閑話休題 ある日の侵略者(深海から愛を込めて)
ちょっとずつ書くようにしました。
そしたら長くなってしまった・・・。
ボクたちは横浜にある海浜公園を散歩していた。
なんでこんなとこにいるのかって言うと、友里もそろそろ進路を決めなきゃいけないお年頃になって、進学するにしてもどこの大学受けるの?って話になって、いくつか候補が上がった大学のオープンキャンパスなるものを見に来た、というわけで。
まあ三つほど大学見たけど、チャラい大学生達がボクらを放っておく訳がなく・・・。
やれ大学内を案内するので誰がエスコートするか揉めたり、終わったら終わったで連絡先教えろだの、LINEがどうだの、更にはこのあと時間が空いてるなら飲みいかない?だのとしつこいこと!
ボクや友里は判るけど、優までも粉かけ始めたのでちょっとイラっときちゃって、謎の突風で吹っ飛ばしちゃった。
まあ、優は35才には見えないくらい若作りだしね・・・綺麗だからしょうがないっちゃしょうがないんだけど・・・でもやっぱり他の男達がベタベタしてくるのは嫌なんだよなぁ。
当の本人は余裕であしらってたけど、ボクが吹っ飛ばしてたのみて、なんだか嬉しそうにニヨニヨしてご機嫌だったけどね。
そして反対に友里はと言えば
「私が声かけられた時はヤキモチ妬いてくれなかった!」
と、むくれてたんだけどね。
だって、もしかしたら友里が通うようになったら、ひょっとしてだけど恋人になったりするかもだよね?
流石に親としてそんなとこまで関与するほど、過保護じゃないしね。
ま、最終的には吹っ飛ばしちゃったけどね。
そんなこんなで、各大学でひとしきり騒動を起こしつつも見学を終えて、時間が余ったのでこうしてお散歩してる訳なのだ。
「うー、やっぱり景色はいいけど海風ってべたつくねー」
「そうねぇ、湿度がどうしても高いわよね」
と二人は海無し県民ならではの愚痴をこぼしている。
「でもこんな風に水平線が見えるような景色は、ボク達の地元じゃ見れないから、ちょっとベタつくのはあれだけどやっぱいいよねー」
ボクはそう言いながら、海に落ちないように設置された柵の欄干に、ふわりと飛び乗って片足立になり、バレリーナのようにくるーぅりと回って見せる。
「あーヒカルちゃんいっけないんだーパンツ見えても知らないんだから」
「これスカートじゃないから平気だもんー」
「ヒカルちゃん、ちっちゃい子が真似するからダメよ」
「ハーイ」
「またママの言うことは素直に聞くしー」
え、だってママサン怒らせたらコワイヨ?なんてことは本人の前で言えないので上手いこと誤魔化してみる。
「だって友里の言い方ってなんだか子供っぽいんだもん。優はちゃんと正論で責めてくるから素直に聞けるんだもんねー」
「むぅーああ言えばこう言うしー、ママもなんとか言ってよー」
「あらあら、喧嘩しないのよ。でもね友里、ちゃんとちっちゃい子でもわかるように言わないと、将来子供が出来たときに躾に困るわよ?今のうちにヒカルちゃんで練習しときなさいね」
「あれあれ?なんだかボク今嫁さんに軽くディスられたっぽい!?」
「そんなパパは元から子供っぽいなんて言ってないわよ?」
・・・言ってるやん。
まあ口じゃ勝てないから、今日のとこはこの辺で勘弁してあげるさ!シクシクシク。
しばらくお散歩を楽しんだのでそろそろ帰ろうかと思っていた時、心地好い波の音を打ち消すようなジェットエンジンの音が響き渡った。
「ヒカルちゃん!あれって・・・」
「うん、防衛隊の機体だね」
何時ものゲイ疑惑のある副隊長以下三名(まだ隊長は復帰できてないらしい)の見慣れた戦闘機が沖合いに向かって飛んでいく。
「何かあったのかしら・・・心配ね」
「うん、ちょっと見てこようかな・・・」
「その前に真理ちゃんに聞いてみたら?」
「おお、それもそうだね!スマホスマホっと」
ボクはスマホを取り出すと、真理ちゃんの番号を呼び出して電話をかける。
『はい、もしもし田所です。どうしました?ヒカルちゃん』
「あ、真理ちゃん、忙しいかもしれないときにゴメンね」
『いえいえ、どうしたんですか?』
「えっとね、今横浜にいるんだけど、防衛隊の飛行機が沖に向かって飛んでったけどなんかあったの?」
『横浜に・・・いるんですか・・・?』
あれれ?なんだか不穏な空気?
