ヒカルちゃん職場にいく その2
一人称に書き直しました。
車を走らせること約40分。
途中のロコモコ屋さんにて、ボクはダブルハンバーグモコを、優はアボガドまみれモコに舌鼓を打っていた。
お肉だいすきーうましうまし。
「やっふぁいつ食べてもおいしーよねぇ、ここのロコモコ」
口の中をお肉でいっぱいにしてボクはニコニコ。
「そうねぇ、私のアボガド欲を満たしてくれるのは、ここのアボガドまみれしかないわねぇ、はぐ」
優もアボガドで埋め尽くされたロコモコに満足そう。
「……友里に言ったら怒るかなー、ズルいって」
「まあ、しょうがないわよ、学校だもの。この為にズル休みしたらさすがに私が怒るわ」
「じゃあ、なんかお土産買ってけばいいかナ」
「それでいいと思うわよ。それにもし怒ってもヒカルちゃんがナデナデしたら、一発でご機嫌になると思うわよ?」
「……最近撫でてると、なんか鼻息荒くなってきて身の危険を感じるんだけど、気のせいだよね?」
「……」
「なんで、目をそらすの!?」
そんなボクらのやり取りが、他のお客さんの注目を集めてることなど、気づかないまま二人は昼食を食べ終わる。
店を出ると会社まであと5分位のところにある、洋菓子屋さんに寄って、クッキー等が詰め合わせになった差し入れを購入した。
「はぁー・・・どんな顔してればいいんだろ・・・」
ボクは憂鬱さのあまりため息をつく。それを見て優があきれたように言う。
「さっき吹っ切れたんじゃなかったの?ここまで来て帰ってももったいないでしょ?」
「そうなんだけどさー・・・」
ボクが死んだと思っている人間に、これから囲まれると思うと色々憂鬱にならざる負えない。
「まあ、あきらめなさい。ホラもう着くわよ」
視線を上げると会社の看板が見えてくる。
『マシンサポート・タカムラ』
それが会社の名前である。職種はありとあらゆる機械の整備、修理、メンテナンスをしており、ここいら一帯では知らない人間がいないという、ある意味有名な会社だ。
社員はさほど多くなく、社長以下は10人(ボクは役員なので除く)の従業員が自分の担当機械を修理しているんだ。
ここでボクは事務処理と営業みたいなことをしてたんだ・・・。
「ごめんください、徳田です」
ちょっぴりしおらしく事務所のドアを開けて優が声を掛ける。すると奥の方から少しハスキーな声のがっちりとした大柄な体格の男性、社長の鷹村が現れた。
「おお、これは徳さんの奥さんじゃないか、もう落ち着いたのかい?」
少し気遣ったような感じであいさつをしてきた。
「え、ええもうだいぶ落ち着いて・・・その節はよくしていただいてありがとうございました」
気遣われたのが、ちょっぴり心苦しい優、そしてその後ろで所在無さげにボクは立っていた。
「ん?後ろのお嬢さんは・・・娘さんの友里ちゃんじゃないよね?こんにちわ、いらっしゃい」
ボクに気づいた鷹村は、キラーンと白い歯が光りそうな笑顔を浮かべ挨拶をする。
「あひゃっはっはじめまして、ヒカルっていいます。ごきげんようっ」
いきなりその「キラースマイル」向けてくるんじゃない!思わず声がうわずっちゃったじゃないか。
(中身おっさん、そして元部下)
「あっははは、可愛いけどおもしろいお嬢さんだねぇ」
そんなボクを見て面白がる、鷹村。このナイスガイは天然のタラシなので、本人に気が無くてもお客さんや、取引業者の女の子をドキドキさせちゃう天才なのである。
ボクも直接向けられたら、不覚にもドキっとしちゃった。
なんだろう、心が身体に引っ張られてるのかな……。
「ウチの遠い親戚の、ヒカルちゃんです。しばらくの間預かることになったんです」
「そうだったのかい、徳さんちは奥さんといい友里ちゃんといい美人揃いだなぁ」
といいながら、「はっはっはっはっ」と朗らかに笑う。
ひとしきり笑うと少し真面目な顔に戻り、鷹村は優に向き直り問いかける。
「ところで今日はどうしたんだい?まだ色々忙しいだろうにわざわざ来てくれたんだ。何か用があったんじゃないのかい?」
「あ、特に用ってほどじゃないんですけど、無事に葬儀も終わりましたので、お知らせにと思って。それ
に一応こちらの役員やらせていただいていたので、何かご迷惑かかってないか気になって」
