ヒカルの能力その3
一人称に書き直しました。
とりあえず、友里は優にめっさ怒られた。
衝撃の告白を言い切って、すごいドヤ顔で壮太くんを見下しながら顔を上気させて、異様に鼻息を荒くしていたところを、優に頭を叩かれた。
確かにさっきの顔は女子高生がしちゃイケない顔だと思うよ。
とりあえず真っ白になってトボトボと家路についた壮太くんを見送って、友里はお説教である。
「あのね、いくらなんでも言ってよい事と、悪い事があるでしょ!まったく!」
優の前で正座させられて友里はぶーたれている。
「だって・・・ああでも言わないと壮ちゃんホントにずっと付きまといそうだったし・・・」
ボクはそんな友里を見て、絶対半分以上本気で言ってたと確信していた。
「それでもよ!大体あなた本気であれ言ってたでしょ!母さんわかるんだからね!」
どうやら優にもばれてたみたいね、あはは。
「大体ね!ヒカルちゃんは母さんのなんだからね!いい加減にしてちょうだい!!」
言われたボクは、「あれ?なんか前の身体の時より愛が大きい気が・・・」とちょっと複雑な気持ちだったよ。(泣)
とりあえず友里がちょっとシュンとなったので、まあいつまでもこんなことで怒ってもしょうがないか、と思い出かけることにした。
友里も悪気はなかったと思うし。なかったよね?ほんとに。
いつも通りについ運転席に向かうボクを、優が慌てて止めて言う。
「ヒカルちゃん!だめよ、免許ないでしょ!」
そうなのだった、実はボクは免許がないんだった。
そりゃもちろん運転自体はできるよ?、なにせ運転中に死んだのだから。
だけど、その免許は光一のものであって、ボクが持っていても顔どころか性別すら違うんだから使えないよね。
おとなしくボクは助手席に移動する、そんなボクを見ながら微笑んで優は言った。
「よく考えたらいろんなことが山積みよね・・・。戸籍とかないと免許もないままだしね」
ボクは助手席でちょっと、遠い目をして「あはは・・・」と乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
国道をひた走り一時間ほどで目的地の八房山に到着する。
山と言っても、標高はそんなに高くなく、割りとなだらかな小山みたいな山なので、トレッキングの人達がよく利用している。
オートキャンプ場も何ヵ所か施設があるので、もう少し暖かい時期になったら、アウトドアが好きな人達で賑わうんだよね。今はまだ肌寒いので殆ど人影は見えない。
早速ビニールシートを広げて楽し気にピクニックの用意をする友里。
すっかりご機嫌は直ったようだね、よかったよかった。
そんな様子にホッとしながら、優もシートの上に折り畳みのテーブルやバスケットを置く。
少し離れた場所でボクは虚空を見つめて集中する。そしてゆっくり周囲の温度を上げながらエレスに問う。
「ほんとに火以外の精霊力も使えるの?」
『はい、私達のコアとなっている精神球の元は精霊球です。お母様が地水火風空のすべての精霊力を元に、コネコネして作ったのですから、火以外の精霊だって使えないことは無いと思います』
コネコネって……光る泥団子じゃないんだからさ……。
ボクは、とりあえず今まで何度か使った火の精霊力を高めていく。
するとボクの周りに陽炎が揺らめき、空気がチリチリと音を立て始める。かなりの温度になってるみたいだ。
遠巻きに見てる優と友里が「あったかーい」って言いながらほっこりしてるのが何とも微笑ましいけど、もう少し近付いたら火傷じゃ済まない温度なんだろうね。
なんせ一瞬で温度計が割れちゃうくらいだし。
ふーっと息を吐きながら陽炎を解除する。
ちなみに服は車の中で、燃えにくいような素材の服を構築して着替えた。
たぶん普通の服なら今頃燃えて素っ裸だったろうねー。
次にボクは風を感じながら自分の内にある精霊力を開放してみる。するとつむじ風のようなものが、足元に巻き上がってきて、ボクを包み込むようにを風の精霊が踊り始める。
右手に意識を集中して「ふっ」と突き出してみる。すると腕にまとわりついていた精霊が、空気の弾丸のようなものに変化して木に向かって飛んでいく。
木に当たると弾丸は『バシンッ』と大きな音を立て弾けた。
今度は横なぎに右手を振るってみる。すると今度は透明な刃のような形状に精霊が変化して、木に向かって飛んでいく。
木の幹に当たった真空刃は『ズバンッ』という音を立て木の幹に軽く切れ目をいれた。
これ、人とかにやったら軽く首チョンパしちゃいそうだね。
世紀末でもない限りやたらと使っちゃイケないな、これは。
「なるほどねー、風はこんな感じに使うんだねー」
色々試してみて使い勝手の良さにボクは感心した。
『はい、それと移動などの速度上昇の補助に使えたりもします。ジェット噴射のように使うイメージです』
「へぇー、試してみようか」
ボクは足の裏にイメージを集中させる。
すると、フワッっと体が浮く感じがした。実際に足元を見てみると、10センチほど浮いていた。ちょっと気持ちいい。
そのまま横にスライドするようなイメージで重心をずらしてみる。ちょうど、スケートの蹴り足みたいな感じにグッとする感じで。
するとフィギアスケートのように面白いくらいにグングンと滑ることができた。これは楽しいかも。
その様子を優たちは唖然とした感じで見ていた。
「ヒカルちゃん、それってなんの力なの?新しい能力?」
「うん、新しいって訳じゃないんだけど、風の精霊力だねー」
と、右に左にスライドしながら楽し気にボクは答えた。
ひとしきり滑りを楽しんだところでつむじ風を解除する。
