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18.進撃の魔王軍

「流石、ジンさん! 口プレイだけで押し切った!

 けど、流石の私でもドン引き!!」


 イスカに褒められながら、俺は倒れたイアを拝み、すぐに土をかけ出す。

 そっとね。そーっと。


 できれば、二度と会うことのないように。

 俺の知らんところで死んでますよーにっ。

 だが、それを後ろで見守っていたセイが止める。


「う、埋めないで! 酸欠で死んじゃうよ! お兄さん!」


 え、別に死んでもいいんじゃね?


「でも、セイ。このくらいしとかないと、また暴れだすぜ……?

 このお姉ちゃん、明らかに頭おかしいことになってたろ?」

「確かに、さっきまでのイアお姉ちゃんは変だったね……。

 とはいえ、さっきのお兄ちゃんのやりかたは酷かったけど……」

「あ、ああする他、勝ち目なかったんだから、しゃーないじゃん!」

「腕取れてるしね……。仕方ないと、僕も思うよ……」


 セイの目線はドバドバと流血している腕へ向いている。

 俺は自分の状態を思い出し、さーっと血の気が引いていく。


「あ、そういえば、腕もがれたんだっけ。

 やばい。これ、やばい。出血多量で死ぬ……!」

「死なないよ。竜の心臓なんだから、胸に大穴が空かない限り大丈夫。

 ドバドバ出ようと、ドクドク竜の血が生成されるよ。

 とはいえ、この状態が続くと危険なのは確かだね。

 ほら、こっち来て。手術するから」


 木の上からイスカは降りてきて、こちらへ手招きする。


「回復魔法でぱーっと治らないの?

 こう光の魔法で全回復とか」

「そんな便利なものはありません。

 地道に継ぎ接ぎして、美味しいもの食べて、

 自己回復でくっつけるだけ!」

「んー、この世界、夢があるのかないのかよくわからんな」

「じゃあ、直すから、あっち向いてて」


 もぞりとイスカの服の中から、名伏しがたい肉塊が落ちる。

 そして、ハサミやメスを持ったイスカが笑顔で近づいてくる。


 うん、正気が削れるから、見ないでおこう。

 バスに乗ってるときは景色を見ましょうの精神で、

 俺は首を森へと向ける。


 すると、偶然にだが、茂みに隠れていた新たなエルフを見つける。

 子供たちと比べると高度な隠遁だ。

 その風貌から大人のエルフであることがわかる。


 大人エルフたちはこちらを向いて震えている。


「森の結界が壊れたと思い、様子を見れに来れば、なんてことだ……」

「ま、まさか、あの里一番の使い手イアヴァスリルが負けるとは……」


 魔王軍の尖兵を目にしたモブキャラのような顔をしていた。

 そして、俺と目が合った瞬間、顔を青くして身を翻す。

 

「くっ、長に報告だ!」

「ああっ、撤退する!」


 どうやら、色々と見られてしまったようだ。

 何があっても情報だけは持ち帰ろうと、エルフたちは駆け出した。


 いまは治療中のため、それを見送ることしかできない。

 とりあえず、イスカに報告はする。


「――どうするあれ?」

「んー、見られたかー。なら、しゃあないね!

 エルフの里……、攻めようぜえ!?

 こっちは攻撃されたから、攻める口実がちゃんとあるしね!」


 とても楽しそうにイスカは侵略宣言をする。

 ただ、何がどうなっても、結局は攻める気だったように見える。


 俺としては、もっと違う手段を選びたかった。

 だが、イスカとは一心同体。やれやれと肩をすくめて同意する。


「そうだな。俺たち、魔王軍だしな。そうする他ないよな。

 それに、なんか向こうも侵略待ちみたいだから、

 その期待に応えたいしな!」

「いや、侵略待ちはしてないと思うよ……。

 僕が先に行って、事情を説明すれば回避できる事態だと思うよ……?」


 あっさりと戦争しにいこうとする俺たちを見て、セイは呆れていた。

 少しずつ俺たちの性格を把握してきているのがわかる。


「えー、そういう和平交渉はやめようぜ?

 もう魔王軍がエルフの里を襲う流れじゃん?」

「魔王軍って、二人しかいないのに……」

「ふふふ、それはどうかな……?

 【永遠唱室ディストピアリア】発動! みんなー、集まれー!」


 更なる魔力を消費して、森の隅々からまつろわぬモンスターたちを掻き集める。

 一個師団と呼ぶべき数が揃い、俺とイスカにかしずく。


「ふははははははー!!

 我々こそ、神の息吹を払うもの! 聖域を汚す、咎人たちの代行者!

