熊と眼力
一人称に書き直しました。
見つめあう、ボクと熊。
とりあえず、侵略者じゃないだろうけどと思いつつエレスに聞いてみる。
ちなみにまだ寝転がったまま。
「これ・・・普通の熊だよね?」
『はい、そうですね。次元干渉も捉えていませんし、純度100%の森のクマちゃんですね。正直かわいいです。モフりたいです。ご主人様には負けますけど』
コイツいつもボクの中でそんな事考えてるのか・・・最近エレスといい友里といい暴走しすぎでしょ。
ボクとエレスがそんなやり取りしている間も、熊のほうはこちらをじっと覗っている。
見ている限りいきなり襲ってくることも無さそうだし、適当に脅かして追い返したらいいかなー等と考えていた。
ちょうど手のひらに、風をくるくるさせたままだったのを思いだし、そこから熊が怪我しない程度の風弾丸を二発程発射すると、放たれた風弾丸は熊の鼻面に当たり「パンッ」と音を立てて弾けた。
熊は「ガウッ」と言いながら顔を前足でゴシゴシこする。
その姿に「ちょっとかわいい」なんて思いながら様子をみる。
なんだか少しばかり不機嫌な感じで、ボクの事ををにらんでくる熊。
「ありゃ、おこらせちゃったかな?」
『そうですね、MAXではありませんが怒りゲージが貯まってますね』
「格闘ゲームなの?これ!?」
怒りゲージって某格闘ゲームの定番みたいなものなんでエレスが知ってるのかが謎だけど。
『いえいえ、ゲームみたいですが違いますよ、誰だって何だって生きている限りパラメーターゲージはあるのですよ、ご主人様。ちなみに怒りゲージが貯まると、超必殺技「怒根性アタックが使えたり使えなかったりします』
使えるのか使えないのかはっきりしてほしい。
エレスの言うことが最近冗談なのか、本気なのかわかりづらいのが最近の悩み。
ボクはため息をはぁっとつくと、よいしょっと立ち上がってお尻をパンパンと叩く。
熊も立ち上がったボクを警戒しつつ、距離は着かず離れず横に移動し始め、お互いに視線を絡ませたまま、膠着状態が続く。
その時エレスが思い出したように言った。
『ご主人様、一応言っておきますがご主人様は、ある程度の大きさの生命体は殺したら駄目ですよ?』
「はい?なんで今そんなこと言うの?」
熊殺しの称号に元男なら憧れないわけじゃないけど、もともと殺す気もない、動物愛護の人たちになんか言われるのもやだしね。
『いえ、言ってなかったような気がしましたので。ちなみに理由はご主人様は既に、お母様のガーディアンだからです。その状態で生き物を殺すと、その生き物は奴ら同様、輪廻の輪から外れてしまうのです』
ほんと初耳だ、しかも結構重要なことなのに今更教えるってアドバイザーとしてどうなの?
「じゃあ、もう生まれ変われなくなっちゃうってこと?」
『その通りでございます。ちなみになんで殺っちゃう前に言ったかと言いますと、知らないでご主人様が殺っちゃいますと、私が指導不足で、お母様に怒られちゃうからです』
確かコイツボクが死んだ時もそんな理由でボクのこと保護したよね?どんだけ怒られるの嫌なんだよ。
っていうかお母様そんなに怖いのかね・・・。まあ地球だけに噴火とかしちゃうのかな?
でもエレスってこういうとこぶれないなぁ、まあ嫌いじゃないけどね(笑)なんて絶対エレスには言わないようなことを考えながらボクはあることを思いついた。
よく漫画なんかである「眼力で相手を威圧する」というヤツだ。「キッ」って敵を睨むと吹っ飛んでいくアレね。
七つの玉集めると願いが叶うアニメであるアレ!
なんかイメージ的にはガンを飛ばす感じでいいのかなー、なんて思いつつ熊に正面から向き直る。
そして、熊の目を睨み付ける様な感じで、見つめて、眉間に力を込めるような感じでじーーーと睨む。
『ご主人様、なんか拗ねてるような表情がとっても萌え萌えです。鼻血でそうです』
うるさいだまれ。ホントに時々こいつ大丈夫かな?