「う、うん友里の大学見学をしにちょっとね。まあもう終わってちょっと暇潰しに海浜公園プラプラしてただけなんだけどねー」
『いいなぁ・・・みんなでお出かけいいなぁ・・・私、長女枠なのに声もかけてもらってない・・・』
まさかの真理ちゃん拗ねっ子モード!?
「いやあのほらえーっとね、そう!用事でバタバタ移動してばっかりだから面白くもなんともないしさ!旅行とかならまだしも、こんな野暮用に忙しい真理ちゃん誘えないでしょ?」
『じゃ、じゃあ旅行だったら誘ってくれるんですか?』
お、ちょっと持ち直した?
「もちろんだよ!!そんなの誘うに決まってるでしょ!」
『うふふふふ、よかったぁ』
いやいやその台詞こっちだから!なんか仕事場で嫌なことでもあったのかなぁ?ちょっと甘えん坊って言うよりメンヘラ?ヤンデレ?っぽかったからちょっと焦っちゃったよ。
「ところで、戦闘機が飛んでったのは・・・」
『あ、す、すいませんなんだかみっともないとこ見せちゃったみたいで。そうですね、ちょっと沖合いのほうに侵略者らしき物の目撃情報が有ったものですから、確認という事で出撃したんです。まさかヒカルちゃん達が横浜にいるとは思わなかったですけどね』
なんだかまだちょっぴりトゲが見え隠れしてるような気がしないでもないけど、あえてスルーしとこうそうしよう。
「へ、へぇー侵略者なんだー・・・って侵略者!?久しぶりじゃない?」
ほんとに、もういなくなったと思うくらいひさしぶり。
ああ、お正月のカニさんは、おじさんたちに倒されたからノーカンで。
『ええ、ここのところすっかり大人しくなってましたからね、この間ヒカルちゃんに対処してもらった巨大生物に敵キャラが代わるかと思いきや、あっという間に無かったことになってるし、このまま平和になるのかしらーって思ってたら出てくるなんて、まるで何か大人の事情・・・』
「ストーーーップ!!真理ちゃんわかった!ボクも見に行ってくるから!ね?」
『ど、どうかしたんですか?急に』
「なんでもないよぉ?何でもないから色々考えるのやめようね?ね?」
『わ、わかりました?じゃ、じゃあ侵略者のことお願いしますね?』
「おっけえぇだよっ!真理ちゃんも変なこと考えないようにねっ!」
ボクは真理ちゃんとの電話を切ると、とりあえず優達から離れて、人目につかないように建物の影に入り込む。
服をスーツに変換して一気に上空までジャンプすると、力場を展開して一気に加速する。
戦闘機を追い抜いちゃうと元も子も無いので、亜音速程度にしとこう。
ふーぅ、それにしても海の上を飛ぶのは気持ちいいなぁー。
陸地の上は地面が流れる速度でスピード感が半端ないんだけど、海の上はあんまり対象物が無いせいなのか、結構な速度を出しててもあんまり速く感じなくていいねー。
そんなことを考えながらうっかり海面に近づいたら、思ってたよりも速度が出てたみたいで、物凄い水飛沫を上げて海が割れちゃったのでビックリした。
それから数分も経たないうちに、四機の戦闘機が見えてきたので、ボクは外骨格を形成して風の精霊力を付与した。
力場は翼状に背中に揃えて、足の外骨格が風の精霊力に合わせて変形したスラスターから、空気を噴射する推進飛行に切り替える。
こっちの方が戦闘機の速度には合わせやすいんだよねー。
ボクは副隊長の機体に近づいて、ヤッホーと手を振って挨拶する。
一瞬ビクッとしたけど、ボクだとわかると周波数を合わせて通信してきた。
『ひ、ヒカルさん!?いくらなんでも来るの早くないですか?』
「ちょうどねー横浜に居たんだよねー。そしたらみんなが飛んでいくのが見えたから、真理ちゃんに聞いたら侵略者だって言うからさ、来ちゃった♪」
『そんな都会の彼氏のアパートに突然遊びに来た、田舎の彼女みたいに言われても困りますけど・・・』
「なんだとぅ、せっかく可愛く言ってあげたのにー」
他の機体のパイロット達はちゃんとキャノピー越しに、サムズアップをしてくれてるのに。
『いやぁ、ヒカルさんの旦那サンが言ってくれたら、私もそれだけで五回はイケちゃうんですけどね』
