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※裏設定※堕ちた召喚士②

オルザム邸の戦い③の裏設定続きです。

そして夢はさめ、現実に戻る。

やはり冷たい彼女の体をぎゅっと抱きしめる。

ピシリ。

何の音かと思った瞬間、彼女の体は塵になって消えはじめていった。


『な!何故だ!』

【成功。体、もう要らない】


無機質な幼児の声。

そちらを向けば、涙まみれの私の顔を見て、女が「醜いのう」と目を細めた。



【定着したばかり。体、邪魔】

【体と魂の結びつきは意外に強いのじゃ。きちんと断って置かねば、不意に服から離れてしまうかもしれんしのう】

「貴様ら……」

【そもそも、死した魂は輪廻に入るゆえに消えるものであるし、残ったとしても、欠片ゆえ体に戻ろうとも体と共に消えゆくだけぞ?そして今、形は変われど愛しい女はその手の中に留まっておるのじゃ。何が不満じゃ?】


女は笑う。


【……ああ。抱き合いたかったのじゃな?】

「なっ!」


女は私の頬に触れる。


【そなたからは、何ぞ闇の香りがするのう。連れの興味はその服じゃが、我が連れの気まぐれに付き合おうと思うたのはその香りじゃ】


女の指が頬を撫で、その人差し指が滑って頬から首へ、そして鎖骨の上にひかる冒険者タグをすくいあげる。


【やはり、冒険者。……召喚士とはまた珍しいの】


召喚士は、冒険者の中では今や希少な職業である。

基本、召喚士は魔物と契約を交わし、その魔物の力を借りる。

一度に使役できる魔物の数は生来の魔力の量に比例し、強力な魔物と契約するにはそれなりの命のやりとりも必要なのだ。

契約の力は強力で、一度契約を交わしてしまえば、魔物は召喚士側から解消されない限り逆らう事は出来ない。

しかし、その強力な術と引き換えに、召喚士自身の他の能力の取得がままならないのだ。

身体能力も攻撃、防御、回復、補助魔法も最低限しか出来ない。

だから、魔物の力を借りるし、他の冒険者の強力も不可欠。

使役できる魔物によっては万能に近いが、そこへ至るまでの山は高く、いつしか「召喚士」の職業は冒険者内では避けられ、数も少なくなっていた。


そんな良し悪しを詳しく知らずに、しかも自分を慕う少女の影響で職業を決めたと知られると大抵の者に驚かせていた。

だけどなぜそんなに驚き、珍しそうな気の毒そうな目で見られているのか、私は今一つわからなかった。

彼女の存在もあったし、初めて交わした契約は、ゴブリンが自ら望んできたものであったからかも知れない。

もちろん、今ならわかっている。

魔物の方から契約はを望むなど、ほぼあり得ないことだったし、それ以後一度もそんな事はなかったのだし。

本当に、私は幼かった。

だからといって、後悔しているわけではない。


【召喚士なら、あり得る話であるの】


ふむ、と女は思案するように私から離れる腕を胸の前で組んだ。


【そなた。今度は我と取引せぬかえ?その娘の魂を熟成させ、新たな体に宿らせるというのはどうじゃ?まあ、姿形は別人じゃが、中身がその娘であれば良いのじゃろ?】


「良いわけない」と言いそうになって、言葉が出てこない自分に戸惑う。

死者の魂を他人に宿らせ乗っ取るなど、あり得ないし、あってはならない。

でも、女の囁きは何故か自分を優しく包んで、酔わせるのだ。


「……そんな方法があるものか」

【方法はあるぞえ。…またそれぞれに対価が必要じゃが連れも一緒ならば、の】


「どうじゃ?」と視線を向ければ、幼児は興味深そうに目をぱちくりさせる。


女は話した。

まずは、テアの魂の欠片に力を持たせるため、神職の祝福の力を手に入れること。

テアに近い年相応の無垢な少女を手に入れること。

テアと結び付きの強い私が夢魔を取り込み、夢と契約の力をもって器となる少女の本来の魂を引き剥がし、テアの魂を移しかえること。


【連れはその存在を。連れを受け入れるそなたの

魔力を少しあげてやろう】

「なぜ、そんなに力を貸してくれる?」

【そんなにとは?我らが与えるは術と助力のみぞ?やるのはそなたじゃ】

「なぜ、私なのだ?」

【今更聞くかえ。そういうところも面白いゆえ、そう思える間は付き合うても良しと思っただけじゃ】


面白いから。

女や幼児にとっては、それだけで理由は充分なのだろう。

しかし、それはあまりに危うい。

わかってはいるのだ。


女は幼児を見る。


【どうじゃ?面白くはないかえ】

【面白い。付き合ってもいい】

「……対価はなんだ」


何故、話を終わらせずに、女の話を聞くのだろう。

何故、すでに一線を越えているのにまだ満足しないのだろう。


【そなたが契約した魔物を全てくりゃれ】

【死んだら、魂もらう】


ぐらぐらと揺れながらも、まだ私は揺れていた。

しかし、ふと幼児がテアの服に目を向けるのにつられて自分も見ると、先程のテアの夢を思い出してしまった。


『いつか私をお嫁さんにしてね』



私は堕ち、女は笑った。

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