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※裏設定※堕ちた召喚士①

オルザム邸の戦い③の裏設定です。

孤児院に戻ってきた時には、すでに遅かった。

開け放たれた講堂に走り込めば、院長や子供達が泣き崩れ棺を取り囲んでいる。


『守りきれず、ごめんなさいね……』


悲しみと罪悪感を含ませた眼差しは、心に刺さる。

と同時に腹が立った。


まだ着いて状況を突きつけられたばかりなのに。

何故、私より先に言葉にするのだ?

何故、私に謝罪をするのだ?

何故、その目は私に許しを請うのだ?

ならば、私はどうすればいいのだ!


無自覚に私の感情の行き先を封じた老女にも、ただただ泣くだけの子供達にも、苛立つばかり。


『ー私と彼女の二人きりにさせてくれないかね』


その気配を感じた院長は泣くの止め、恐れるように私から身を引いた。

院長は子供達をつれて安置室を去り、扉が閉まる音が妙に大きく響いた。

ゆっくりと歩みより、棺の中の娘と向き合う。


『テア。ただいま』


棺の底には白い花が敷き詰められ、数年ぶりに再会した娘が、お腹の上で手を組み横たわっている。

私が送った衣装を身に纏った彼女は、想像した以上にぐっと大人になって、たおやかに成長していた。


ただ顔を見ただけで、愛しさが込み上げてくる。

ああ、彼女は妹とかではない。

ただ一人の愛しい女だ。


『いつか私をお嫁さんにしてね』


始まりはいつからかわからないが、変化はあの囁きから。

比護しなければと思っていた存在自ら、「それだけでは嫌だ」と訴えて来たのだ。


驚きもしたし、恐れもした。

彼女にとっては私は、獣と人の世界の間にある扉だ。

近くにいれば、どちらにも逃げ込める。

だから側にいたいだろうし、失いたくないだろう。

しかし一度、人の世界の広さと魅力を知ってしまえば、もう扉は必要ない。

まだ、それに気づいていないだけかも知れないのだ。

だから、心を揺さぶられつつ慎重になった。

各地を飛び回る私を気遣い、テアの方から連絡はなかったが、私は密かに冒険者ギルドを使って彼女の様子を知らせてもらっていた。

離れている間に気づいたとしても。彼女が幸せになるためなら力を惜しまないと決めたからだ。


しかし、彼女は変わらなかった。

今思えば彼女を試していたのだが、毎年送った誕生日の祝いの品も喜んでいたと報告を受けた。

本当に?

本当に彼女は私を必要としてくれている?

私は彼女を愛していいのか?

私は彼女に愛してもらってもいいのか?

不安に喜びが勝った。

それでもまだ試し、少しずつ想いを乗せて、ようやく彼女に告げる勇気を持てたというのに。


『会いたかったよ』


棺から彼女の体を抱き上げた。

抱き込んで座り、彼女を誰よりも近くで見る。

軽くて、冷たい体。

それでも愛しい。

惜しむらくは、体のあちこちに紫色のアザがあり、首には黒い指の痕が残っていることだ。


『痛かったのだね。苦しかったのだね』


けして応える事はないが、せめて癒されるようにとそのアザひとつひとつにキスを落とす。

だが私は、無意識に現実から逃げようとしていたのだろう。

キスが身体中に広がると、それはいつしか癒しから愛撫になっていた。

そして、唇に愛を込めて重ねる。

腕の中の彼女の衣装が、花嫁衣装のように思えてきて、私は愛を深めるべく、衣を開いた。


『!………あああああっ!』


私を待っててくれた彼女の体は、ケモノに蹂躙されていた。

今まで私が冒険で負ったどんなものよりも、酷く残酷な傷が刻まれていた。

見るに絶えず、衣で再び覆ってやらざる得なくなり、彼女の腰を抱き締めて布の上から下腹に何度も何度もキスを落とし、寄り添いたくて頬をつけた。

涙があふれて、布を濡らす。


そのまましばらく抱き締めていると。


【…なんじゃ。死体相手に、人形遊ひでもするのかと思っていたのじゃが】


女の声が響いた。

聞き捨てならない言葉に、顔をあげる。

講堂の唯一の扉の前には、見知らぬ妖艶な女がいた。


『誰だ。何故、邪魔をする』

【邪魔?なんなら続けてよいぞ】


ふふふ、と女は口に手をあてて笑う。

この女は危険だ。

彼女を抱え込み直して、いつでも動けるように体勢を整えた。

その様子さえ、女は面白そうに目を細める。


【ただの通りすがりじゃ。しかしのう。連れが立ち寄りたいと可愛いわがままを申してな】


女の黒いロングドレスの後ろから、金髪の愛らしい幼児が顔を出す。

無垢な存在に見えるが、女の連れと言うならば油断はできない。

と、幼児はにこっと笑って近寄って来た。

警戒する私を無視して、彼女を興味深そうに観察する。


『な……』

【コレ、特別。服、夢ある。欠片、離れたくない。面白い。くっつく?】


幼児は私に問いかけてくるが、何を言いたいのかわからない。

女はイタズラを思い付いたように、顔に喜色を浮かべた。


【立ち寄りたい理由はコレだったのかえ?】


女も近づき、幼児の頭を優しく撫でる。


【そなた。連れの試みに付き合ってくりゃれ】

『断る』

【?魂、服に宿るかも?】

『馬鹿な事を。ただ立ち寄っただけなら、もうかまうな。』

【そしてまた、その人形を抱きしめて泣くのかえ?もしくは、脱け殻を相手にして交わるのかえ?】

『貴様!』

【対価。その魂の夢見せる】


女の言いように、怒りが沸いた。

しかし、感情豊かな女の口調とは正反対の幼児の淡々とした口調から吐き出された言葉に……引っ掛かってしまった。


『……夢だと?』

【連れは夢魔じゃ。服に宿る夢は意味が違えど、夢と称するものであるなら紡ぐ事は可能なようじゃのう。そなたは知りたくないのかえ?その人形が未来にみた夢を】


幼児に引っかけられたところから、女が毒を流し込んでくる。

抗いがたい毒を。


『そんなものが本当にあるのか』

【早く決める。魂。夢。そんなにもたない】


女はにやにや笑っている。

私は目を閉じた。


『……………………………………頼む』


視界が白くなり、ふんわりと柔らかな気配に包まれた。

腕に抱くテアも暖かい。

そして、「テアの夢」を見た。


今より幼い自分が、テアのいる孤児院に戻る。ずっと会ってなかったから、自分の外見が昔のままなのだろう。

喜びいっぱいで飛び付くテア。夜通し語り合い、昔のように寄り添って眠る。

孤児院の子供達と共に日々をくらし、時には二人だけで遠出をする。

喧嘩して拗ねて口もきかないテアを、仕方ないなと笑って許す自分をみて、彼女の中で自分はどんな人物だったのかと照れてしまう。

そうして、彼女の好きな白い花の咲く地で、自分は彼女にプロポーズし、彼女は最高の笑顔で応えた。


笑顔。笑顔。笑顔。


それから見せられる彼女の夢は、笑顔で溢れていた。

きらきらと眩しくて、私は涙が止まらなかった。


ああ。

これほど彼女は未来を信じていたのに。



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