五回って!言葉だけで五回って!!こっわーガチの人こっわー。
正臣も厄介なのに目をつけられたなぁ・・・ご愁傷さま。
「ところで、侵略者はどんなタイプなの?」
『それが水中にいるのでうっすらとしか見えてないんですが、大きさは5、6m程度なので恐らくまたカニか何かの甲殻類の侵略者なのではないかと。泳ぐ速さはそれなりにあるみたいですが、追えないほどの速さじゃ無いみたいですね』
ふーむ、そんなに大きくないしボクが来るほどでもなかったかなぁ、でも小さいからって弱いとは限らないから油断は禁物かな。
『サブリーダー!前方2キロ先にレーダー反応ありです』
哨戒機に乗っている隊員さんから報告が入る。
しばらくすると海上に白波を立てながら、泳いでる明らかに魚のシルエットじゃ無いもの発見。
防衛隊の人達は、編隊飛行を維持したまま旋回して侵略者の様子を見ている。
ボクはホバリングをして、真上からよーく観察してみる。
んー・・・あれぇ?あのシルエット・・・まさか・・・ね?
「エレス、生き物大好きな君ならアレなんだかわかってるよね?」
ボクは期待と不安の入り交じったような気持ちになる。
『・・・はい。大変言いにくいのですが、ご主人様がシルエットだけでも判別出来てしまうあの子のようです』
やっぱり・・・そうだとしたらボクが取るべき手段は1つ・・・例えそれが人類への裏切りになろうとも。
『攻撃許可が出たぞ!各自一発ずつミサイル撃ち込み用意!』
『『『了解!!』』』
ボクがエレスとやり取りしてるうちに、防衛隊の方では、取り合えず撃っちゃおうか?みたいな話にまとまったらしく、旋回していた戦闘機は一度離れて攻撃体制に移っていた。
そして各機から「ボシュッ」という音と共に、発射されるミサイル。
大した速度が出ていない侵略者にあっという間にたどり着くかと思いきや、その手前で爆発四散してしまった。
『なっ!?防御しただと!!』
ミサイル煙が晴れると、そこには傷ひとつ付かず(水中なのでよく見えないけど)元気に泳いでいる侵略者と、その手前で右手を翳して、風の精霊力による障壁を張っているボクが浮かんでいる。
『え?ヒ、ヒカルさんナニしてるんですか!?』
そう、ボクは守ったのだ、ミサイルから侵略者を。
「何って、邪魔したんだよ。君たちの攻撃をね」
『何でですか!?まさか・・・裏切るってことですか?』
「裏切る訳じゃないよ、それに元々ボク達守護者は、地球を守ってるだけで人類の味方じゃないんだよ?裏切るなんて言わないで欲しいな」
裏切るって言われたボクは若干イラッとして、強めに反論してしまった。
『そんな・・・あ、田所女史に言いつけますよ!いいんですか?』
「なっ!?まっ真理ちゃんは今関係ないでしょぉ!?なんで言いつけるのさ!止めてよねそういう大人気ないことするの」
『大人気ないって・・・侵略者を助けようとしてる人に言われたくないですね!なんなんです?さっき敵影を見てからヒカルさんの態度がおかしいなって思いましたけど、なんで守ろうとするんですか!?』
「それはね・・・」
ボクがそう切り出すのと同時に、侵略者が浮上してきてその姿が露になる。
あぁ・・・やっぱりだ、間違いないこの子は・・・。
『だ、だんごむし?いや海だからフナムシか?』
「ちっがぁーーうぅ!!この子はグソクムシ!!しかもダイオウグソクムシだよっ!!」
そう、この子はボクが某水族館で見てから愛して止まないダイオウグソクムシ(通称:グソクン我が家限定)なのだ。
毎日のようにウチに溢れるグソクングッズを見てるボクは、シルエットを見た瞬間わかっちゃったのだ。
「この子はね!きっとボクに会うために来てくれたんだぁ、ウフフフフフフフフ」
『ヒカルさんが御乱心!?』
「失敬な!ボクはいたって平常心だよ!グソクングソクングソクングソクングソクングソクングソクングソクングソクングソクングソクンはぁはぁはぁ」
『ダメだ、平常心って言葉の意味がわからないくらいおかしくなってる』
だって自分が大好きなものが目の前に来て動いてたらおかしくなっちゃうよね?ね?
