懐かしいなぁ・・・
もう8日なのにまだ大晦日の話書いてる私を許してください。
入荷の為に入ってきたトラックは、不自然過ぎるほどに揺れていた。
まるで、どこぞの駐車場に停まっていてなかが見えない様に真っ黒にスモークが貼ってあって、端から見てても
「あれって絶対ヤってるよね?」
ってヒソヒソ言われちゃうワゴン車位揺れてた。
チラっと優を見ると多分同じことを考えていたのだろう、ほんのり頬が染まっていて、ボクと目が合うと「アハハ・・・」と誤魔化すように笑った。
「ヒカルちゃんもおんなじこと考えてたんでしょぉ?」
と言いながらボクの脇をウリウリしてくるので、ボクも誤魔化すように笑うしかなかったんだけどね。
そんなボクらを見て、友里がちょっとやきもち妬いて膨れてたけど、笑ってた意味まではわからなかったらしく、
「もー二人ともなにわかったような顔でじゃれてるのよーズルいー」
と言って騒いでた。
周りのお客さんもトラックの異常に気付いたのかザワザワし始め、お店の中からも店長さんらしき人と、数人の店員さんが出てきて騒いでる。
「な、なんだこりゃ!活きたマグロでも入ってんのか!?」
訳がわからないこと言ってるけど、ホントだとしたら待ってても買うよ?
トラックは揺れながらも駐車スペースに入り、運転手さんは慌てたように運転席から転がりだしてくる。
「こ、ここに着くちょっと前から、いきなり揺れだしたんだ!なにがなんだか・・・」
「とりあず開けてみるか・・・このままじゃどうにもならねえしな」
店長さんは、店員さんや運転手さんと相談してとりあえず開けて見ることにしたらしい。
「なにが入ってるんだろうねー、ホンとに活きたマグロだったら欲しいよねー」
「そうねーでもちょっと高いかもよー」
「まあ、美味しいものはちょっとあればいいよ。ボク大トロよりも中トロの方が好きだしねー。何よりブリの方がもっと好き」
「わたしもブリのが好きかなー」
「あらあら、ウチは安上がりで助かるわね、ふふ」
ブリだって良いもの買えばそれなりにするけどね、それでもマグロに比べりゃ安いよね。
ボクたちがそんな呑気なことを話してると、トラックの荷台が徐々に開き始めた。
トラックの中の冷気なのか、外が寒すぎるのかわからないけど、荷台からはドライアイスの煙みたいな湯気がもっふぁぁーと流れ落ちる。
周りを取り囲む皆が固唾を飲み込んで見守るなか、荷台のなかで何かがのそりと動いた気がした。
「っち、煙でよく見えねえな。運ちゃんよぉ、荷台全部開けてくれや」
「は、はい、わかりやした」
店長さんに言われて運転手さんが一気に荷台を開けると、溜まっていた煙は一気に流れ出して荷台のなかが顕になった。
「あ、あれって・・・」
そこにはボクにとって見覚えのあるものが鎮座していた。
「こりゃあ・・・でかいな」
「でも積み荷の時はこんなん居ませんでしたよ!?」
そう言いながら見上げる店長さん達の前には、巨大なカニが脚を畳んでじっとしていた。
「あれって・・・まさか・・・」
『カニゾルゲmarkⅡですね』
「「「はい!?」」」
エレスの発言にボクら三人の声が、綺麗にハモった。
『ですから、あれはカニゾルゲですよ。もちろんご主人様を殺したのとは別の個体ですけど』
ボクはふと思い出した、そういえば最初の頃エレスって侵略者に変な名前つけてたわーと。
「ボクと会う前からやってたんだね・・・名前付けるの」
『当たり前です、名前つけて敵って認識しないと殴れないじゃないですか』
「ああ、そういう理由でやってたんだ、アレ」
「ヒカルちゃん、どういうこと?」
と、友里が聞いてくる。
「ああ、エレスってね最初の頃は侵略者に名前つけてたんだよ。最近はボクが戦うし、いっぱい出てくるし、瞬殺しちゃったりで名前付けるの無かったんだけどね。ついでに言うとボクが死んじゃう原因になった時の侵略者も、カニに憑依したタイプだったんだよ」
「それでmarkⅡなんだね・・・」
「まあ、そうゆうこと」
ぶっちゃけ他にもカニ型なんていそうだから、実際はⅡどころじゃないと思うけど、あくまでエレス視点なので黙っておこう。
「おーい、フォークリフト持ってこーい!降ろして調理するぞ」
おいおい、店長さんそれカニであってカニじゃないよ!?しかも食べる気(食べさせる気)満々じゃん!っていうかさっきまで車揺すれるほど動いてたの忘れてません??