 魔王イスカの覇道のため、みなっ、存分に力を奮うがよい!!」


 集まってきてくれた仲間たちを激励し、

 俺たちは森の奥へと進みだす。


 百鬼夜行のごとき強行軍であった。


「お兄さん、待って! 待って待って! これ冗談にならない!!」

「セイ……、遊びってのは本気でやるから楽しいんだぜ?

 冗談は、冗談にならないくらいが一番楽しいんだぜ?」

「それ冗談でも遊びでもなくない!?」

「ははっ、ごっこ遊びみたいなもんだよ。

 魔王ごっこ。魔王ごっこ。

 要は自分のなりたい存在になりきって楽しむ遊びだな。

 腕試しに道場破りするみたいなもんだ」

「いや、お二方とも、魔王ごっこじゃなくて、ほぼ魔王だって!

 洒落にならない! 本当に洒落にならない!!」

「おいおい、イスカは魔王かもしれないけど、俺は違うぜ?

 勇者も勇者、俺以上の正義の味方なんてそうそういないぜ?」

「正義の味方は、こんな軽い感じでモンスター引き連れて、

 里を襲ったりしない! 死人が出るからこれ!!」


 魔王扱いは心外だったので、道中、懇切丁寧に説明する。

 けれど、セイは納得してくれない。


 そして、イスカが良い笑顔で話を締める。


「安心して! 死人は出さないから!

 侵略したあとは、大切な贄になってもらわないといけないからね!」

「死ぬより、より酷い!?」


 ほら、邪悪なのはイスカだけだって、俺は違うよ。


 そうこう話している内に俺たちは里の近くまでやってくる。

 モンスターたちが道のりを知っていたため、辿りつくのは簡単だった。


 それに加え、結界とやらが消えていたのも大きいらしい。

 どうも森の各所に呪印を刻んだ木があったのだが、

 それら全てが、急に折れ倒れたのが原因のようだ。


 エルフさんたちが一生懸命作った結界を壊すなんて、

 酷いことをするやつもいるもんだ。


 けど、そのおかげで侵略しやすい! やったね!


 森の隙間から、俺は標的の里を目に収める。


 まさしく、御伽噺の里の様相だった。

 古木を使って建てられた民家が並び、澄んだ湖がいくつも張ってある。

 地上だけでなく木の上にも家が作られており、

 木々の間に蔦を張ることで橋を形成している。

 原始的な素材だけで、立体的な生活空間となっている。

 その技術は見事と呼ばざるを得ない。


 里は広範囲に展開されているため、占拠するのは難しそうだ。

 そして、エルフの数も多い。

 先の斥候の連絡を受け、里の中はざわめきたっているため、

 敵数を計るのは容易だった。


 百ほどのエルフが見える。

 その中でも戦えそうなのは、数十とちょいってところか。


 ふふっ……。

 なかなかいい勝負になりそうじゃないか……。


 こちらの戦力も数十前後。

 だが、将に差がある。

 斥候のエルフたちはイアを里一番と言った。

 先んじてイアを落としているのは大きい。


 対して、こちらの将三人は万全。

 【魔王】のイスカ、【大元帥】の俺、【裏切りの精霊将フェアラート・エルフェン】のセイ――

 そして、それに続く兵たちの、なんと頼もしきことか。


 ゆえに俺は宣言する。

 モンスターたちへ勝利を誓う。


「――さあ、迅くぞ。

 これより、我らが軍勢を【逆巻く仔の反逆リヴァースチルドレン・リベリオン】と呼称する。

 諸君ら一兵一兵が、類稀なる世界への反論者であるのは紛れもない真実。

 だからこそ我らは、我らの名に誇りを持ち、矜持を以って敵貫く槍を持つ。

 そして、私は信じている。諸君らが、神にすら一矢報いる英傑であることを。

 ゆえに、雄たけびなど必要ない。当然と悠然と、ただ侵略するのみ。

 ただ、それのみだ。

 我らが王イスカの道を辿れば、全ては勝利に収束するだろう。

 では、諸君――漫然と聖域を犯そうか?」


 そう言い切り、俺は背中で彼らを導く。

 これにて侵略の開始――、戦争の始まりだ。


「やっぱり、魔王じゃないですか! お兄さん!

 どの口で自分は勇者だとか言ってるんですか!

 で、なんで僕は裏切りの将みたいな扱いなんですか!?

 モンスターたちが尊敬の目で僕を見てるんですけどぉおおお!」


 セイの慟哭が口火となり、戦いは切って落とされる――!!




セイリィンは犠牲になったのだ。


あとあらすじを正直にしました。

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