのだ。


「このようにまるでトレイに溶接でもされてるかのようにビクともしないのです」


 係員は困ったように肩をすくめて言うのだった。


 私は恐る恐るトレイの乗った台に近づいてみた。娘も一緒についてくる。


 台から20センチ程の位置まで近づいた時の事だ。


 『パキッ』何か乾いたものが砕ける音がした。

 

 よく見ると先程あれだけの力を込めていたのにも関わらず、微動だにしなかった球体が転がった気がした。

 

 いや気のせいではなく、彼のお骨を砕きつつ少しづつこちらに転がってきていた。


『パキリパキパキ』


 骨を砕きつつ私たちの目の前まで転がってきてトレイの縁に当たって停まる。

 

 綺麗に七色に輝いているのだが、その美しい色彩さえも不気味に思い、スッと横にずれてみた。


 すると球体もそれに合わせて『ゴリゴリ』と縁に当たりながら移動する。


 もう台が傾いて転がってきたとかそういう偶然では済まされない位動いている。


 どうしよう、私はこういうオカルト的な出来事には弱いのだ。

 

 彼はアニメばっかり見てて、ホラー系とかオカルトな映画とかは見なかったから助かっていたのだけど、まさか死後こんな嫌がらせ?をしてくるとは・・・やっぱりタダじゃ死なない人だ。


 困ってしまって後ろにいた長女の友里ゆうりを見ると、友里も困ったような顔をしてこちらを見ていた。


「どうしたらいいとおもう?」


と、友里に聞くと、フッっと薄く微笑みながら


「笑えばいいと思うよ」


 いや・・・いまそんなネタはいらないよ?娘よ。


 これだから純粋培養のオタクは・・・。


「いやいや、まぢでさー、母さん結構困惑してるよ?どうしたらいい?」

 

 友里がきょとんと小首をかしげて


「とりあえずつついてみたら?なついてるみたいだし」


 えーやだよー、得体知れないじゃんーコレ。


 未確認生物の卵かもしれないじゃんーパクッて噛みつくかもじゃんー。

 

 私は色々想像をめぐらして自分の肩を抱きながらフルフル首を振った。


「母さんさー虫とかダメなんだよねー、ほらこれ丸いけどさーちょっとカメムシみたいな色味じゃん?それになついてるって言ってもあんたになついてるのかもよ?」


「じゃあさ、ママとあたしとで分かれてみようよ!そしたらどっちになついてるかわかるよ!」


 おおう!娘ナイスアイディア!じゃねーわ!さっきまでのチーンとした雰囲気どこ行った?


「ふ、ふーん、いいでしょう。じゃあ母さん右に行くから、あんた左ね!」


「おっけー!じゃあなつかれたほうが触るってことでいいね!」


 なんかこれどっちに転んでも少なからずダメージ受けそうな感じだけどしょうがないね。


 とりあえず係員さんも困った顔で待ってるからやってみよう。


「じゃあいちにのさんで、分かれるよ」


「はーい」


「「いーち」」


「「にーの」」


「「さんっ」」


 バッっと擬音がしそうなくらいの勢いで右と左に分かれる。


『ゴロゴロッガゴンッ!』


 その勢いに勝るとも劣らない勢いでトレイの角に球体がぶつかり停まる。


 私の方の角に・・・。


「あああああぁぁぁぁぁなんでこっちにくるのよぅぅ!」


 うそでしょ!!怖いんですけど!!


「いいじゃーん!パパがママのこと愛してるってことじゃん!わたしなんてこっち来なくてちょっとさみしい・・・」


 と、地味に友里はダメージを受けていた。


 たぶん逆でも確かに私がさみしかったとは思うが。


「さ!ママがなつかれてるんだから、さっさと触ってよ」


 わが娘・・・容赦ないわー、パないわー。


 だけどこっちに来ちゃったものはしょうがないな。

 

 一応彼の体から出てきたものかもしれないしね・・・よく見ると綺麗だし、触るくらいなら平気・・・だよね?

