再始動4
再びの斎王子家
「お嬢様?」
「はっはひ!?」
「どうしたんですか?そんなに緊張なさって」
どうもこうもあるわけない。
葵の研究結果を見せられてしばらく呆然としてると、首元に違和感を覚えて意識が無くなって、気が付いたらなぜか地下の実験室で椅子に縛り付けられてるという有様。
どうしたら緊張するなと?っていうか緊張じゃなくて恐怖してるの間違いだと思う。
「どっどどどどどどど」
「ドラ○もん?ですか」
違うわ!
「どっどうして私は椅子に縛り付けられてるのよ」
「?」
「いやいやいや、なんでそんなお嬢様ったら変な事言ってるなぁ?みたいな感じに小首傾げて見られなきゃいけないわけ?」
葵は悪戯っぽく笑ったかと思うと私に近づいてきて、右手で私の頬にそっと触れて顔を近づけ目を合わせる。こっ、怖わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、眼を逸らしたいけど、逸らしたら逸らしたでなんかやられそうで怖い。
「だってお嬢様ったら、私の研究結果見た時、なんだか私の事化け物を見るかの様な目で見てるものですから。ついつい故郷にいたころ似たような視線で見られたなぁって思い出しちゃいまして、ふふ」
やばい、葵の中にあったトラウマスイッチ押してもうたかもしれん。
「そっそんなことないよ?葵の事化け物なんて思うはずないじゃない。だってこっちの世界で通じ合える唯一の仲間だもの。家族みたいなもの、いえもっと深い絆で繋がってると思ってるよ」
よし、よく眼を逸らさず噛まずに言えた!私えらい!がんばった!
「そ、そんなお嬢様・・・家族以上の絆だなんて・・・」
私の台詞に心打たれたのか、葵は自分の両手を口元に持っていき、フルフルと目を潤ませて感極まっている。
「そっそうよ!だから早くこの拘束を解いてちょうだ「でしたら、これから私がする行いも、肯定してもらえますよね?」・・・はえ?」
私が言い終わる前に、葵は再び光の無い瞳で私の顔を覗き込んでそう言ってきた。もちろん私は間抜けな返事をすることしかできない。
「家族以上なんですよね?ね?」
顔が笑ってるのに、眼が笑ってないってこういう顔の事いうんだね・・・
「なななななにするのよ?怖い事しないで、痛い事しないで、ごめんなさい侵略でもなんでもするからもうゆるしてええぇぇぇぇぇぇ・・・・・・」
いや、マジで怖いんだって、私よく今までこんなサイコパスと一緒にいて、なんにもされなかったな!いや?ひょっとしたらすでにされてる??いやいやいや、まだなにもされてないはず・・・。
そんな狼狽え泣き崩れる私を見て、葵はクスクスと笑いだす。
「嫌ですね、お嬢様ったら。私がお嬢様の嫌がる事なんかするわけないじゃないですか、ふふ」
「じゃっじゃあなにするの?」
「そうですね・・・」
そういうと葵は肩に乗っているマザーに微笑みかけて、レギオンズに支持を出す。支持と言っても言葉に出す必要は無いらしく、思念での意思の疎通を可能にしているのか、マザーの赤い眼がチカチカと点滅しているだけだ。
しばらくすると、周りに散らばっていたレギオンズが一ヶ所に集まりだした。もぞもぞと一塊になったレギオンズはだんだんと縦長に伸びて、葵と同じくらいの高さに到達する。それから人の様な輪郭を持ち出したそれの、無数のクモが集まってるようにしか見えない表面が、だんだんと滑らかな表面に変わっていく。そして部分部分に着色されたかと思うと、そこにいたのは葵とそっくりなメイド姿の人間だった。
「こ、これが見せたいもの?」
「あ、いえいえ違いますよ?汚れちゃうから私の代わりに作業させようと思って」
汚れちゃう?汚れちゃう作業ってナニ?