しかし続けて睨み付けていると、何かが視線に乗って熊に叩きつけられたような感じがあった。
こうなんかブワッっていうかモワッていうかドライヤーの熱風みたいな感じ。
手ごたえのとおり、熊に何かが届いたらしく変化が現れる。
何やら口が半開きになり、ぽーっとした表情になって、少しフラフラと酔っぱらったかのように身体が揺れ始める。
なんかイメージしてたのと違う感じだけどだいじょぶかな?そしてノソリノソリと熊が歩き出す。
何故かボクのほうに向かって。
「え?え?」となりながらも、ボクは熊から離れるように移動する。しかし、少し早足になり距離を詰めてくる熊。
「ちょ、ナニナニ!?殺気が無いくせになんでこっちくるの!?どゆことエレス?」
『ただいま分析中です』
結構な速度で後ずさるボク、そしてほぼ小走りになってる熊、間合いはすでに5m程しかない。
目前に迫った熊に焦ったボクの足が何かに引っかかる。足元をチラとみると木の根が見えた。そのまま後ろ向きにコロンと綺麗にひっくり返ってしまう。
そして「はわわわ」と慌てているウチに、ボクは熊にに壁ドンならぬ、地面ドン状態で押し倒されてしまう。
鼻息を荒くさせて熊の顔が、ボクにに近づいてくる。すっごい鼻息がボクの顔にかかってくる。
獣臭というかなんだか生臭いー、でも殴り飛ばしちゃって熊死んだりしたらやだしなぁ、なんて考えてたら。
『ベロぉぉおオン』
生暖かい熊のべっちょりとした舌の感触がボクの顔を支配して、あまりのことに目をパチクリさせフリーズしてしまうボク。
だがしかし熊のナメナメ攻撃は止まらない。
「ひゃぁぁぁあああああああ」と、思わず悲鳴を上げてしまうボク。
『はふぅ、こんな近くで熊ちゃんが見れて、しかもねぶられるなんて・・・夢のようです』
エレスがなんだか喜んでるけど、ねぶられてるのボクだし!
殴れるものならホンとに殴りたい、地球の生物なら、例え「台所の黒いヤツ」でも愛しいと思う博愛主義のエレスならともかく、実際にねぶられてるボクはたまったもんじゃない。
「ちょっ!よろこんでないでっわぷっ、どういうことなのこれっぶわっ」
熊の唾液まみれで、絵面が大人向けのゲームのワンシーンみたいになってきちゃったボクは、エレスに必死に助けを求める。
『一応分析の結果ですが、どうやら先程ご主人様が熊に対して使用されたのは、魅了の眼力だったのではないかと』
ペロペロペロペロペロペロ・・・・・・・・
熊がフンフン言いながらねぶる音だけが響く。
ボクははもはやどうでもいいやーみたいになすがまになっていた。
きっとよく「天井のシミを数えてる間に終わる」ってこういう気分の事なのかなぁ……天井じゃなくてのどかに雲が流れてる青空しか見えないけど。
そのまま5分程経っただろうか、ガサガサと枯れ葉を踏みしめる音がして、今度こそ二人が帰ってきた。
「ヒカルちゃんただい・・・ヒィッ!!」
「どしたのマ・・・ママッマイヤヒィィカルちゃぁぁん!?」
そして、悲鳴を上げた。当然だよねーたぶん二人の目から見たらボク食べられちゃってるよね、これ。
「「ヒカルちゃんが食べられちゃったぁぁぁ!!」」
食べられてないし、ねぶられてるだけだし、だいぶ慣れてきたし。
でもボクはともかく二人が襲われたら困るね。
「いい加減に・・・・しろおおおおおおおお!!!」
『ああッくまちゃんがっ!!』
殺しちゃいけないのでかなり手加減して、ボクは熊を『ドーーン』と突き飛ばした。熊はゴロゴロゴロ・・・と10mほど転がって止まって、動かなくなった。
「あれ?まさか死んじゃった・・・?」
と、ちょっとドキドキしながら様子を覗う、死んだらお仕置きされるのかね?お母様に。
『くまちゃんになんてことするんですかぁぁぁ!!』
と、絶叫するエレスに、絶対こいつお母様に怒られるのがイヤなんだなぁ、と思いながらボクは熊に近づいてみる。
ピクリ
熊が少し動いた。ボクはちょっとビビってしまい、熊まで2mの位置で足を止めて様子をみる。
その気配を感じたのか熊は「ガァッ」と言いながら立ち上がった。そんな熊を見て優がボクに教える。
「ヒカルちゃん!熊は立った時が一番危険ってなんかの番組でやってたわよっ」
そういえばなんか一緒に見てた番組で、熊が攻撃するときに後足で立つとか言ってたなぁ。
ボクは、立った状態で2mはある熊を、上から下まで見据え・・・ある一点に目が釘付けになり、ピシッと石化した。
一言で言っちゃうと、熊は立って、そして大事な部分がいきり勃っていた。
それはもう見事なくらいに!
