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異世界の機甲世界樹  作者: 無銘何某
第一章 =アルバの町で開業 序之章:Deus ex Machina’s View=
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ルールブックより抜粋:盗むな! 殺すな! 踏み倒すな! →□

 

 冒険連の会員証は、うっかりすると紛失してしまいそうな、金属でできた名刺サイズのカードだった。商業組合でもらったカードがカードといいながらそれなりの大きさだったので余計そう感じるのかもしれないが、とにかく小さかった。

 それだけに、紐でくくれるような心遣いがされており、ほとんどの冒険者は首から下げるような感じで保管しているようだ。

 わたしはストレージがあるのでそれに突っ込むだけでいいんだけどね。


「それでは次ですね。冒険者として活動するにあたって、守っていただきたいルールをご説明いたします。こちらは冒険連所属の冒険者として活動するためのルールブックです。一応、公共秩序に反しない限りは何をされてもかまいませんが……とりあえず、最初のページの三原則だけは順守してくださいね」


 そう言って示された、最初のページの三原則というのは……。


『盗むな! 殺すな! 踏み倒すな! 以上、冒険者三原則は絶対守りましょう!』


 いやいや、これ、書く必要あるのってくらい、基本的なことだよね?

 一応、項目別に詳細が書かれてはいるものの……うん。それくらい、冒険者たちっていうのは荒っぽいんだなぁっていうのがうかがえるような内容だったとだけ、言っておこう。


 あと、踏み倒すな! の項目は借金とかツケとかの基本的な内容のほか、悪質な借金に悩まされている場合は必ず冒険連や各種組合、国に相談すること、と書かれている。

 まぁ、妥当な線だろうが、そういったことの相談事も公的に行われているのかと思うと、ちょっと感心してしまう。異世界を舐めていたかもしれない。


「あと、ルールブックの……えぇっと、このページですね。ここに記載されているとおり、依頼の報酬で実際に支払われる金額は、全体を100とした時の60に当たります」


 うん、その辺は商業組合と一緒なんだね。行き先も同じだ。

 100の報酬が支払われたとして、その40が税金の充当額にあてられるというのは、商業組合で年収の四割を税として納めなければならないのと同じようだ。

 どうにも冒険者連中はそういったことに疎いため、その都度徴収する形で確実に税金をかき集める方式をとっているらしい。

 余ったお金が返還金として支払われるのも同じだ。

 ちなみにこのことは、依頼達成時に依頼報酬と同時に渡される、報酬等明細書にも記載されるそうな。

 説明はさらに続く。


「あとは……ルールではなくガイドラインみたいなものになりますが、このページをご覧ください。冒険連では実力に応じてというより、過去に受けた30件分の依頼の平均ランクに応じ、階級を定めています。最初はランク3からスタートしますが、初回の依頼達成時からランクの再計算は開始されます。より具体的には、すでに(・・・)ランク3の依頼を(・・・・・・・)30件達成したと(・・・・・・・・)仮定して(・・・・)、初回の計算は行われます。それ以降も、1件依頼を請け負うごとに依頼の推奨ランクの平均を再計算しなおし、その値を次の依頼を達成するまでのランクとしています」


 ……ん? それはまた、予想外のルールだ。実力主義なのは確かだが、それだとずっと依頼を受けないでいるやつとか、出てきそうだ……。と、そんなうまい話でもないだろうけど。冒険者稼業一筋の人なんかは特に、依頼を受ける・受けないがそのままその日の食事代に直結するわけだし。


「このランクには有効期限などはございません。ですから、一度確定したランクは、次に依頼を達成したときまで常に一定になります。そのため、原則長い間依頼を受けていなかったからといって、とりわけ何かしらの罰則を与えることもしません。何かしらの理由で冒険者として活動できないという場合もありますし、私共は冒険者の方々に仕事を紹介するのが本分ですからね」


