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異世界の機甲世界樹  作者: 無銘何某
第一章 =アルバの町で開業 序之章:Deus ex Machina’s View=
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ギルド員A「会員登録などいかがでしょう」

 街の中は、一言でいえばにぎやかだった。

 さすがに日本の都市圏ほどではない。ないが、それでも見ていて飽きが来ないにぎやかさがここにはある。

 道行く人々に陰りのようなものはなく、善政が敷かれている証拠ともいえるだろう。

 疑似衛星端末からの映像によれば、街の北の方には一層大きな豪邸が建っている。旗などが見えるが、領主か何かの邸宅なのだろうか。


 門番に言われた通りに大通りを歩いて、商業ギルドの建物を探す。

 その間、パン屋や青果店を取り扱っている店から聞こえてくる声に耳を立てると、


「毎日の食卓におすすめのロールパン、5個セットで120マテル! さぁ買った買った!」

「ミムル名産の柑橘、オルルンは1個88マテル! そこの奥さん、いかがですか?」


 などと聞こえてくる。

 食料品においては、日本と同価格か……いや。単にパンとか青果だけが似たり寄ったり、というケースがあるから早計か。

 そんなことを考えながら歩き続けていると、十分ほどで商業ギルドらしき建物に到着した。

 人の出入りが激しいが、老若男女問わず出入りしているところを見ると、一般人相手の業務もおこなっているということなんだろうか。まぁ、出入りしている人すべてが何らかの商売をしているか、その関係者という可能性もあるから思い違いかもしれないが。


 眺めていても仕方がないので中に入ってみる。

 内装は受付事務然としたもので、長時間の順番待ちにも対応できるよう、待合スペースには椅子がしつらえられていた。

 目算でおおよそ46人前後――見ている間にも増減しているのであくまでもそれくらいという感じだ、

 それらの光景を見ていると、地球の日本にある郵便局を思い出す。


 職員の対応も、またそうだ。


 眺めていたら、いつの間にかわたしの番がきていたようだ。少し、慌ててしまったのは秘密だ。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「あ、えと……魔物を倒してその素材を持ってきたんで、買い取ってもらえればと思いまして」

「かしこまりました。失礼ですが、当ギルドは初めてですか?」

「はい、そうです」


 どうしてわかったのだろうか、と疑問に思うわけでもなく、私の前に入った客のしぐさを思い出して理解した。

 おそらくはカード状の会員証みたいなものがあるのだろう。会員の人はそれを見せて、要件を話す。それだけで手続きがある程度簡素化される仕組みだ。


 一見してファンタジーだけど、やっぱり終末後の世界だけはあるんだね。そういった下地が、どっかに残っているのだろう。


「そうですか。でしたら、一緒に当ギルドの会員登録などいかがでしょう」

「えっと、登録すると特典とかあるんでしょうか」

「ありますよ。まず、当ギルドは世界規模で展開される国家超越機関ですので、世界中のどの支部であれ、当ギルドがある市町村では併設の銀行をはじめ、さまざまな支援をさせていただいております」

「銀行、ですか」

「はい、銀行です。ちなみに銀行は商業ギルドのほかに冒険者ギルド、農工ギルドでも銀行業務は取り扱っておりますが、当ギルドへお金をお預けいただいたお客様には、複利による利息も半年に一回、付与させていただいております」


 ほう、つまりお金を預けるならほかのギルドで預けるよりも一つお得な点があると。

 これはいいことを聞いた。


「さらに。当ギルドでは各会員様の登録状況に応じて四段階のランク付けを行っておりますが、単純に銀行や物品の売買などを目的とするノーマルランクの場合であっても、先ほどの銀行業務における利息と、各種切手の取り扱いもおこなっております」