ある意味超危険。超臨戦態勢。
後ろの二人も見えたようで、優は「まぁ立派・・・」と言いつつ頬を染めてる、ヲイ。
友里は手で顔を覆って見なていないフリをしているが、指の隙間からチラチラと見ているのがバレバレである。「キャー」とか言ってるしね、興味深々だね。
熊が「グフッ」と言いながら一歩踏み出す。なんだかねめつけるような視線を感じてボクは思わず
「いやあああああああああ!!!」
完全に乙女の悲鳴をあげてしまった(中身はおっさん)。
恥ずかしさを思わずごまかすように両腕を勢いよく交差させるように、振りまくった。
すると風の精霊が竜巻を起こし、熊を包み込む。
「があああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
なにやら熊が慌てふためいている。そのまま熊は竜巻に浮かされたかと思うと、遠くまでそのまま運ばれていった。あれ・・・落下して死んでもボクのせいになるのかな。
遠くの方で熊の悲し気な叫び声が聞こえたような気がする。
はぁはぁと肩で荒く息をするボク。あー恥ずかしかった、キャーとか言っちゃったよ。
「ひ、ヒカルちゃん?」
と、気遣わしげに声をかける優達の元へ、ボクはグルッと向き直ると猛だっしゅして、抱きついた。
「うわぁぁああぁあん、こわかったよぅー!」
ちょっと悲鳴を上げたことに対しての照れ隠し。
べっちゃ、と熊のヨダレまみれだったの忘れてた。
「くっさあぁ!!」
言いながら優が顔を背けた。ちょっとショック、熊のヨダレに愛がちょっぴり負けた瞬間だった。
ボクはよろよろと優から離れ、そしてちょっぴり、いやかなり涙目で手を勢いよく『パァン!!』と打合せ、地に両の掌をつける。そして叫んだ!
「錬成ッッ!!」
ギリギリな台詞かもしれない。
土が急激に盛り上がったかと思うと、円柱の形になる。そして今度は、10センチほど縁を残して中側だけが凹んでいく。
ボクはその中に向かって手を振り下ろす。すると、凹んだ部分にみるみる水が満たされた。
そして「とうっ!」とジャンプしながら陽炎を纏い、同時に服を分解しながら水の中に飛び込む。
ジュウワアアアアアアァァァァァァ
激しい音と共に水蒸気上がり、霧のように辺りに立ち込めた。その風景を呆然と眺める優と友里。
そよ風が吹き辺りの霧がはれる。
二人が見つめていたがボクはゴシゴシと無言で体を洗っている。
そう、これこそ精霊力の無駄使い、必殺「どこでも露店風呂」だ(今考えたんだけどね)。
ボクは自分の体をスンスンと嗅いで臭くないか確かめる。
そして、再び「とうっ」と素っ裸のまま飛び上がると、地面に着くまでに服を構築し、再び陽炎を発動して一瞬でフワフワのヒカルちゃんが出来上がる。
二人を涙目でじーっと見つめ、スッと両手を広げるボク。
そんなボクを二人はちょっと申し訳なさそうに、ぎゅっと抱きしめてくれたのだった。
おじさんに、体臭(本当に臭かったのは熊のヨダレ)の話をすると、地味にダメージを受けるのだよ・・・。
そして、この事件のおかげで、土の精霊の使い方もわかったと気づいたのは、家についてボクが少し立ち直ってからだったのは、言うまでもない。
後でエレスからの補足。
『魅了されても、100m位離れますと効果がきれますので、家まではストーキングされませんよ』
とのことだった。熊が家までついて来たらどうしようと思ってたので少しだけ安心した。
少し長くなってしまい、昨夜のうちにまとまりませんでした。すみません。(´Д`)
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。