 それはごもっともな話だ。

 むろん、経験と実力が足らず、実入りのいい依頼を多く受けられない場合であれば、冒険連も黙っているわけではなくそれなりの援助はするそうだ。

 しかし、それに甘えてばかりいられるかといえば、そうもいかない。しっかり対策は取られているわけで――。


「生活が困窮していたとしても、私共もただ黙って生活を支援するわけではありませんけどね。働き者にはしっかりと援助金を支払いますが、一定期間以上、依頼も受けないようなら催促はしますし、単に実力不足だ、という場合には冒険連の内部業務の手伝いを紹介、なんてこともしますし。でも、それでも呼びかけに応じていただけないようであれば、援助打ち切りも考慮に入れなくてはなりません」


 ということだそうだ。

 まぁ、普通に依頼を受け続けている分には問題ない。たとえそれが、実入りの良くないものであれ、受けていればいいのだから、冒険者になりたての人であっても、生計は普通になりたてることはできるそうだ。

 そうして、徐々に実力をつけていって、いつかは冒険連の援助も断ち切る。それが、冒険連としても望ましい活動方針なのだとか。


「アリフェ様も、生活が苦しくなったら、私共冒険連であれ、商業組合であれ。所属する組合にお気軽に相談なさってください。悪徳な借金を抱えられるより、何倍もマシですから」


 なんて、いい笑顔でシャレにもならないようなことを言われたところで、説明は終了した。

 よろしければ早速依頼を探していきませんか、といわれたが、わたしとしてはどちらかといえば、せっかく冒険連に来たのだから、今日はここで販売作業に徹させてもらいたい。


 ――が。しかし。

 釣り銭なども考慮して、しばらく資金を稼ぐ必要もあるために、まずは依頼を受けて対価をもらうところから始めることにした。

 うまくいかないのはどこの世界も一緒なようである。


 さて。厳しい状況に立たされている現状を改めて認めたところで、さっそく依頼検索端末で依頼を探して、引き受けてみることを伝えると、ミリンダさんは喜々として再び説明を始めた。

 それらをかいつまんで頭の中に入れつつ、案内された検索端末エリア内のブースの一つに座った。

 聞いた限りでは冒険連の中でのその作業はいたって簡単で、端末で依頼所の検索を行い、気になる依頼や受けてみたいと思った依頼があったらその依頼が書かれている依頼書を備え付けのプリンターで印刷。窓口に提出し、受理手続きをおこなってもらうという形だ。

 その依頼書にはランクが記載されているものの、そこにはなまじ推奨こそあれど受けられる依頼に制限はないので、思い切って高ランクの依頼を一件だけ受けた。青の癒し手という都合のいい解釈のされ方をされているようなので、遠慮なく利用させてもらおうという魂胆だ。

 ちなみに検索端末はあれだ、地球にあるごく普通のPCとほぼそっくりだった。

 前の文明をもとに例の種族が作り上げたものなんだろう。

 前の文明、それも全盛期のころはそれこそ電磁属性のマナ(≒液晶他、ディスプレイ画面の役割)とナチュラルマナの遠隔観測技術(≒タッチパネルの役割)を応用した虚空投影GUIとか、アストラルマナを読み取ることで手足を使わずに操作できる精神感応UI、通称PUIという技術まであったようだから、それと比べたらまだまだ、なんだろうけど。

 これ、この部分だけ見ればもう、局所的には地球と同レベルの文明まで復興できているんじゃないだろうか。


 もっとも、ユグドマキナに言わせれば、これまで見てきた範囲内で決めつけるのは論外で、もっと広く、深く見て判断していく必要があるらしかったが。まぁ、当たり前の話だ。

 邪推すれば、技術力が進んでいる部分に関してはハーフマキナが先進的な技術を開発していく一方で、遅れている部分では群雄割拠で実力主義という社会性と、それらの技術にいまだに根強く嫌悪感を示しているエルフ。これらのそう反する要素が、このちぐはぐさを醸し出しているのだろうかとも思えてしまうのだが。

