第1話 前半生
とある第1次世界大戦で戦死したイギリス人の一生。
イギリス陸軍ランカシャー・フュージリアーズ連隊第11大隊のジョン・ロナルド少尉は、幼少のころからどこか遠い世界の夢をよく見ていた。夢はとても詳細で、起きた後でもはっきりとその詳細を思い出された。その世界では人間たちが多くの国に分かれて争っているようだった。文明はあまり発達していないようで、せいぜい近世後期程度かと思われた。しかしその世界には魔法があった。強力な魔法、弱い魔法、天候を変える魔法、薪に火をともす魔法、万の軍勢を殺しつくす魔法、植物をほんの少し成長させる魔法、様々な魔法があった。また人間以外の種族や、神話の中に出てくるような生き物も暮らしているようだった。まるで彫像のように美しく、人より遙かに長く生きる種族。背は子供のように低いが力は強く穴を掘ることに関しては何者にも負けない種族。竜、精霊、得体のしれない野や海の生き物たち。醜い巨人や化け物。夢の中で彼はその地の歴史を、多くの土地を辿った。
いつしか彼は夢の中の世界の記録を少しづつ取るようになっていた。そしてその世界は実際にどこかに存在していたのではと考えるようになった。熱心なカトリックだった彼にとってその考えは信仰に反するものであり、俄かには受け入れ難かったが夢のリアリティはそれすらも凌駕するようであった。彼は年齢を重ね、やがてオックスフォード大学に進み言語学、そして古の文献や歴史を学ぶようになり、婚約もした。そして徐々にその世界の夢を見ることも減っていったが、彼はしかしますます夢の中の世界が実在するはずだ、という思いを強くすると共に、その世界の存在と信仰との折り合いも付けていった。その世界においても主は遍くその威光を示しており、ただ単にその表れが今のこの世界とは異なるだけなのだという風に。
一方その頃現実世界では第一次世界大戦が勃発しており、オックスフォード大学を卒業した彼も少尉として任官して出征することとなった。出征が決まった彼は、戦地へと赴く前に2つのことを決意する。婚約者と結婚すること、そして戦争が終わったら夢で見た世界についてまとめ、物語として執筆すること。あの世界について少しでも多くの人に伝え、いつかその実在を証明してもらうことが彼の役割だと考えたのだ。そして、スタッフォードシャーの予備役部隊で訓練を終えた彼は婚約者と結婚式を挙げ、フランスへと派遣される…
初投稿です、お目汚しをお許しください。