「これは結構普通に移動でも使えちゃいそうだねー、自転車乗って背中から風を噴射したらスゴいことになりそう」
ボクがニコニコしながら言うと、優があきれたような顔で言った。
「ヒカルちゃん、いいけど目立ちすぎちゃだめよ。時速100キロで走る自転車とか洒落にならないわ」
確かに美少女がママチャリで爆走してる絵面など、あまり想像したくはない。
その時だった「あーーっ」と友里が声をあげる。
どうした?とボクらがそちらに視線を向けると友里が悲しそうな顔で荷物をゴソゴソしていた。
「お湯の入ったポット忘れてきちゃったぁー」
それは大変と思いながら、ボクは思いついた。
「じゃあ、水の精霊力の練習してみよっか」
そういうと、人差し指をコップに向けて突き出して、自分の中に水面をイメージすると、ボクを霧のようなものが取り巻く。
うわーなんだかしっとりして気持ちいい。なんか滝の近くに行った時みたいな、イオンたっぷりな癒し空間みたいな感じ。
ボクは指先に意識を集中して力を絞り込むと、周りの霧みたいなものが、ボクの指先を中心に集まっていく感じがする。
すると、コップに水がグングンたまりだす。
「ふえーすごいねぇー」
友里が面白そうにコップを横から眺めている。そしてコップ持って口に含んだ。躊躇ないな。(笑)
「んっ!おいしい!!」
「えっ?ほんと?」
言いながら優もごくりと飲んだ。
「ほんとね、なんか井戸水とかのおいしさとはまた別の・・・水なのになんか味が濃い感じがするわね」
するとエレスがドヤ顔をしてるような感じで答える。
『おそらく、精霊力から直接水を搾り出しているので、精霊の搾りたて生エキス!みたいな感じなのだと思われます』
一番搾りとかあるのかね?なんかそう聞いちゃうと、これって飲んでいいの?と思ってしまう。
『精霊は別に死んだわけではないので大丈夫ですよ。おなか壊したりしません』
「「へ、へぇー」」
と、二人は微妙な愛想笑いを浮かべていた。
『ちなみに攻撃にも使えますよ、水槍とか。あと水流操作で治癒術も使うことが出来るようです』
なるほど、精霊力ってとことんラノベ仕様なのね……とボクは心の中でおもった。
ちなみに土はいまいちイメージが弱いのか反応が弱くて、少し土が盛り上がったりしただけだった。
土を使って何をしたらいいのかわからないっていうのが、うまくいかなかった原因なんだろうけど、まあ一応動いたから精霊とは繋がってるっぽいのでおっけーということにした。
あと、空の力ってなに?って思ったから、エレスに聞いてみたんだよね。
『空の精霊力とはですね・・・そのあれですよ、なんかこうフワッっとした感じというか。ほら不思議パゥわぁーってやつじゃないですかね?』
「・・・エレスもわかんないんだ?」
『そっそんなことありませんよ?これは・・・そう!ご主人様への愛の試練なのです。なんでもかんでも人に聞いてちゃ成長しませんよ?』
コイツ自分がサポートシステムってこと忘れてんじゃないだろうか。
ちょっとイラッときたけど、まあ解らないものはしょうがないと言うことで、今日の訓練はここまでにすることにした。
家の中じゃ試すことが出来なかった能力が、一通り試せたので満足してると、結構エネルギーを消費しちゃったのか、ボクのおなかが鳴った。
少し早いかもだけど、お昼にすることにした。
「んーーーーやっぱりママの唐揚げおいしぃーーーっ」
足をぱたぱたさせながら友里が唐揚げをパクつく。
「うんうん、おいしぃよねぇー」
ボクもパタパタパクパク。
そんなボクの様子を見て、何故か二人が悶えている。
なんでボクがパタパタさせただけで悶えてるんだろ?なんか生まれ変わってから時々二人の行動が解せない時があるんだよねー。
今もボクを見る目が少し血走っててちょっと怖い。
お昼ご飯を堪能すると、またコップに精霊水(友里が命名)をついで、おいしいのだけど微妙な気持ちになりながら、一息ついていた。
「今日はまだなにかするの?」
と優がボクに聞いてくる。
「うーん、とりあえず一通りできたし、結構疲れるしいいかなー」
と答えてボクはシートの上にゴロンと寝転ぶ。
「じゃあ、私達ちょっと散策してくるわねー」
と言って、優が立ち上がる。友里は「えーヒカルちゃんと一緒にゴロゴロするぅー」となにやらグズっていたけど、優に引きずられて連れていかれた。
「少しは一人で考えたいこともあるでしょ」
どうやら、ボクにに色々考える時間を作ってくれたみたい。
ホントに優が奥さんでよかったと思うよ。
少しばかり高く感じる空を見ながら、ボクはぼーっとしていた。
「考えるっていってもねー、なるようにしかならないしねー」
なんだか気を使ってくれた優の気持ち台無しなことをつぶやきながら、手のひらで風の精霊をクルクルとして、寝転びながら練習する。
しばらくするとガサリと草を踏み分ける音がした。
二人が帰ってきたんだと思って、ボクは音のした方を見ることもなく声をかける。
「おかえりー、結構早く帰ってきたんだねー」
くるくるくるくる風の精霊と遊び続けるボク。
意外と楽しくなってきて、心なしか消費エネルギーも減ってきたような気がする。
これコツは精霊と仲良くすることなのかもしれないと思いつつ、そういえばなんで優たちなんにもしゃべらないんだろう?と思って、チラリと音がしたほうに目を向けると。
そこにはこちらをじっと見る、立派なツキノワグマがいた。
わお。
やっとお出かけできました。よかったー。
いや、よくないか?
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