「そうか、それはかえって気を使わせてしまったね、まあ普段から徳さんはよくやっててくれたからな、おかげさまで書類の引継ぎとかそういったことは困らなかったよ。まあ、なついてたやつらは多かったからなぁ、まだみんな元気がちょっと無いことが困ったことかな。まあ時間が解決してくれると思うが」
それを聞いてボクの胸がズキンと少し痛む。
そんなボクの心の動きを感じ取ったのか優が困ったように笑うと、鷹村がボクにやさしく声をかける。
「なにか・・・あったのかい?」
だからその笑顔を向けるな!さすが天然のタラシ、女性の細やかな機微に敏感である。そんな鷹村の問いに少し頬が熱くなるのを感じながら答える。
「い、いえ、なにかってほどじゃないんですけど・・・おじさん人気あったんだなぁって」
「ははは、まあそうだね。面倒見よかったからね、いい奴だったよ・・・ほんとに」
そういうと少し寂しそうに笑った。それを見てまたボクの胸がズキンと痛む。
「ええ、そんな風に言ってもらえたら主人も嬉しいと思います」
チラと、ボクの方を見ながら優が答える。そんな視線に気づいてボクはそわそわとしてしまう。
「あ・・・あの、少し工場の方見てきてもいいですか?」
ボクは鷹村に聞いてみた。
「ん、お、おお、いいよ。たぶん若い奴らたくさんいるけど、悪い奴らじゃないから見といで」
「は、はい。それじゃちょっと行ってきます」
ボクは事務所のドアを開けて工場の方に移動した。
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私と鷹村さんに見送られて、ヒカルちゃんは事務所を出ていく。なんだかそのそわそわした後ろ姿にに残された鷹村さんと私は、顔を見合わせて微笑む。
「しかし可愛いお嬢さんだねぇ、芸能人かと思ったよ。」
「でしょ?でしょ!?もうね、あの子のおかげで立ち直れたっていうかなんていうか」
思わず私ははしゃぐように言ってしまう。まあ実際旦那だから立ち直るのは当然なんだけどね。
「ははっ、そうか道理で奥さんも葬式の時とは全然違うと思ったよ。正直、友里ちゃんがいなかったら後追い自殺でもしちまうんじゃないかと思って、心配してたんだぞ」
ああ、確かにあの時はちょっとやばかった。友里が支えてくれなかったら本当に後追いしてたかもしれないくらいやばかった。
その時の私を見ていた鷹村さんからしたら今の私は別人かもしれないわね。
「ええ、心配おかけしました。でも、もうだいじょうぶですよ、友里だっていますからいつまでも落ち込んでいられないですしね」
「そうだな、よかったよ。ところで話は変わるんだが、あの子は何歳なんだい?」
「あの子ってヒカルちゃんですか?たぶん・・・18歳くらいじゃないかと」
たぶんそんな設定よね?あの肌艶はまだ10代だと思ううらやましい。
少し考え込むような表情の鷹村さん。なんだか悩んでる様子。
「あの子学校とかは?大学生かい?」
「いえいえ、学校も行ってないですし、私たちが仕事してる間は家にいますね」
「そうか……」
さらに考え込む鷹村さん。
どうしたんだろう?
「いやね・・・ウチの事務というか、徳さんのやってくれてたいろんな処理をしてくれる人材が欲しいなと思っていてね、事務員さんっていうんじゃないんだがな、バイトさんみたいのでもいいんだが」
あーそういうことねー確かに彼がやってた仕事は今鷹村さんがやっているでしょうね。
「ふーーむ、ヒカルちゃんをですか・・・。たぶん仕事はかなりできると思いますよ。おそらく即戦力でしょうねぇ・・・」
先週までやってましたしねという言葉は思わず飲み込んだ。
「へぇ、そんなにすごいのかい?彼女は。専門的な学校か何かに行ってたのかな」
違うんです、元社員なんです。
「いえ・・・そういうんじゃないんですけど、頭の回転が速いんじゃないんですかね?物覚えいいですし」
微妙な言い回しで私は誤魔化すしかなかった。
「じゃあ帰ってきたら、仕事しないかどうか聞いてみてもいいかな?探してるのはホントなんだ。それが身内みたいな人間ならなおさらいいしね」
うん、まあ本人が働きたければいいかもしれない、事情話さなきゃだけどね。
「そうですかー、ま、まあアレですよ、本人がいいっていうならいいんじゃないですかね?」
本人がいないところで何やら変な方向に話が進み始めているのだった。
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