第五十一話 この片想いにフィナーレを
気づけば、公園に来ていた。
寒いのに、早く帰りたいのに、早く帰って温まりたいのに。
「…………」
公園内に、人の姿はなかった。この寒い時期、いや平日の昼間から公園に来る物好きはいないらしい。
冷たい空気が頬に刺さる。灰色の雲が閉塞感を与える。チラチラと降る雪が寂しさを感じさせる。
コートのポケットの中、握ったカイロは冷たい。
まだ、期待しているのだろうか。
あり得ない奇跡を。コンマ以下の確率を。
女々しく期待しているというのか。
いや、違う。
期待などしていなかった。ただ、ちょっとした奇跡と遭遇してしまったから。どうしても、嫌でも――。
「九賀羽君?」
その声を聞いて、俺は振り返った。
「風羅さん……」
優しく弱く吹いた風になびく、真っ黒で真っ直ぐなミディアムに切りそろえられた髪。
灰色のマフラーで首元と口元を隠し、白い手袋をした両の手を寒そうに重ねる少女。
俺の二度目の片想いの相手であり、初めての失恋の相手。
「どうしたの? こんなところで……」
心配そうな表情を向け、彼女は訊く。
恐らく、今日が俺の受験日だと知っている彼女は、試験が上手くいかなかったと察して心配してくれたのだろう。
もちろん、そんな事はない。三人が懇切丁寧に教えてくれたこともあり、それなりの結果は残せたはずだと自負するほどだ。
「いや、ちょっとさ。なんか、帰りに公園に寄りたい気持ちになって。風羅さんこそどうしたの?」
「えっ、いや、私も、なんとなく?」
何故、疑問形なのか。
……それにしても、不思議な感じだ。直前に、そういう期待をしていたからかもしれないが、あの子と目の前の風羅さんが重なる。真逆なのに。万に一つもないのに。それでも、重なっていく。
「風羅さんって」
「うん?」
「……いや、何でもない」
訊くことに意味はない。答えなど決まっている。ならば、訊く必要などない。
「さて、これからどうするか……」
ワザとらしく言った。何を今更。今更、行動したところで何もないのに。ただ、後悔だけが――未だに、積もっていくのに。
「そうだね。どうしよう……」
「寒いし、帰りますか」
「うん、そうだね」
「帰りに暖かい飲み物でも買って」
「うん。風邪とか気をつけてね」
「ああ。じゃあ、また……」
「うん」
歯切れが悪い。ただただ、女々しい。だが、これ以上、醜態を晒すわけにはいかない。
また会える。
別に卒業式を迎えても、連絡先は交換してあるからまた会える。
会おうと思えば会える。
大丈夫。
大丈夫。
最後の最後まで、風羅さんを視界に捉えながら、俺は振り返った。
止まっていたせいか冷えてしまった身体を少し震わし、俺は再び歩き出す。
雪は、まだチラついている。雲はまだ厚く、止む気配はなさそうだ。
ああ、そういえば、有耶無耶にしてたんだっけ。
行き場の無くなった感情の処理の仕方を。
俺は、また感情を持て余すことになるのか。
また、想いに囚われることになるのか。
今度の想いは、中々に面倒そうだ。
でも、それでも。
俺は、この想いを大切にする。
大事な想いとして、心の中に閉まっておく。
俺は、この想いを…………
気持ち良く晴れたある日――いや、卒業式の日。
俺は、珍しく早めに起き、気持ちよく伸びをした。
小鳥のさえずりは聞こえないが、それでも窓から差し込む朝日は、俺に良い目覚めを与えてくれる。
なんだか、今日は良い一日になりそうだ。さて、学校に行く準備をしよう。
なんてことない、いつも通りルーチンワークをこなし、俺は家を出る。いつもに比べると少し軽い鞄を持って、気分が良いからという理由で、自転車を使わずに登校する。
卒業式だからといって都合よく桜は散らない。だが、気温は高くもなく低くもなく、丁度いい。降り注ぐ、優しくも暖かい陽射しは、まるで夢の続きを見ているような気分にさせてくれる。
そう、満たされながら学校へと続く道を歩いていると、一人の女子生徒が視界に入ってきた。
俺は高ぶる気持ちを抑え、小走りに彼女の元へと向かう。
「おはよう、風羅さん」
「あっ、おはよう、九賀羽くん」
彼女は、少し驚きながらも笑顔で返した。
朝から良いものが見れた。今までで一番気持ちの良い挨拶。
やはり、今日は良い一日なりそうだ。
【あとがき】
本作「Have a Good Day!! 〜世界でイチバン君がスキ〜」は、これにて完結です。
ではでは、本作のしっかりとしたあとがきは活動報告の方に書くとして、ここはささっと締めますね。
本作を読んでいただき、ありがとうございます。それでは、良い一日を。




