お仕事しましょ
黙々と溜まりに溜まっていた書類をさばき続ける。
その物量たるや、それこそ漫画によくあるような山積み状態だった。
やっぱり鷹村一人じゃ、この量の書類を捌くのには無理があったみたい。
コレ、ボクが来ることになったから良かったけど、そうじゃ無かったらどうなってたんだろ?
社長としての外回りとか、顔出ししなきゃ行けないとことかもあるから、ひょっとして過労死とかもあり得たかも。
そう考えると、あのタイミングで会社に来てみたのは、かなりのグットタイミングだったかも。
色んな見積書とかのチェックもしてるんだけど、そんな時に意外と役にたったのがエレスだった。
『ご主人様、そこの数字間違ってます。五行目の部品の金額が足されていません』
などと、一瞬ボクが書類に目を通しただけで、間違ってる部分を的確に教えてくれるんだよね。
最初は、「えーホントにぃー?」とか言って計算しなおしてたんだけど、5回ほど繰り返すうちに確実にエレスに任せたほうが早いや、って思ったので完全に信頼してる。
こうやって、人はコンピューターに乗っ取られていくんだねー。
『失礼ですね、ご主人様の為じゃなかったら、こんなめんどくさいことしませんよ?だから今日はご褒美にうさちゃんの着ぐるみパジャマ着て寝てください』
あれ、優が変なスイッチ入ったときに買ってきたやつじゃん、今の季節はあっついからヤダ。
『・・・じゃ、じゃあ寒くなったら着てください』
それまでご褒美待つんだ、スゴいね。
しかし、エレスの計算能力の高さは意外だったなぁ、てっきり元々のが脳筋だったから、なんちゃってサポートシステムだと思ってたのに、ビックリだよ。
『確かに基になった私の部分は脳筋っぽかったですが、ちゃんとサポート仕様に調整されてるんですから、計算できなきゃ話しになりませんよ』
なるほどねー、まあ何にせよ助かることには替わり無いからよいのだけどね。
『ところでご主人様』
「なぁに?」と会話しながらも手は残像が残るほどのスピードで動いてるのだけど。
『先程から社長様がチラチラとこちらを伺ってるのですが』
へ?そうなの?とボクは視線を応接のパーテーションの方に、チラリと向ける。
そこにはパーテーションに半身を隠して、此方を見てる鷹村の姿があった。なにしてんの?あいつ。
ボクは手を止めて、鷹村の方に顔を向ける。
「えっと、何か用でもあるのかな?」
ボクは首を傾げながら聞いてみる。勿論可愛い感じでね。
「い、いやぁーなんか判らない事とか無いかなー、なんて気になってな、見に来たんだけど、思いの外凄いスピードで処理してたからビックリしちまったよ」
と、頭をかきながら笑っている。気にしてくれたのかな?
「そりゃ、ちょっと前までしてた仕事だもの、判らないことなんてないよー、エレスもいるから処理能力もマシマシだしねー、心配しないで社長の仕事しててよいよー」
ボクはふふーと微笑みながら言った。
「そ、そうか、じゃあ外回りでも行ってこようかな・・・」
少し寂しげに鷹村が言う。
「ハイ、いってらっしゃい。いっぱい仕事貰ってきてね♪」
と、そんな鷹村を後押しするように笑いながらボクが言うと
「お、おう!みんなが死にそうになるくらい取ってくる!」
いや、さすがに死ぬほど取っちゃ不味いだろうけども。
でもなんか少し寂しそうなのが元気出たみたいでよかったね、なんで元気出たのかはイマイチ謎だけども。
「じゃ、いってくるわ!」と言い残して鷹村は出掛けた。
『ご主人様・・・悪女ですね』
エレスが人聞きの悪いことをボソリといったけど、なんで悪女!?
『だって、社長様の事思いっきり手のひらで転がしてる感ありましたよ?』
なんでさ!ボクはただ、ちょっと下から目線でいってらっしゃいしただけだよね?
………よく考えたらあざとすぎる!?後で思い出すと恥ずかしくなってきた………。
しかもナチュラルにやってたよ?ボク。
「ハッ!わかった!!エレスが操ってるんでしょ!?」
きっとそうだそうに違いない。
だってボクっ娘だってエレスがやってるんだもの!
『ご主人様・・・なんでも人のせいにするの良くないですよ?もともとご主人様は人タラシ能力高いんですよ、きっと。だから私のせいでわありません、あしからず』
……じゃあなに?全部ボクが自分でやってるっていうの?あの可愛さアピールを?
