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17.アイの告白

 全力で、破壊衝動から気をそらす――!

 【逆接】中に厳しいこと言われると心萎れれる感覚を、

 イアにも味わってもらう――!


 とにかく衝動を解放しているやつには、ノらせないことが重要だ!

 だから――!!


「好きだぁあああ! 俺は、あなたのことがっ、好きだぁあああああ!」

「――……は、はあ?」

「好きで好きでしょうがない! 大好きだっ、愛してる!  

 出会った瞬間から、一目で恋に落ちた!

 その目がっ、その鼻がっ、その口がっ、愛おしくてたまらない!

 いますぐ奪いたい! 抱きしめたい!!」

「な、何をふざけたことを! このニンゲンが――!」


 このまま告白しつつ、接近戦へ移行する!

 たとえ直撃を受けてもいい。即死でなければ、イスカが直してくれる。

 殺人的な暴力の嵐をかいくぐりながら、俺は告白文にだけ集中する。


「その凛々しい顔が、睨みつける鋭い目が! 俺の心を奪ったんだ!

 この高鳴る胸、熱くなる気持ちっ、愛以外にない!

 イア! あなたも同じ気持ちじゃないのか!?

 俺の姿をどう思う!? 胸が高鳴らないか!? ドキドキしないか!?

 俺はおまえのためなら死ねる! 何でも差し出せる!

 右腕一本だけじゃない。左腕も左足も右足も、全部あなたにあげられる!

 血が欲しいなら、いくらでも浴びせてやれる!

 その代わりに、あなたの気持ちが知りたい!

 イアのことを、もっと知りたい! 生まれから今日まで、全て!!」

「な、ななっ、何を言って――!」

「モノを壊すときのあなたは美しい! その気持ちを俺だけがわかる!

 その高笑いしたくなる気持ち、よくわかる! 

 今日まで衝動を抑えてきたのだと、俺だけがわかってやれる!

 だって、俺もそうだったから! 俺もずっとそうだったんだ!

 ずっとずっと衝動に蓋をしてきた! でないと、周りに気味悪がられるから!

 あなたも同じじゃないのか!? 周りの仲間エルフに気味悪がられるからっ、

 ずっとずっとその破壊衝動を抑えてきた! そして、大精霊に解放された!

 いや、それはいいんだ! けれど大精霊の思惑に乗ったままでいいのか!?

 俺たちが争う理由はない! むしろ理解し合える同胞なんだ!

 いや、同胞どころでもない! 俺たちは魂と魂で愛しあえる運命の相手!

 そう俺は確信できる! そう思えるほどの気持ちを感じるんだ!!」

「く、うぅ……!」


 ま、まじで効いてる……?

 言葉の冷や水を浴びて、イアは揺らぐ。

 徐々に力が弱まっていっている。


 彼女が動揺している理由はそれだけじゃないだろう。

 いま、俺の【喉】は強く熱を持っている。

 魔力が回転している。だからそれに合わせ、俺は叫ぶ――!

 

「俺はあなたが欲しい! あなたと一緒なら、どこまでも行ける!

 確かにあなたにとって、俺たちは悪いニンゲンかもしれない!

 けれど、あなたと俺たちは分かり合える! 分かり合えるんだ!

 目的を一緒にできる! むしろ、あなたはエルフという枠に囚われていては、

 その力を最大限に発揮できない!

 エルフがあなたの破壊衝動を許容するか!? いいや、絶対にしない!

 その破壊の力は俺たちと共にあるべきだ!

 俺たちは悪! 魔王と呼称される存在だ! だが、だからこそ!

 あなたの破壊の力が必要だ! そして、あなたの破壊の力に俺は一目惚れだ!

 もちろん、力だけじゃない! あなたの意思も心もっ、すべてが美しい!

 笑って笑って、何もかも破壊尽くすなんて最高だ! いい解放だ!

 あなたの血塗れの姿が魅力的だ! だから、もう一度言う! 