「切手…………あぁ、直接金銭の受け渡しをするのではなく、代わりに求められた額を記載した切手で支払いができるようになる、と」


 つまり地球でいうところの、小切手みたいなものだろうか。もともと通っていたのが商業系の高校だったので、そういったことには少し明るいと自負している。

 現金を持ち歩かずにできるというのは、それだけで心的負担が減る。とくに、治安の状況が分からないこの状況下ではなおさらだ。

 ちなみに説明を受けた限りでは、脅迫を受けた時用にダミーの切手が存在している安心設計。

 そして、そのダミー用の切手は、支払人欄にかかれた本人以外が支払金額記入済みの状態で持っていた場合、そのまま犯罪の状況証拠につながっていくという付加価値を備えているらしい。


 つまり、脅迫なりなんなりを受けた場合、ダミー用の切手を振り出しておけば、被害を免れるうえに脅迫犯に一泡食らわせられるという、セキュリティ万全の切手だ。


 まぁ、見た限りかなりの人が使っているようだから、それほど期待できそうな効果はないだろうけど、ないよりかはまし、なんだろうな。


「実際、この街の中も、表通りは治安が安定していますが、ひとたび裏通りに行けば犯罪が横行している地区もあり、当ギルドに登録しているお客様からはご好評いただいております。ちなみにこれも当ギルドの調べによるものですが、ほかの二つのギルドでは取り扱っていないサービスとなっております」


 実際にダミーの切手を持ち込んでしょっ引かれていった強盗犯もいるらしく、安全性を前面に押し出して、いかがですか、と再度勧めてきた。


「そう、ですね……では、せっかくなので会員登録もお願いします」


 どのギルドにも一応は銀行業務をおこなっているようだが、おそらく、話を聞く限りではこの銀行は地球、それも日本のそれに一番近いような気がしてきた。

 ほか二つだと、かえって不便に感じることが出てきそうな感じがしたので、思い立ったが吉日とここで会員登録をしてしまうことにした。


 ちなみに登録は一番下のノーマルランク。商会やら商人でなくても申し込める、一般ランクだ。


 まだ、方針は決めたわけじゃないからね。


「かしこまりました。では、番号でお呼びしますのでこちらの木札をお持ちください」

「わかりました」


 ギルド員はわたしの応対が終わると、応対の内容をメモしていたのだろう。紙をそばに置いてあったケースに入れて、窓口の内側にいるスタッフの一人に渡すと、再度入り口付近へと戻った


 それを横目に見ながら、私は待合スペースへ進んでいく。

 そして、そこで呼ばれるまで待ちながらギルド内部を見まわしてみると、ここが日本であるかのように錯覚してしまうような作りに、少し戸惑いを感じてしまう。


 ややあって、木札に書かれていた番号を呼ぶ声が聞こえたので、その声の発生源へと向かうと、そこにいたのはやり手のビジネスマンを思わせる風体の青年男性だった。


 会員登録はすぐに終わった。書類の記入が必要といえば必要だったが、一応旅人で、現金を持ち歩くのが不安だったのでこの際に商業ギルドに登録しようと思い立った、と告げたら、では名前のご記入と、切手に使用する証明印とダミー用の偽装印のデザインだけで結構ですと言われたためだ。


 名前については、鏡とかを見ていないものの確かにこの体は人の女性を模したものだし、データ内に今のわたしの全身を映した画像があって、それを見た限りでは到底生前の名前は使えないだろう、と思ったので即興で思いついた名前を記入した。ちなみに思いついた名前は『アリフェ』だ。

 英語で人工生命体のことを『Artificial Life《アーティフィシャルライフ》』というらしいが、それの略称『Alife』をそのままとったものだ。

 デザインは迷うわけでもなく、前世の『俺』の氏名を印鑑っぽく見せる形で記入したが、片方は完全に角がとがった四角形。もう片方は角を丸めた角丸四角形で囲っておいた。はためにみても、わたしがどちらがダミー用かを伝えなければ判別つかない印だ。


 その記入した用紙を提出することで、こちらが行う登録手続きは終わりだったらしく、あとは内部作業が終わるのを待つだけ。


 今はその合間を縫って、本来の目的であった素材の売却を始めたところだ。


「では、素材の買取をいたしますが……お客様は、何か収納系のスキルか、それが記録された機械をお持ちなので?」


 スキル?

