頼っちゃいます
今回は早めだったような気がするっ!
ボクは目の前にそびえ立つ山を見上げて深呼吸する。
「んーやっぱ富士山はおっきぃねぇー」
そしてクルリと振り返り、後ろではぁはぁと息を荒くして、膝を抱えるように下を向いて丸くなっている真理ちゃんを見る。
「ね?」
再びのボクの同意を求める問いかけに、ガバッと顔を顔を上げたかと思うと、ちょっと涙目で答える。
「ね?じゃないですよ!ね?じゃあ!なんで自宅から五分もかからないで富士山についちゃうんですか!?おかしいでしょ?一体時速何キロ出てたんですかぁっ!」
「えーっと、ウチから富士山までの直線距離が・・・」
「何真面目に計算して答えようとしてるんですかっ!明らかにマッハだったでしょ!完全に空気の壁二回くらい突き破りましたよね!?しかも尋常じゃない速度で景色が後ろにすっ飛んで行くんですよ?私二回くらい大人として恥ずかしい事になりそうだったんですからね!」
「えへへ」
ボクはちょっと照れたように微笑み返す。
「誉めてませんからね!?おかげで私しばらくは絶叫マシーンとか乗っても絶対に『きゃーっ』とか言わない自信ありますよ!もうっ!こんなんだから可愛いげがないって言われちゃうんです」
えー真理ちゃん可愛いのにー、ねえ?。
「でもでも、『スマホの電波が届かないから、もう少し下に降りて貰ってもいいですか?』って言ったの真理ちゃんだよ?」
「いやまさか、上空じゃ感じられなかったスピード感が、地表に近づいたらあんなスゴいとは思わなかったんですもん」
ちょっとボクの指摘にシュンっとする真理ちゃん。
ほら、こう言うとこ可愛いじゃんね?なんで隊の男共は、わかんないかなー。
「まあ確かにボクも処理能力が上がってなきゃ大変かもしんないなぁ。知らないウチに出来ちゃってたもんだから、そういう苦労は生憎無かったけどね。だから配慮出来なくてゴメンね」
「い、いえいえそんな!こっちこそお願いした上に素早く対応してもらって、しかも連れてきて貰ったのに、文句ばっかり言っちゃって・・・ホンとにスミマセン!」
ボクと真理ちゃんはしばらくお互いにペコペコと謝りあうのだった。
「それにしても、あれだけのスピードで加速したりしてるのにGとかの影響が一切無いってスゴいですね」
しばらくしてから真理ちゃんがあらためて飛んでいる時の状況を分析し始める。
「うん、『力場(フィールド』の中はは重力制御と、慣性制御をしてるからね、主にエレスがだけど。ボクみたいに頑丈じゃ無かったり生身の人間があんな速度一気に出されたら、それこそ中身がシェイクされちゃうよね、きっと」
「・・・まあ、前にウチの戦闘機部隊と追いかけっこしたときから思ってましたけど、やっぱりヒカルちゃんはとんでもないですよね」
「あれあれ?なんだか今ボクバケモノ認定されたっぽい?」
「ふふ、そんなこと・・・無いですよ?」
「なんか今変な間があったけどっ!?いいもん、どうせ人間じゃないことなんてとっくに自覚してるもん」
まあ、死なない時点で普通じゃないもんね。
「まぁまぁ、でもその能力のおかげで私たちこうして出会えたんですし。それにこうやって私が頼りきるなんてそうそうないですよ?」
「そういう台詞は男性に言うべきだと思うよ?そしたら真理ちゃんなんて入れ食いだと思うんだけどなぁ」
「私も素直にこんな台詞が言える男性が近くに居ればいいんですけどねぇ。なんせウチの男共ときたら脳筋バカみたいなのとかしかいないんですもん。それにナゼか私の回りって女の子の後輩たちが常にガードしてるって言うか、男の人と二人きりになれる状況にならないんですよね・・・」
真理ちゃんはそう言うと、遠い目をしていた。
あんまり深く関わらない方がいいっぽいね。
「さて、それじゃあ富士山の周りの磁力場を視覚に写し出せる?エレス」
「あれあれ?私の悩み事スルーですか?スルーなんですかぁ?」
なおも食い下がってくる真理ちゃんだけど、ここは心を鬼にして無視する事にした。
なんかこれ以上踏み込んじゃいけない領域のような気がしてならないもの。
なんだか彼女の背後に沢山の後輩ちゃんたちの情念みたいなのが、渦巻いているように見えるしね・・・。
『はい、ご主人様。磁力場を視覚化します』
エレス答えると目の前に沢山の線が写し出され、それが真理ちゃんの説明にあったように、富士山頂に向かって集束されているのが分かる。
でも不思議なのはその集束した先だ。
「ねえエレス。あの集束した先で磁力線が消えてるのはなんでだろうね?」