 実際問題、エルフを講師に持った魔法使いたちの魔法は、それこそ機銃の有無が関係ないくらいの戦力となり得るようだし。こと消費マナ量<技量<自然科学の知識の構図が成り立つこの世界において、長生きゆえに知識深く、技量も高まりやすいかの種族は、機械などなくとも生存していけるだろう。


 このほか、いくらそうした式が成り立つとはいえ、生活を送るうえで必要になってくるライフラインについては、水以外はすべて魔法で補えるようなものばかりだし、そういったものに限って本人の負担はかなり少なくて済んだりしている。この事実が、このちぐはぐさに余計拍車をかけているのかもしれない。


 必然というべきか、ぜいたくをしたがる貴族の道楽目的や、マナの消費を極力抑えたい冒険者諸君以外では、機械になじみ深くならないのも道理といえるものだった。


 ただ一つ言えることはある。いわゆる情報の共有化という分野ではおそらく、この世界では最も秀でた技術が使われていることだろう。

 鮮度の落ちていない、可能な限りの新鮮な情報を必要な場所に送り届けること。それだけは、どうしても機械の力が必要になってくる。

 そうでもなければ例えば、商業組合や今いる冒険連のシステムなど、構想すらできなかっただろう。


 魔法などの存在から銃など地球における近代兵器の発展には少々遅れがみられるようにも思えるのはおそらく、一度文明が滅びたことで、及び腰になっているのかもしれない。次に下手をすれば、今度こそ滅びかねない、と。それに対して驚異的なのは魔獣の存在。されど、前のわたしが残していってくれた記録の無事な部分が、種族の分化がそれに見事に対応して見せていることを示してくれている。


 『機銃』――いわゆる関数魔法のプログラムを組み込んである魔法の銃器に関していえば、そこも局所的には発展している様子だが、それでも全体的に見ればこの世界はまだ、剣と魔法の世界、といったほうがしっくりときた。




 さて。肝心の依頼だが、内容は街を覆っている、威圧結界という結界の媒体を補修する手伝いだ。

 威圧結界というのは――まぁ、相手のアストラルマナに干渉して、プレッシャーを以って追い返そうという魂胆のもと作られた、拠点防衛に用いられるような大規模魔法の総称のことだ。大抵は害意のある魔獣などに対して向けられているため、人に飼われている、ないし懐いていたりしている魔獣などであればスルーできてしまえるのだが。

 それほど苦も無く終わらせることができるだろうと思って引き受けてみたのだが……正式に請け負って、現場に移動してから後悔した。

 いや。目立つか目立たないか、その点についてはもういまさらというかうん。昨日の治療行為の時点でもう、青の癒し手という別の意味で、それもある意味痛い通り名で名声がついてしまったから問題ないといえば問題ない。

 わたしが問題視しているのは結界の構築に使われている媒体――機械の部品の方だった。

 目の前にあるソレを解析した結果、うかつに直していいものかどうか悩ましい代物だったのだ。


挿絵(By みてみん)


〔イミテーションコア

マナ残量:マナ容量=1.486341E+25:1E+40

使用状況:使用中

<危険!大規模精神疾病の恐れあり!><危険!大規模爆発の恐れあり!> 損傷状態が使用可否分岐点を上回っています。直ちに使用を中止してください。

損傷状況:大破 修復可能(修復コスト>生産コスト)

製作者:有限会社○○ 推定生産年月:XX年XX月(登録されている生産ロットのデータより推定。市場に出回ってから31XX年経過している模様)〕


【……どう考えても前の文明で使われていた貯蓄型マナ供給機の現品ですね。しかしかなり劣化が激しいです…………これを直すのはアリフェが何者なのかをひけらかすことになりかねません】


 ユグドマキナも同意見のようだ。


 イミテーションコア。その名の通り、模倣品のコアである。ユグドラシルコアが、亜空間迷宮の核を模倣した、いわばラビリンスコアのイミテーションなのに対し、このイミテーションコアはユグドラシルコアのイミテーションとなる。すなわち、模倣品の模倣品である。