浮上してきた侵略者はボクらの方をその黒い宝石のような瞳で見つめると、キュルーンと可愛らしい音を出しながら首を傾げるような仕草をしてくる。
「だめだぁ!!ナニこの可愛い生き物っ」
ボクは思わず侵略者に抱き付き頬擦りしてしまう。
あー、硬くてざりざりして磯臭いけど、憧れのこの子に触れるなら全然かまわないー。
『ヒカルさん離れてください!攻撃できません!そこを退いてください!!』
「なっ!この子は何もしてないじゃない!悪い子じゃないよ!ボクが責任持ってちゃんと飼うから!」
ボクは自分の背後に侵略者を庇うようにして、フルフルと首を振って訴えかける。
今なら分かる王蟲の子供を隠してたナウ○カの気持ち!
『いやいやいや飼ったらダメでしょ!!そんなの!!』
「だ、だってグソクン・・・」
『元はそうかも知れないけど、でかいしどうやって飼うんですかそんなの、絶対田所女史に怒られますからね!』
「うぅー・・・だってぇ」
ボクが再びグソクンに抱きつこうとして振り替えると、キュルーンとしてたグソクンの顔から胴体の途中まで、ピシッと切れ目が走ってガパァッと大きく開く。
「・・・え?」
なにこれ、グソクンってこんなんだっけ?
バクンッ!!モッチャモッチャモッチャ・・・
『ヒカルさんが喰われたっ!!?』
モッチャモッチャモッチャモッチャ・・・モッッペッ!!
バッシャァァン!!
『ヒカルさんが吐き出された!!?』
しばらく咀嚼されたボクは不味かったのか硬かったのか、吐き出されて海面に叩きつけられた。
侵略者はキチキチキチと裂けた口をワキワキさせている。
ボクは海中からゆっくりと浮上して空中に浮かび上がる。
『ヒカルさん!大丈夫ですか?』
「・・・ない」
『え?』
「・・・こんなのグソクンじゃない」
『は?え?』
ボクの体が緑を基調とした風のフォームから紅蓮の炎に変わっていく。
「ボクの・・・ボクのグソクンを返せえええぇぇぇ!!」
『元々ヒカルさんのじゃ無いですよ!?』
ボクは赤熱化した拳を握りしめると、大口を開けてワキワキさせてる侵略者に殴りかかった。
侵略者もさすがにヤバイと思ったのだろうか、その口を閉じて再びノーマルグソクムシに姿を変えて、そのつぶらな瞳でボクの事を見つめてくる。
そんな事でこのボクが止められると思ったら・・・思ったら・・・
「ダメだぁ!君を殴るなんてできないよぅ!」
ボクは拳を開いて再び侵略者に抱きついた。
「ギキャアアアアアアアアッッッ!!」
あれ?ボク殴ってないのになんだか苦しそう?
侵略者を見るとなんだか白っぽかった色が、赤みがかって茹でられたカニみたいな色になってきてた。
よく見たら海面もボクらを中心にして、ぼこぼこと煮えたぎってる。
「あーよく考えたら、あっついの拳だけじゃなかった」
侵略者は「キュウウウウゥゥゥ・・・」となんとも言えない鳴き声を最後に、縮んでいったのだった。
あれかな、正月のカニといい海産物の侵略者はもれなく茹でられたら死んじゃうのかな・・・。
『ヒカルさん、結果オーライですけど田所女史には報告しますからね?』
「なっ!ちょっとそれは!!」
『って言うかヒカルちゃん?全部聞こえてるからね?明日家に伺いますからね?覚悟してくださいよ』
「ヒィッ!!」
そして次の日リビングで正座で一時間くらいお説教されたのだった。
そんなボクをホルマリン浸けになったグソクン(ちっちゃくなったのこっそり拾った)が本棚から見つめてた。
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