「お嬢様にはこの子たちの作り方・・・ご説明しようかと思って」
作り方?さっき自分の血液をどうたらこうたらって言ってたの?
「え?さっき自分の血をかけたって言ってなかった?」
「ふふ、いやですねお嬢様。この子たち見てください。今ここにいるだけで、私と同じくらいの質量があるんですよ?これ全部に自分の血を混ぜてたら、私失血死してしまいます」
確かにそうだ。しかも各地でレギオンズは暴れまわってるから、ここにいる以上にまだいるはず。
「まあ実際私の血だけを使ってるのは、私と意思疎通ができて、指令を出すこのマザーだけですよ。それ以外の子供たちには、特別なものが必要になるんですよね。でも水で薄めるわけじゃないですよ?一応試してみましたが、血液スライムも水に溶けちゃうと流石に動けなくなっちゃうみたいで」
「じゃ、じゃあ他の人間の血とか・・・?」
「ぶっぶーです。惜しいですけどね、ふふ」
なんだろうこの可愛い仕草がなんともいえない恐怖を駆り立てる。普段『ぶっぶー』なんて使わないじゃん!キャラじゃないじゃん!
テレテレテテレテレテテテレテレレテテテテテンッ♪
どこからか某マヨネーズの三分間クッキングのテーマ曲が流れてくる。別名作ってみると大体が三分で終わらないクッキングだけど。音のするほうを見てみると音源片手にたたずむ爺やの姿が。
爺やいたんだ?でも爺やならこの状況を黙って見てるはずないんだけど・・・あ、なんか白目向いてる、あれさっき言ってた操られてる感じだ・・・。
「さあっ今日のメニューは簡単レギオンズの作り方ですっ」
何やら葵がクッキングに出てくる人みたいな喋り方で、はっちゃけ始めた。もうやだー。
「まず用意するものは砂鉄や金属の削った粉、軽さを求めるならアルミの粉、頑丈さを求めるならチタンの削り節なんかもいいですねっ」
葵の台詞に合わせて、テーブルの上に金属の粉らしきものが入ったトレイをを用意するレギオンズ(葵)。ホントにどこに向かってるんだい?君は。
「次はとっても重要な材料、私の血液!これはひょっとしたらお嬢様の血液でも可能かもしれませんっ。また試してみるのもいいですね!」
そう言いながら、私をねめつけるように見つめる葵。だから怖いんだって!
「そして次に重要なのが、血液を増すための材料となります。こちら!」
そうして葵が高々と掲げたケースに入ってるのは
「こちらに来たての新鮮な侵略者の黒玉!」
「ちょっとまてぇぇえぃいいいいいい!!」
私のツッコミにきょとんとした顔で、私を見つめる葵とレギオンズ(葵)。二人でシンクロするのやめい。
「どうしたんですか?お嬢様」
「そっそれをどうする気??」
ニコッと葵は笑うと、レギオンズ(葵)はテーブルの下から何かを取り出しテーブルの上に置く。
「「でんどうみきさぁー(てってれー)」」
お、おいまさか・・・
「蓋おーぷんー!」 パカッと蓋を開けるレギオンズ(葵)
「黒玉イーン!」 ケースから三個程ミキサーに黒玉投入するレギオンズ(葵)
「すいっちおーーーん!!」 ぽちっとな
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃりぎゃりぎゃりごりぎゃりごりごりっごっごりぎゃりぎゃりぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぅぅぅぅぅぅうん
なにか途中までは抵抗してたけど、だんだんと潰されて滑らかな音に変わっていった・・・。
私はその光景を呆然と見ていることしか出来なかった・・・。
「こうしてー滑らかになった黒玉のムースに、私の血液をたらしてー、再度すいっちおーーーん!!」
ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん・・・・・・
「もっもうやめたげてえええええええ!!」
私は思わず懇願してしまった。楽し気にしてる葵の首が、ものすごい勢いでこちらにギュンッと振り向く。
「え?ダメですよ??だってちゃんとムラなく混ぜないと動作が悪い子できちゃいますから、ふふ」
