6.物語の終わりはいつもそう
多かれ少なかれ、人は抑圧されて生きている。
ただ、その抑圧の対象は人によって様々だ。
生まれ持った才覚が違えば、沸き起こる衝動も違ってくるからだ。
食べるのが好きな人もいれば、寝るのが好きな人もいる。
歌うのが好きな人もいれば、運動が好きな人もいる。
善いことが好きな人もいれば、悪いことが好きな人もいる。
けれど、その衝動のままに生きていくことはできない。
他人に迷惑をかけてはならないからだ。
それが人の社会。共同生活の掟だから。
自分を律することが出来ず、衝動のままに生きる人間は粛清される。
いや、自然と排他されると言ったほうが適切かもしれない。
だから少年は衝動を抑えて生きてきた。
社会の矛盾への怒りに蓋をして、湧き上がる熱情に冷水を浴びせ続けてきた。
そうしなければ、少年は生きていけなかった。
少年が生まれた世界は、そういう世界だと思い知ったから――
もう、そうするしかなかった――。
けれど、その日、少年は生まれ変わった。
もう昨日までの少年とは違う。
運命の少女と出会い、少年は少年の枷を外すことに成功した。
少年が迷い込んだ世界は、そういう世界だと教えてもらったから――!
もう、そうするしかなかった――!
導かれるように、心の底から少年は笑う。
心臓に穴が空いて、胸の吹き抜けからどこまでも開放されていくような感覚。
まとわりついていたしがらみと重み、その全てが解け、ふわりと身体が空に浮いていくような感覚。
踏み抜いたアクセルのまま、風を切り裂いて走り抜くような感覚。
どこまでもどこまでも、自由に自由に、何をしても何を叫んでも許され、感覚のままに生きることを許される――
これはそういう物語。
少年が少年のままに生きる物語。
それが【逆接系因果解放分子】による、
【異世界汚染神話一章】。
――ただ、視点を変えてしまえば、
これは異世界で生きる少年が、いかに異世界から排他されるかまでの物語でもある。
この物語の最後には無残な死が待ち受けている。
少年と少女は、そう遠くない未来に死ぬ。
排他されるとはそういうことだ。
少年は希望を糧にする特異点。
ゆえに、本来ならば彼に救世主以外の道はなかった。
少女は絶望を糧にする特異点。
ゆえに、本来ならば彼女に支配者以外の道はなかった。
この二人は互いの糧を互いに分け合うことが出来た。
そのシステムが二人を自由にした。
ゆえに、この時代に魔王も勇者も現れない。
もちろん、どちらかが欠ければ、どちらかが世界を傾ける【現象】と化すのは間違いないだろう。世界を汚染する災厄そのものとなるだろう。誰もがそれを予感していた。
だから、二人は一緒に殺される。
同じ時刻、同じ場所、同じ死因で、同じ表情で――二人は死ぬ。
だけど、二人は二人がいれば、もう何もいらなかった。
お互いにそう【呪い】をかけた。
二人は死ぬまで繋いだ手を離さない。
愛していた人々に背中から剣で刺されようと、
二人は最後まで笑って見せる。
なぜなら、少年は死の間際、全ての前言を【逆接】するからだ。
呪われた少女の運命を【逆接】させる。
これはそれだけの物語。
【逆接】の物語がいま、始まる――
未完