ヒカルちゃん空を飛ぶ
昨日投稿できなかったので、今日は二話です。
皆さまいつもありがとうございます。
一人称に書き直しました。
容赦なく立て続けに打ち出される毒針。
それを受け続けているボクは、立ってはいるもののボロボロだった。
主にボディスーツが。
いまや先っちょとかデリケートな三角恥帯とか以外は結構穴だらけ。
セクシーどころか着エロくらいまで肌色面積が増えている。
どうもボクのカラダ、炭素繊維で作った軽くて丈夫なスーツよりも、遥かに頑丈だったみたい。
自分でもびっくりだよ。真っ裸のほうが強いってことじゃんね。
自分を再構築した時の事は無意識に怒りのままにやっちゃったものだから、どんな原子配列にしたかも、よく覚えてないんだよねー。炭素繊維より強い皮膚って・・・。
だけど、そんなボクを見てハチ=ベイダーが面白く思うはずもなく、ブンブン羽音を立てて怒っている。
遠くの方で優がハァハァ息を荒げながら
「ヒカルちゃん!こっちに少し視線ちょうだい!そう!そんな感じで!いいわぁ!!」
なんて言いながら望遠レンズ付きのデジカメで連射撮りしてる。
ホントにウチの奥さんどこに向かってるの?あと、そんなカメラ何時買ったの!?
ブンブンだかプンプンだかわかんないけど、怒って反復よことびみたいに飛んでるハチ=ベイダーの腕の中で白目剥いて揺れてるタクを見て溜め息をつく。
「せめて、タクを取り戻せればなぁ、燃やしてやるのに」
未だタクは奴の腕の中で、グッタリしている。ハチ=ベイダーもお漏らしに気づいたのか、ちょっと持つ場所を上半身だけにして、シミの広がった部分を避けてるみたい。
そのえんがちょみたいな持ち方やめてたげて、本人気が付いたら泣くぞ?
もう何度目かしれない毒針の充填が終わったらしく、腹の先っちょに針がセットされる。
しかし今度は打ち出さずにそのままゆっくりと、腕の中のタクに向かって毒針が向けられた。
なんか要求してるっぽいけど、さすがにアゴカチカチじゃそろそろ何言ってるかわかんないよ?
「せめてボクも飛べればなぁ・・・」
『え?飛べますよ?たぶん』
……なんですと?
「・・・なんで早く言わないの?」
『いやだって、聞かれませんでしたし、まだその機能はできてませんし・・・』
お前サポートシステムちゃうんかい。しかも機能後付け?
「機能が無いなら飛べるわけないよね?」
『今は無いだけです。元々ご主人様の力を形にするのは、イマジネーションです。なので自分の中に確固とした想いがあれば、それは必ず形となって現れるはずです。さあ、イメージするのです!自分が美しく空を駆け巡る姿を!ハァハァご主人様まるで天使のようです!』
エレスが勝手にイメージしてどうすんだ、しかもお前のそれはイメージって言うより妄想だろ。
そんなエレスに付き合っても疲れるので、ボクは集中して意識を背中に向ける。
すると何やら肩甲骨の辺りにじんわりと暖かいエネルギーみたいなものが集まっていくのを感じる。
そんなボクを警戒しているのか、顎をカチカチさせて一体何してるんだ?と首をかしげるハチ=ベイダー。
お前が首傾げても可愛くないぞ?
奴からは死角になっていて見えないだろうけど、ボクの背中からは翼の様な何かが生え始めている。
フフフ、待ってろよーいまぶっ飛ばしてやるからなー。
ボクは思わずニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
(後で優から聞いたんだけど、可愛くニコって微笑んだから何だろうって思われてたらしい、勿論激写されてた。)
肩越しに腕を回し背中に生え始めた翼の先っちょを手でつかむと、一気に引っ張り出した。
「で○るうぃ○ぐ!!」
某悪魔の戦士の翼出すときの真似だよ。(笑)
同世代の鷹村がなにやら「アウト!それアウトだからな!」と叫んでいるけど気にしない。
だけど生えてきた翼はそんなデビ○ウィン○とは似ても似つかない光の翼だった。
これ、シ○ーヌさんのほうじゃん・・・。
ボクの背中から生えた翼は、光の粒子を振りまきつつ、ヒィィィンと静かに唸るとボクを軽く宙に浮かべる。
『ご主人様、新能力「光翼」の獲得おめでとうございます。マヂ天使ハァハァ』
「あ、ありがとう?」
真面目にやるか壊れるかどっちかにしてほしいと思いつつ、ハチ=ベイダーを睨み付ける。
一体何が起きたんだ?と混乱してるかのように毒針をタクに向けていたことを忘れたかのようにギチギチ顎を鳴らす。
何しろさっきまで跳ぶ事しかできなかった敵が、自分の様な翼をはためかせて浮かんでるんだもの、そりゃ混乱するよね。
その時だった、ハチ=ベイダーの腕の中の大木が「うーん」と少し身じろぎした。
そちらの方にハチ=ベイダーの意識が一瞬取られる。
ボクはその一瞬を見逃さなかった。
『フォン』
翼が空気を震わし軽い音をたてる。一挙動でボクは奴の真下に移動した。
聞きなれない音に慌ててボクをさがす、ハチ=ベイダー。
きっと今とても優秀なその視覚機能でボクの姿を探しているんだろう。
色んな場所を一度に見られる複眼は、ほとんど死角というものが生まれないはず、故に見失うなんて有り得ないだろうからね。
だけど、死角が生まれないはずの視界にボクが映っていない、その事に相当な焦りを感じてるんだろうね。
首をグリングリン回してボクを見つけようと必死になってるのがわかるよ。
そんな奴の真下から、今度は垂直に奴に向かって急上昇して風の刃をタクを掴んでる脚に向けて放つ!