 開発された理由は――国家陰謀説だの亜空間迷宮研究説だの、実に様々な説がある。

 一般的な説は結構浅い部分からとはいえ専門分野でしか扱われないようなユグドラシルコアを、一般市民でも買えるリーズナブルなものにしようという試みのもと、生まれたものだという説だった、と記録されている。

 だが、たかが模倣品といえど、されど模倣品だ。かつての文明の遺産であることに違いはない。

 それなり(・・・・)に高い技術力がないと、維持修繕もまともにできないと断言できる自信はある。


 この度の依頼人はハーフマキナの壮年男性だ。おそらくは、その関係でコアの補修もある程度まではおこなえてはいたのだろうが、それでも満足に修繕できていない状態が続いていたようだ。

 この状態では、修復したとして、解析結果に表れたとおり材料から作り直したほうがコスパ的に優位になるほど。なにしろ、普通の方法ではもはや直せない状態まで来てしまっており、必要な材料はおろか代替品となりうるようなものも持ち合わせていない以上、これでも直そうとすれば、それはどちらかといえば修理というよりは『生成』するというスタンスに限りなく近くなってしまう。


 つまり、わたしが直さない限り、このイミテーションコアはもう、寿命なのだ。それも、除却するなりなんなりの措置をとらなければ、この街で生活を営んでいる住民に牙をむきかねないほどに危険な状態にある。


【どうしますか、アリフェ? 局所的とはいえこれだけ文明が復興しているのだとすれば、イミテーションコアの作り方も残されている可能性は高いのでしょうが……】


 確かに……と、頷きたいところだが。

 そうとは言いにくい結果も目の前にある。

 作り方が残されている、あるいは再発明されたとして、じゃあ目の前にあるこれがその賜物なのだとしたら、果たして前の文明であふれるように存在していたそれらに追いつけているのだろうか。

 そのような技術力があるのかといえば、それは正直疑わしい。

 だって、だからこその、この大破したコアなのだから。


【では、どうしますか? 大見栄を張ってきたのです。失敗などは許されたものではありませんよ?】


 まぁ、だからといってなにかしら悪影響が出るわけではありませんが、と警告してくるユグドマキナだが、確かにすぐに悪影響が出るというわけではないだろうけど、少なからず悪い方向には向かうことになるだろう。

 少なくとも、冒険連の信用を失うことになるのは確実だ。

 それに、安全面での問題もある。これほどのリスクを抱えた爆弾、放っておけるはずもない。

 下手をすればわたしが何であるか、表ざたになってしまうものであるのも事実。そうなれば、世界中がわたしを求めて、再び大波乱となるだろう。


 迷いに迷った挙句、わたしが出した答えは――。




【本当にあれでよかったのですか?】


 うん。あれでよかったんだよ。少なくとも、今回は。

 これを直すのは無理だ、と依頼の受託をキャンセルすれば、この街は再びいつ爆発してもおかしくはない爆弾をいくつも抱え込むことになる。

 諸国を回る旅をしてきたという設定は幸い、商業組合の時点ですでに構築していたので、その途中で運よく入手したものだ、とあいまいな嘘をついてその場をやり過ごし、コアを交換したことで、初の依頼は達成となった。


 これでおそらくは、大丈夫だろう。使い古したように成功にカモフラージュした、新品を作った(・・・)のだから、少なくとも今後数十年は何も起こらないはずだ。


 目立たないようにと思っていたが、思わぬところで思わぬ『ガタつき』を発見してしまった。おそらくは、今後もこうしたケースは増えてくることだろう。

 そうなったとき、わたしは――どうするべきなのだろうか。


 ついこの前、この世界で目を覚ました時に決めた、デウス・エクス・マキナとばれないように行動するという決意が、儚く崩れ去っていく。

 そんな気がしたのは、おそらくは気のせいではないだろう。その時、わたしはどうするべきなのだろうか。

 もしものときは――どうなってもいいように、そしてどんな対処をすることになってもいいように、覚悟だけはしておくべき、なのかもしれない。

 

ちなみに冒険連のモチーフは…………ハロワだったりします(特に検索機の文面あたりは参考にしました)。

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