 スキルとな。それはなんぞ、と首を傾げようとしたところで、インストールされていた知識群の中にそれを発見した。

 どうやら、スキルとはわたしでいうところの『機能』――いわば、その生物の持ちうる技能に当たるものだそうだ。

 その存在や現象のすべてであり、またそのものでもあるともいえるマナには、ありとあらゆる情報が蓄積され、刻まれ続ける。なぜなら、繰り返すようだがその存在のすべてであるからだ。

 ゆえに、それの情報を読み取ることで、その『スキル』というのは鑑定されるらしく、それが出たということは今でもそのスキルの存在は認知されているのだろう。


「あ、はい。一応、ストレージというスキルを持っています」

「あぁ、どうりで。売買を目的としていた割には、手ぶらのようでしたから。しかし、旅人であれば確かにそれらのスキルや機械はいくらあっても困らないものですからね。容量の問題はありますが」

「えぇ、まぁ」


 容量と出たところで『えっ』と思ったが、即座にAIがデータベース情報を開示、職員の言の意味するところを示してくれたので、何とか受け答えはできた。

 今の『わたし』に基礎知識として組み込まれた部分と、データベースとしてこの『機械』やユグドマキナに備わっていた部分とがあって、正直厄介だな。

 今日あたり、一回全部のデータベースを洗い出して、少し整理したほうがよさそうだ。人と付き合い始めて、やっとわかることなだけに、気づきにくい問題だが、重要な問題でもあるから優先度は高いだろう。


 肝心の容量については、まぁ、当たり前の話だろう。スキルやら機械やらで亜空間に収容できるとはいえ、それだって限度はある。まして、維持コストがかかるのだから余計だ。


「では、こちらのボックスの中にお売りいただける物品をお入れください」


 そう言って示されたボックスも、これまた便利な機械の一つらしかった。

 件の収納系スキルのほか、鑑定というスキルも記録されており、中に入れたものは自動的に鑑定されるというものだ。

 しかも、わたしの『ストレージ・マネージャー』のように、中に入れたものがリストアップされるという、視覚的にもわかりやすい機能付きだ。

 というより、完全に『ストレージ』と『ストレージ・マネージャー』の機能を持たせた機械というべきか。


 とりあえずは、売り払ってしまおうと考えていたものを、すべてボックスの中に収容していく。


「ふむ……ラピッドボアの皮に、シルバライトスライムの核。あとは薬効成分の期待できる、薬草類ですか……」


 機械によって鑑定された結果を確かめながら、職員は別の機械を取り出した。

 マナやら何やらも絡んでいない機械で、はたから見れば歯車の塊にしか見えないが、どうやら計算機の一種らしい。


 いくつかの歯車を回してはレバーを引いて、また歯車を回して、を繰り返すこと数回。ふむ、と一息ついて、職員は顔と視線をこちらに戻してきた。


「お待たせしました。鑑定結果及び市場価格との照合の結果、お客様がお持ちいただいたお品物の代金は7650マテルとなりますね。内訳をお聞きになりますか?」

「あ、では一応お願いします」


 一応、こういう場では聞いておくべきだろう。

 何が売れて何が売れないのか、マーケティングはかかせない。


「かしこまりました、ではまずラピッドボア関連のものからですね。このラピッドボアの皮は、防寒具が用入りとなる冬場までは需要がないですので、安くなってしまいます。しかし、量がありましたので、2050マテルとなりました」

「なるほど……」

「次に、スライムの核ですが、食用としては水溶性の食物繊維が豊富に取れますし、疾病への対策にもなります。また、スライムの核は総じてマナを蓄えやすい傾向にあるため、魔法使い用の機械装置に特殊塗料として塗布することで、質を底上げするのにもつかわれます。量はさほどではありませんが、2975マテルとさせていただきました」