奴の腕の中の重さが消える。
「ギチギチギチィッ」
慌てて自分の体を確認するハチ=ベイダー、対になった前脚以外の四本が、鋭利な切り口を残して消失している。
「ギギギギギギギギギィィ」
後脚の重みがなくなったことで、急激にバランスが取れなくなっているようだ。フラフラと落ちないようにしている敵を見下ろすように、ボクはタクを抱えて上空にホバリングしている。
奴はボクに気がついたのか、上を見上げるように首を巡らすと、奴の複眼にキラキラと光の粒をまき散らしながら、タクを抱えて微笑んでいるボクが映り込んだ。。
ボクをその目に映したまま、奴は暫く呆けたように動きを止めている。
奴がなにを思っているかは解らないけど、もし違った形で出会っていたら争わずに済んだのかな、一応意志の疎通が出来たくらいだから、理性みたいなものはあるんだろうしね。
『でも、今は敵です。情をかけてはいけませんよ。ご主人様』
わかってるよ、とエリスの苦言に心のなかで答える。
ボクはジタバタとバランスが取れずに浮くのが精一杯の敵を静かに迂回して、鷹村達の元にたどり着いた。
鷹村が心配そうにタクの顔を覗き込む。
「一応、命には別状ないみたい。ちょっと漏らしちゃったみたいですけど」
「ああ、とりあえず起きる前に着替えさせないとな・・・トラウマになりそうだし」
「俺、とりあえず着替えさせてきます」
とキム公がチラチラと、肌がむき出しになったボクの肢体を見てくる。
あれだね、よく女の人の胸とかバレないように見てるつもりでも、バレてるね。だって視線めっちゃ感じるもん!!
今度から見ないようにしよう。
あ、でも今女の子だからバレてもいいんだ。ある意味らっきー。
名残り惜しそうにタクを引き取って奥に入っていくキム公。
ボクはハチ=ベイダーに視線を戻す。そこにはまだ上手くバランスを取れないのか、必死な様子でブンブンと唸りながら、なんとか浮かんでいる姿があった。
「エレス、ボクさ。実は翼をイメージしたわけじゃないんだよね」
『どういうことですか?現に翼として機能してるじゃありませんか』
「うん、翼みたいに見えるし飛ぶための機能なんだけどね。これ、ほんとは力場なんだ」
『フィ、力場ですか?なんのために?』
「ボクね、みんなを守りながら飛びたいと思ったんだ。だからコレ翼の形はしてるけど、違うんだ」
『なるほど、みんなを守るですか・・・ご主人様らしいといえばらしいですね』
なんとなくボクは照れ臭いようなくすぐったい感覚を払拭するように咳払いをした。
そしてボクは翼に意識を向けてを力場としての形に変化させていく。
翼の大きさはさらに大きく伸びはじめる。今まで翼状になって片側四本で形作られた羽の部分が、両翼で八本の力場に分かれる。
その状態でボクは身体を浮かせると、力場が身体をを包み込むように形を変えていく。先端は限りなく鋭利に尖っていき、まるで大きな楔のようになる。
ボクはその先端を敵に向かって照準する。その様子を見て取ったのか慌て始めたハチ=ベイダーは、装填されてた毒針を次々に射ち出してきた。
毒針は、ボクの力場に触れるけど弾かれることもなく消失してしまう。
目の前の出来事が信じられないのか固まるハチ=ベイダー。
ボクは空中を蹴り出すような感覚で勢いよく飛び出す。
音や風景を置き去りにして、ボクは加速した。
敵の姿が一瞬大きくなったかと思うと、次に目に飛び込んできたのは真っ暗な空と、視界の半分を埋め尽くした、蒼く輝く美しい半球だった。
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鷹村は間近で見ていたにも関わらず、ヒカルが飛んで行く様を視認できなかった。
『フヒュッ』と空気が引っ張られる感じがすると思った時には、力場ごとヒカルの姿が目の前から消えていたのだ。
そのあと『パンッ』と乾いた音がしたかと思ったら、空中のハチの化け物が胴体を木端微塵にされて、頭と腹の部分が落下してくるところだった。
そのあと、遥か遠くにある雲に『ポフッ!』と穴が開いたのを見て「嘘だろ・・・?」と呟くことしかできなかった。
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「うわぁー飛びすぎちゃった!なに?この加速!」
『ご主人様はもう少し加減を覚えたほうがよろしいかと思われます』
「そんなこと言ったって初めて使ったんだもの、しょうがないじゃない!」
『それでも限度って言うものがあるでしょう。もう少しで酸素無くなっちゃいますよ』
「い、一応密閉してあるから宇宙まで行ってもダイジョブかなーって思うんだけど・・・」
『はぁー、やれやれですね、まったく』
そんな二人の会話が大気圏に響くのだった。
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