そう言いながらレギオンズ(葵)がミキサーから外して持ってきた赤黒い液体を、フンフーンと鼻歌を歌いながら混ぜ棒でグリグリ確認してる。
「それではよーく混ざったこの液体を、こちらの金属の粉末にぶっかけまーす」
どぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼどぼぼぼぼ・・・・・・
金属にかけられた液体は不思議なことに赤黒さが消え、なじむように粉末の中に吸い込まれていった。しばらくすると金属がざわざわと蠢き出し、ちょっとづつ爪くらいの大きさの個体が生まれ始め、その数は徐々に増えていき、最終的にはトレイの中にあった金属の粉は全てレギオンズに変貌を遂げた。トレイから這い出してテーブルの上に整列してるその様は、さながら軍隊のようだった。
「葵!あっあんたなんてことしてんの!せっかく捕まえた同胞をこんなにしちゃって!!」
「でもですね、お嬢様。こちらの生物に寄生させたところで、守護者にワンパンでやられちゃうじゃないですか?沖縄で善戦したのだって何百年とかかかって出来たのだけど、結局やられちゃったじゃないですか?もうそろそろ別のアプローチをしたほうがいいと思うんですよね?」
「う・・・そりゃそうだけども・・・」
確かにこのまま同じように攻め続けても、結局やられるだけで進展は見られない。
「だったら有効活用したほうがいいじゃないですか?ふふ。どうせ罪人なんですし、黒玉」
確かに私も当初、黒玉に人権なんて無いように扱ってたけども!でも最近トカゲとかに寄生させたら意外と愛嬌があってかわいいなーとか思い出したから、動物王国みたいなのでもいいんじゃない?って思い始めたとこなのに!だってウチの財閥なら全然可能だし!爬虫類専門の動物園みたいなの造ればいいじゃない!
「そっそれでも、一応同胞じゃない・・・」
こちらを見る葵の光の無い瞳が見つめる中、そんなほんわかした侵略計画なんて話せるはずもなく。
「だからなんですか?」
「もっもうすこし大事に扱ってもいいんじゃないかなぁ・・・なんて?」
「大事に扱ってますよ?レギオンズに生まれ変わらせて。前よりもやられにくく、侵略活動には最適なんですよ?この今の時代に合った進化なのです、これは!」
「ま、まぁそうかな・・・」
「そうですね、きっとお嬢様は自分のマザーがいないから拗ねてるんですね?」
は?え?いやいやいやそんな感情はまったくないよ??
「じゃあ手っ取り早くお嬢様の分も作っちゃいましょうか?マザーとレギオンズ♪」
そういうとゆっくり近づいてくる葵とレギオンズ(葵)。
「いっいやぁっ・・・やめてっ」
私は椅子に縛り付けられ動けない身体を捩って、必死に抵抗する。
「だいじょぶですよー、痛いのは一瞬だけですから♪」
「やっやだぁ、やだよう・・・もうやめてよう」
私は本気で涙ぐむ。すると本当に嫌がってるのをわかってくれたのか二人が停まり、葵の方がふうと溜息をつく。
「しょうがないですね・・・そんなに嫌がるとは思いませんでした」
「え?や、やめてくれるの?」
葵はそっと私から離れるとテーブルに戻った。
「こんなこともあろうかと、さっきお嬢様の意識が無いうちに採取しておきました!」
葵はそういうと試験管の様な物に入った私の血液らしきものを高々と掲げる。
私はあまりのショックに、その瞬間意識を手放した・・・
「まったく、いつまで経っても注射が怖いなんて、お嬢様は可愛いですね♪」
そう言いながら、葵は喜々として再び三分で出来るレギオンズクッキングを始めるのだった。
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はっと目覚めた私の枕元には、葵と違ったテントウムシの様な金属の生き物が寄り添っていました。
あれ?なんだろう・・・意外と可愛いかも?
私が書いてるもう一つの作品も、更新されてます良かったら読んでください。
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