「そうですか、わかりました。後は薬草類ですね」

「はい、そうですね。薬草類も質が良く、滋養性のあるものから止血効果のあるものまでそろっており、量もありましたので2625とさせていただきました」


 ふぅ。スライムの核は、わりと高く売れたんだ。

 スライムだからって見下していてごめんなさい。いや、データベースでも、スライムの核は利用価値が高いってあったから、期待はしてたんだけどさ。

 予想より高く売れたんで、ちょっと驚いた。


「大まかな内訳は以上となります。あとは伝票にてご確認ください」

「はい、ありがとうございます」

「では、こちら。買い取り代金の、7650マテルになりますね。ご確認ください」

「………………はい、確かに」


 7650マテル。あるかどうか確認し、ストレージに収容する。

 しかし、当然ながらわたしとしては初めて見たが、やはり全部硬貨で取引されているようだ。

 どのような硬貨が使われているのかはまた後程調べるからいいとして、とりあえずは受け取ってストレージに収容した。


 ――5000マテルミスリル貨を金銭フォルダに収容しました。

 ――2000マテルミスリル貨を金銭フォルダに収容しました。

 ――500マテル鉄貨を金銭フォルダに収容しました。

 ――100マテル鉄貨を金銭フォルダに収容しました。

 ――50マテル銅貨を金銭フォルダに収容しました。

 ――現時点の使用貨幣をマテルに変更。残金は7,650マテルです。


「では、ギルドカードができたようですので、お渡ししますね」

「はい」


 続けて、早くもギルドカードができたようなので、それも引き渡された。

 ギルドカードは解析した結果ミスリルでできているようで、どうやらこれも立派な機械のようだ。


 ギルド職員は、わたしがギルドカードを手に取ったのを見計らって、カードの説明を開始した。


「ギルドカード自体は、ほかのギルドで使われているカードとほぼ一緒です。ですが、各ギルドともに、それぞれ独自の改良を施して、様々な便利機能を搭載しております。私ども商業ギルドでは、収納機能による簡易的な金庫機能のほか、簡易的なスケジュール管理機能も備えております」


 なるほど。確かに、現金をなるべく持ち歩きたくない商人にとっては、うれしい機能だ。

 わたしはストレージとかがあるからそうでもないんだけど。


「あとは、この部分ですね。この部分が、黒色の場合がノーマルになります。これが一つ上のランク、つまり商売人として登録いただいてブラウンになると融資のご相談が可能となります」

「お金の貸し借りですか」

「身も蓋もない言い方をすればそうなりますね」


 まぁ、身の振り方を考えていない現状ではまだ先の話だろうし、心に留めておく程度にしておこう。

 ちなみにブラウン以上は、その店ごとの成績によって評価されるらしい。詳しい基準などは定かではないものの、その辺はやはり功績次第、ということなんだろう。

 そしてランクが上がっても、基本的に受けられるサービスには大差がない。ただ、ノーマルとブラウンの間に融資の可否があるのと、融資可能な額もランクごとに限度額が定められている、ということだけらしかった。


 そのあとは、一言二言カードを取り扱う際の注意点を受けたうえで、切手を受け取って手続きは終了となった。


 日がまだ高い今の時間帯。

 あらかじめ備わっているデータベースのおかげである程度のカバーはできているが、街に来たことで実感したことが一つ。


 常識力が、足りない。

 このままでは世間知らずとなってしまうだろう。


 手続きを終了したわたしは、業務を終了し、『ほかに何かあれば引き続きお伺いしますが』と聞いてきた職員に、こう質問した。


「どこかに図書館、みたいなものはありませんか?」

「図書館ですか……。この街にはありませんが……そうですね。資料室でよければ、当ギルドにもフリーのカフェを備えたものがございますので、どうぞご利用ください」


 他はございますか、と再び聞いてきた職員に、あとは大丈夫ですと伝えると、わたしは資料室へと向かった。



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