『はい、その通りでございます、っていうかそろそろ認めましょうね?』
なんてこった……いつの間にボクはそんな女の子を武器にするような人間になっちゃったんだ。
『まあ、いいじゃないですか。それもご主人様ですよ?私は嫌いじゃないです。むしろ好きです。結婚してください』
まあ、ちょっとおかしいエレスは放っておくとして、よく考えたら営業って人タラシだもんね。
ボク普通にあざとかったわ、男の時でもおんなじことやってたわ。
『それでこそご主人様です。このまま世界を乗っ取りましょう』
いやそれはなんだか主旨が違ってきてるよね?ボク世界守るんだよね?
そんなアホなやり取りをしていたが、手はちゃんと動いていたので、山の様になっていた書類は綺麗に片付いた。
いやはやエレス様様だねー優秀優秀。
トゥルルルルルルル……トゥルルルルルルルルルル……
事務所の電話が鳴り響いた。
「はい、マシンサポートタカムラでーす」
ボクはためらいなく明るく元気に電話を取る。電話対応は初っ端が大事だからね!
「え?あ、鷹村さんとこでいいのかな?」
若い男の声がする、なんとなく聞き覚えのある声だね、塚原建設の若社長さんかな?
「はい、タカムラですよー。どうされました?」
「ああ、新しい事務員さんかな?塚原建設っていうんですけどちょっと重機の調子が悪いんで見てほしいんだけど……」
やっぱり塚原さんだったね。なんか前より声の判別がいいんだけど、これも能力が上がったせいかな?
『はい、そうですね。なんなら声紋も判別できますよ?』
いやいや、どこの検査機だよ、ボクの耳は。
なんでもありだなほんとに、おっと対応しなきゃ。
「はい、重機のメンテナンスですねー。取りに伺いますか?それともお持ち込みになられますか?」
「えっと、じゃあ持ち込みでお願いします。30分くらいで行けると思うんで」
「はい、ありがとうございます。じゃあ一通り検査して故障があったらお見積りしますね」
「ええ、じゃあよろしくです」
よしっ、お仕事ができたぞー、キム公にでも言っておいたほうがいいかな。ボクは工場の方に向かう。
「キム公いるー?」
ボクが工場を覗き込むと、そこには一心不乱に板金しているキム公の姿。
ガーン!ガーン!ガーン!
これじゃ聞こえるはずないので、キム公のすぐ近くまで移動して耳元に口を近づける
「キームー!仕事くるよーー!」
「うっわぁぁぁあぁ!びっくりしたぁぁ!」
ふふーやっと聞こえた。
「あのね、塚原さんとこの重機がメンテナンスに入るから、着いたら対応してね」
「あ、ああ、わかったけどびっくりさせないでくださいよ」
「別にびっくりさせるつもりはなかったんだけどね、キム公夢中でやってて聞こえなかったんだもん」
なんだか顔が真っ赤なんだけど、まあこの前の事があるからしょうがないね、気づかないフリしとこう。
「あんまり・・・ドキドキさせないでください」
30のおっさんが顔を赤らめながら言わないでよ、そゆこと。ちょっとドン引き。
「じゃ、じゃあよろしくね?ボク事務所にいるからね」
そういってそそくさとボクは事務所に戻った。
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それから30分後、トレーラーに積まれた10トンクラスのバックホーが工場に到着した。
塚原の若社長も一緒に到着したみたい。
「ごめんくださーい、重機持ってきたんですけど」
事務所に塚原さんが入ってきたので、ボクは立ち上がりカウンターの前に移動する。
「いらっしゃいませ!お待ちしておりました。」
若社長がボクを見て固まっている。え?なに?まさか第二のキム公?
「君が新しい事務員さん?可愛いねぇ、徳田さんが亡くなってから社長忙しそうだったからよかったよ」
よかった、普通の反応だった。
「そうですね、ボク(これは直せないらしい)は徳田の姪になります。同じ徳田ですけどお願いしますね」
「へー姪っ子さんかぁ。よろしくねー」
「はいっ!よろしくお願いします」
外を見ると重機をトレーラーから降ろしてるところだった。キム公が立ち会ってくれてる。
「オーライオーライ」
ゆっくりとトレーラーの荷台から降りてくる重機、トレーラーの荷台がギシギシと軋む音が聞こえる。
「なんか作動油も漏れてるねーどんな感じ?」
と、キム公に聞いてみる。
「ちょっと深刻なとこから漏れてますね……ひょっとしたらコントロールバルブ辺りがイってるかも知れないです。結構時間かかるかもしれないです」
しかし、キム公前よりしゃべるようになった気がするんだけど気のせいかな?
「そっかーじゃあ一通り見たら、見積もりしてね」
「うす、了解です」
バキンッ
あ、なんかこの音、嫌な思い出が蘇る。
重機のほうにみんなが目を向ける。
ギギギギギィィ
その目に映るのは嫌な音を立てながら横転し始める重機だった。
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