ヒカルちゃん職場にいく その1
一人称に書き直しました
ボクが社会的に死んでから、1週間が経った。
優の忌引き休暇も、明日まででとなり、今現在家庭内は非日常と化している徳田家に、対外的な日常が戻ってくることになる。
ちなみに、友里は既に昨日から高校生活に戻っているが、なんだかボクから離れるのが嫌だったのか、めっちゃ駄々こねた。
最終的には、光のない瞳孔が開ききった目で
「ヒカルちゃんも高校生にナッテ一緒に通えばイインダヨ」
などと病んだ事を言い出したので、ボクにこっぴどく怒られ、涙ながらに登校したのだった。
ボク的には、父親のように威厳を持って怒っていたつもりなのだが、傍目にはどう見ても、女の子同士の恋人がケンカして、その挙げ句惚れた方が、
「言うこと聞くから捨てないでぇ(友里)」と追いすがってる様にしか見えなかったという・・・。
ちなみに優視点なんだけどね。百合百合してたってさ。
昨日だって、いつもなら部活動(漫研)をして帰ってくるのに、父親が亡くなって本調子じゃないアピールをして、授業が終わるとまっすぐ帰ってきた。
なんだかどんどんポンコツになってくんだけど、うちの娘さん。
生き返ったら生き返ったで、色んな問題が目白押しである。
さて今は昼前、優とボク二人きりである。
「はぁー今日で休みも終わりかー、仕事行きたくなーい」
どこかで聞いたような台詞、似た者母娘だ、ポンコツがここにもいいる。
ボクが、お前もか・・・みたいな目でジトーっと見ていると、優が昨日の友里の有り様を思い出したようで慌てる。
「じょ、冗談よ?冗談!子供じゃあるまいしねー・・・ヒカルちゃん看護師免許とらない?」
友里と同じ様なことを捻りもなしに言えるとこがまたすごい。
「取りに行ってもいいけど、患者さんにセクハラされそうだからヤダ」
ボクも少しは自分の容姿を自覚してきている。
患者さんみんなが、そんな事をするわけじゃないのだが、優がまだ20代の頃に、患者さんに夜の巡回中押し倒されたという話等を聞いてるため、警戒してるのである。
ボクがナース服なんか来たら、もろにエロゲみたいな絵面になること間違いない。
優が苦笑いしながら、そう言えばそんな話しちゃったっけーと思いながら、ふと何かに気づく。
「そう言えば、ヒカルちゃんの職場って行かなくていいの?」
変な沈黙が流れる。
「ま、まあ一応死んじゃってるからねぇ、ボク」
「でも一応様子見に行った方がいいんじゃないの?取締役やってたんだし。ほら、葬儀無事終わりましたって報告しなきゃだし、今日で休み終わるから、なんなら一緒に行かない?」
「・・・・・・・・としてならいく」
「なぁに?なんなら行くの?」
ボクは少し顔が赤くなりプルプルしてしまう。
「ボクが親戚の子としてならいく・・・」
恥ずかしさのあまり思わず声が消え入りそうになる。
「ま、まあそうした方がいいと思うわよ?生き返ったうえに美少女になっちゃいました、何て言ったら混乱すると思うし」
「だ、ダヨネー。おっさんが美少女って誰得やねんって感じダヨネー、アハハはは」
「いや、私と友里はウハウハだけどね」
「・・・・・・・・」
言った後にハッとする優。ボクは涙ぐんでぷるぷるしていた。
「そ、ソウダヨネ、みんなおじさんなんかよりオンナノコの方がイイモンネ。フッフフフフ」
そんな自嘲気味に笑うボクを見て、慌ててフォローする優。
「そ、そんなことないわよ?ほら、元々死んじゃったと思ってたのが生き返って嬉しかったし、それが美少女だったら嬉しさ倍増でしょ?増し増しでしょ?」
ボクはじーっと優を見つめて言った。
「じゃあ、ボクがおじさんのまま生き返ったら?うれしい?」
「そりゃあ普通に嬉しいに決まってるじゃない!」
ふふふボクの奥さんのいいところはウソのつけないところです・・・
「やっぱり、そんなにうれしくないんだぁぁ。増し増しじゃないんだぁぁぁぁ」
テーブルに突っ伏して思わず号泣してしまう。
「だ、だってしょうがないじゃない、ヒカルちゃん可愛いだもの!私が可愛い女の子大好きなの知ってるでしょ!?しかも愛する旦那様が、めっちゃ好みの美少女になったときの私の気持ちわかる??もうねハレルヤよ!ハレルヤ!!」
ハレルヤじゃねえわ!ちょっと妙なテンションになった妻に引きつつ、ボクは目許を擦りながら聞く。
なぜか、その仕草を見て優が「はうっ」とか言いながら胸を押さえつけてる。
エレスも『出血多量です。不味いです』とか騒いでる。
「じゃ、じゃあ中身がボクじゃ無かったら、ハレルヤじゃ無かった?」
「あったり前じゃない!中身が光ちゃんじゃないヒカルちゃんなんて、ただの観賞用のお人形さんでしかないわっ」
あれ?なんでか脳裏にボクが床の間に飾られてる絵面が浮かんじゃったよ?なんか、微妙に両手を挙げて喜んじゃいけないような気がしたけど、取り合えず納得することにした。
そしてずっと考えてたことを優に話す。
「多分ね・・・職場もそうなんじゃないかなって思うんだ・・・。生き返って女の子になったって言ったら、違う意味で喜ばれるんじゃないかって不安なんだ。だってあの会社男だらけなんだもん!!」
心のなかで「もん」とか言っちゃったとか思いつつ、シュンとしてると、優がボクの頭をポンポンしてくる。
「だいじょぶよ。親戚の子供預かる事になったけど、家において来るわけに行かないから、連れてきたって事にするから」
「壮太くんに使った設定で決定なんだ・・・」
「まあ、一番当たり障りないしね。もうこれでいくつもり」
「そっか、まあいつまでも悩んでても仕方ないし行こっか」
「途中でお昼食べて、お菓子の詰め合わせでも買って行きましょうかね」
「ボクね、行く途中にある、ロコモコ屋さんいきたいなー」
気持ちを切り替えてボクは甘えるように言った。
「そうね、私も久しぶりに食べたいからそうしましょう」
と、優は微妙な微笑みを浮かべ出掛ける準備をする。
(なんでこいつ、元々男のくせにこんなに私を萌させるんだろう、出掛ける前に押し倒しても、文句言われないよね?)
なんて事を優が、微笑みの裏で考えてるなんて知らずにボクは久しぶりに食べられるロコモコに思いを馳せていた。
そのあと着替えに行った寝室で、押し倒されて食べられちゃうともとも知らずに。
アーーーーーーーーーーーーーッ
優が壊れかけていますが、元々こんな人です。
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