 

 おそるおそる手を伸ばし、指先でチョンっとつついてみる。まるで重さはなくちょっと押し戻されるような感じに球体が転がる。

 

 そしてまたトレイの角にコツンと当たる。なんか犬みたい・・・かわいい・・・かも?私は球体を指でつまんで持ち上げてみる。


 するとさっき一生懸命持ち上げようとしていた係員さんが唖然とする。


「あれだけ力を入れても持ち上がらなかったのに・・・」


 私は手のひらで球体を転がしてみる。心なしか色彩の変化が目まぐるしくなって楽しそうな感じがする。


「これっていただいてもいいんですか?」

 

 と係員さんに聞くと


「あ、ああもちろんですよ、ご主人の体から出たものでしょうからお持ち帰りください」


 私は球体を両手で包み込むようにして持つ。なんだかとても暖かくて・・・彼に触れられてるような気がした。


 プシュッ・・・というかすかな音がして手の中がなんだか熱くなった。

 

 包んだ手をそっと開くと・・・めっちゃ真っ赤だった。

 

 うわうわわっていうかこれ・・・血?私の血?よく見ると人差し指の付け根少し切れてるし!!球体ももちろん真っ赤だ、むしろなんか針みたいの出てるし!お前が犯人か!!


 思わず球体を放り投げる。


「ああっ!パパになんてことを!!」

 

 友里が拾おうとするが、あれは危険なものだ!


「待って!!触っちゃダメ!刺されるから!」


 と友里に言いつつホラッ!!と血が付いた手を見せる。生きてる時には痛いことされたことないのに!


 死んでからやるとはいい度胸だこの野郎!!友里が少し遠巻きに球体を見ている。


「ママ!なんかパパがママの血を吸いこんでるよ!」


 ああ、あんたの中でもうそれはパパになっちゃってるのね・・・娘よ。


 球体に近づくと、すでに針のようなものは引っ込んだのか無くなっていた。


 そして私の血まみれだったはずなのだが、きれいさっぱり拭き取られたかのように一滴もついてなかった。


 自分の手を見てみると血はついてるのだけど、さっきあった傷は跡形もなく消えていた。


 一体なんだったんだろう?痛みも何もないのだけど、手に残った血の跡が夢じゃなかったことを語っている。

 

 球体は激しく点滅してるかのような色彩の変化をしている。

 

「友里触っちゃだめだからね!キズモノにされちゃうから!」


 球体がまるで心外な!とでも言いたげにぎゅるぎゅる回転を始めた。


「友里離れて!」


「う・・・うん」


 回転はますます激しさを増してなんだか煙みたいなものが出ている。よく見ると床材が少しづつ削れて、へこみ始めてるような気がする。


 まさかこれ弁償しろとか言われないよね・・・?


 球体の周りに削れた床材などが集まり始めるとなんだか大きくなり始めた。


「な・・・なんですか!これ!!」


 係員さんも開いた口がふさがらないといった感じだが、こっちもわけが分からないから説明のしようがない。

 その間にも球体は大きくなって、やがて直径1メートルくらいの大きさになると回転が止まった。


「な・・・なんなのよ・・・一体?」


 回転の止まった球体は床材などの色が混じったようなマーブル模様になっている。


 何かの卵のように見えなくもないのだけど・・・などと思ってると


・・・ピシリ・・・


 球体にヒビが入る。


・・・ピシピシ・・・ピシリ・・・パキッ


 ほぼ全体に亀裂が走り、卵の殻のようにどんどんと落ちてゆく。


 殻が落ち切ったところにうずくまっているのは・・・


「石人形・・・?」


 みんなが注目するその中で、その石人形はすっくと立ち上がると小首をかしげながら


 『あっれーーーー?ここどこですぅーー?』


 と、少女ともなんともつかない声でしゃべったのだった。



感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。

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