そんなボクの心のつっこみは聞こえるはずもなく、カニゾルゲmarkⅡの脚の下に、フォークリフトの鞘が差し込まれる。
「よーし、入ったぞー!傷つけ無いようにゆっくりなー」
店員さんが動かすフォークリフトがゆっくりとカニゾルゲを持ち上げようとしたその時
『ぎっしゃああああ!!』
それまで動かなかったカニゾルゲがまるで「なにさらしとんじゃ!ワレぇ!!」とでも言うか様に雄叫びをあげてその大きなハサミをジョッキンジョッキンし始める。
「う、うっわああああ生きてたあああ!」
「にげろおおおおお!!」
いやだからさっきまで動いてたじゃん?なんで動かないからって死んでると思うのさ!よく見たら口から泡だって出てたよ?
動き出した巨大なカニに周囲の人たちも驚き逃げ惑う。
そんな周りをジロリと睨むように目をギョロギョロ動かして見回すと、再び雄叫びを上げて追いかけようとする。
『ぎしゃしゃしゃしゃああああ』
ガンッ!!
「「「『・・・・・・・・・・』」」」
『ぎ、ぎしゃしゃしゃしゃああああ』
ガンッ!!!
「「「『・・・・・・・・・・・・・・』」」」
ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!
その後もトラックの中で何度もいったり来たりを繰り返しては、トラックの壁にぶつかり悲しそうに項垂れるカニゾルゲ。
『markⅠの方が高性能でしたね・・・縦にも歩いてましたから』
ポツリとエレスがつぶやいた。
トラックの荷台から降りれないと判るや、店長さん達の動きは早かった。
「おーい、このままボイルするからスチーム持ってこいやー」
「うぇーい」
そう言われた店員さんが持ってきたのは、太いホースが繋がった機関銃のような形のものだった。
「どうせ出られねえしな、運ちゃんーウィング少し閉めてもらっていいか?」
「は、はい。閉めますよぉー」
徐々に閉まっていくトラックの荷台。
「おお、そのくらい開いてりゃいいぞー」
少しだけ空いた隙間からカニゾルゲが不安そうな目で周りを見て『ぎ、ぎしゃあ・・・』と悲しげにか細く鳴く。
そんなことはお構いなしに店長さんが容赦なく指示を出す。
「いよぉーし!スチームいってみよぉー!!」
周りにいた大人たちは、それを聞いて「ああ、八時に集合しちゃう某人気番組の唇に特徴のあるあの人の真似だなぁ」と思ったとか思わないとか。
店長さんの号令と共に、三本程突っ込まれた先からは、物凄い量の蒸気が噴き出して、みるみるうちにトラックの荷台の温度を上げていく。
その熱気は周りの温度を上げるほどで、遠間に見てる人も暖かいのかほっこりとした顔になっている。
『ぎいいぃぃしゃあああぁぁぁ・・・・・』
荷台から出られないカニゾルゲは成す術もなく断末魔を残しボイルされていくのだった。
約20分後
「よーしよし、そろそろいいんじゃねえか?」
「静かになりましたもんね」
「じゃあゆっくり開けますよー」
再び開いていくトラックの荷台を、店長さんが覗き込んで叫ぶ。
「な、なんだこりゃ!?」
「か、カニが・・・」
「「「小さくなってる!?」」」
ああーやっぱりねー倒したらそうなるよねー。
「あれ?でもあんなんでも塊魂って壊れるの」
『まあ、物理的に砕かれるか、精神的に砕かれるか違いじゃないですか?最初に出られなかった時点でかなりポッキリ折れてたっぽいですし・・・しかも活きたままボイルされるとは思わなかったんでしょうね』
まあ、ボクの出番が無かったけど、倒せたならヨシとしよう。
「カニが・・・でっかいカニが・・・ちっちゃくなっちまった」
「店長・・・」
悲し気な店長さんを店員さんが慰めている。
慰められて少しだけ元気が出たのか、店長さんは立ち上がり叫んだ。
「ちくしょう!なんて日だ!!」
そして大人のみんなは心のなかでつっこみをした。
「「「そこは『ダメだこりゃ!!』だろ!?」」」
と。
いやぁ、今年のお正月はお寿司が美味しかったでぃす!
また一年懲りずにお付き合い宜しくお願いします!
(*-ω人)