「え?消えている?」
真理ちゃんもボクの言葉に正気(?)に戻ったらしく聞き返してくる。
「うん、真理ちゃんの説明聞いてた時から、なんか違和感あったんだけど、実際に見てみたらわかったよ」
「違和感ですか?」
「ほら、タブレットで見せてくれたワイヤーフレーム?あれって先っちょの方でプッツリ切れてたよね?」
「え、ええそうですね」
真理ちゃんはカバンからタブレットを取り出して確認すると、こくこくと頷いている。
「でもさ、磁力ってこんなにプッツリと消えるものだっけ?ほら、、理科の実験とかで棒磁石紙の下において、上から砂鉄振り撒く実験ってしなかった?」
「あー、そう言えば磁力線を見えるようにする実験みたいなのでやったかもですね」
「うん、その時の磁力の形って覚えてる?」
真理ちゃんは思い出すように人差し指を唇に当てて、うーんと、思い出すように虚空を見つめる。
「確か・・・棒磁石に対してこう・・・連続した流れになってたような・・・」
「そう、もっと正確にいうとね、N極から出た磁力はS極に戻っていくんだよ。これは勿論地球自体の磁力線もおんなじなんだよね。だから最初に磁力場って聞いた時に、漏斗状になったワイヤーフレームを見て違和感を覚えたんだよね」
「そ、それじゃあウチの情報管理部のデータに間違いが・・・」
「ううん、それも間違ってないよ。だって今現地で見てエレスが視覚化してくれたものも、同じ形してるんだもん。だけど磁力線っていうのも間違ってない。じゃあこの戻っていくべき線は何処に行ってるんだろうっていう話なんだよね」
「なるほど・・・で、何処に戻ってるんです?」
『それがわからないのです。出たものは必ず戻るはずなんですが・・・』
「エレスさんにもわからないんですか?」
『私は別に万能と言うわけではありませんから、申し訳ありません』
「い、いやいや別に責めてる訳じゃないんで、謝らないでください」
『いえ、もっと責めて罵ってください。最近ちょっとご主人様以外の方に罵られるのもいいなぁって思っているところでして』
「・・・は?」
「ちょーっとまてまてー?ボクがまるでエレスを罵って悦ばしているような言いっぷりはやめてくれないカナー?」
『え・・・御自覚が無い・・・と?上級者ですね』
「ひ、ヒカルちゃん・・・?」
「おかしいって!ボクそんな趣味ないもん!むしろ優にいいようにされまくってるもん!真理ちゃん?なんでちょっとずつ離れてくの?地味に傷つくんだけど!?」
『まあ、冗談はこのくらいにして』
「「たちが悪いよ!?」」
『ご主人様、あの漏斗の内側に行くことは出来ますか?』
急に真面目な声色でエレスが聞いてきた。
ボクは上空を見つめて答える。
「まあ、そんなに高くないしね、問題ないんじゃない?」
その気になれば宇宙までだっていけるけどね、エレスだって知ってるはずだよね?
『恐らくなんですが、内側はこちらからは観測出来ませんがひょっとしたら向こう側かも知れませんよ?』
「まさか消えた磁力線は・・・」
「向こう側に繋がっているってこと?」
『その可能性が大きいです。それを確定させるのに漏斗の先の内側を見る必要があるのです』
「なるほどねーじゃあちゃっちゃと確認しちゃおっか」
「そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」
真理ちゃんがボクの袖を掴んでくる。
「だって戦闘機じゃ500mの穴に合わせるのだって大変でしょ?観測データだってとらなきゃいけないんだし。その点ボクなら空中に留まることだって出来るし、エレスが見てくれたらすぐに分かることだしね。そんなに時間はかからないよ」
「うぅ・・・お願いすることしか出来ないのが歯痒いんです」
真理ちゃんがうるうるとした瞳で見つめてくる。
「あはは、ボクだってこんな身体にならなきゃお願いされてないよー」
ボクは笑いながら真理ちゃんのほっぺをむにーんとする。
「い、いひゃいです」
「ありゃ、ごめんごめん」
「・・・じゃあ、頼っちゃいますからね?」
「うん、任せてー危ないと思ったら引き返して来るからね」
ボクは服を分解しながら、一応能力倍率を引き上げてスーツに身を包む。
なんだか変身するのもとっても、久しぶりな気がするけど、気がするだけだけだと思いたい。
「じゃあ行ってくるねー」
と、ボクは真理ちゃんに軽く手を降って、富士山頂にある漏斗の先を目指して飛び上がった。
がんばって書くので評価とかブクマされると見悶えます。