 あなたが好きだ! 美しく、気高く、退廃的で、蠱惑的なんだ!

 だから、俺と一緒になろう! 一緒に進もう! 新たな道を!!」

「わ、私はエルフで、おまえはニンゲンだ……!

 絶対に相容れない……!!」


 ゆ、揺れてる気がする! 畳みかける! 

 ここだ! ここしかない! 勝機はここだ!!

 劣勢を【逆接】してやる!!


「人とエルフだから結ばれない……? ああ、一般的に考えれば、確かにそうかもしれない。種族の差というのは大きな壁だ。何をするにしても問題がつきまとう。文化の差、習慣の差、体質の差――探せばキリがない。結ばれたとしても、エルフにも排斥され、人にも排斥されてしまうだろう。誰にも祝福されぬ契り、それは不幸しか生まない。どんなに崇高な愛があろうとも、異種族の婚姻など不和の元なんだ。不幸の始まりとわかっているのなら諦めるしかない。いや諦めるべき。そう、それが正しい。正しいんだろう。だからこそ、人は人と生き、エルフはエルフと生きてきた。歴史が証明している。だから、それが当然。それが普通っ。ああ、わかってる! そんなことわかってる! けど! ――けれど、俺はそう思わない! そう思わないんだ!!」

「ジンさん必殺、逆接からの自己肯定きたぁああ!」


 上のほうから茶々が入ってくるが、気にしない!


「俺と君が、新しき習慣の始まりとなればいい! 不和を避け、異種族の愛を排除するのが正しいというのなら、俺はその正しさに反逆する! 悪となってでも、愛を貫き通す!! それが心から愛することだと俺は思う! 誰に侮辱されようとも、誰に反対されようとも、誰に謗られようとも、本当の愛ならば止まることなどないはずなんだ! 愛は最も尊い――と、俺はそう思う!! だから、俺は何度でも言うんだ! 好きだ好きだ好きだと! それを恥だとも、間違いだとも、俺は決して思わない! たとえエルフと人の恋だろうと、俺はそれを決して間違いだとは思わない! むしろ、異種族だからこそ、本当の愛が試される! そして、いま俺たちの間にある胸の高鳴りは、本当の愛だ! 真実の愛! これ以上に大切なことってあるか!? いいや、ない! 愛以上に大切なものなんてこの世にない!! だから、好きなんだ! だから、結婚しよう! イア!!」

「あ、うぅ、あう……」


 唐突な告白に、イアは顔を真っ赤にする。

 何も言い返すことすらできなくなり、その身から力を抜いた。

 やはり、破壊衝動がそのまま力となっていたのは間違いない。


 ならば、いまここにいるのは狂気的な化け物でなく、

 ただの赤面してる巨乳美人エルフのお姉ちゃんだ!

 見たところ、恋とか愛とかの耐性はゼロ!


 なにそれ、可愛いだけじゃん!!


「もちろん、急に結婚なんて言われても困るのはわかってる! だから、少しずつ進もう! 俺はいつまでも待つ! あなたと恋人になりたい! 一緒にお出かけして、色々なことを喋りたい! 他愛もないことで笑いあって、沈黙でも安らぎあえる関係になりたい! 些細なことで喧嘩して、けれど何度も仲直りしたい! お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても、今日という日を後悔せず、祝福できるようになりたい! それだけが俺の望みなんだ! だから、少しでいいから、あなたも俺に近寄って欲しい! 俺はあなたを見ているだけで胸の鼓動が高鳴る! もし、あなたも同じなら、せめて、この手を取るだけでもいいから、近寄って欲しい! たった一歩でもいいんだ! それが俺とあなたの――そして、人とエルフの距離を縮める一歩になる!!」

「い、一歩……?」


 赤面したイアは、焦点の合わない両目のまま、朦朧とした様子で一歩前に出る。

 ふらふらとこちらに近づいてくるのを見て、俺は確信する。


 んー、これたぶん、喉の【万魔の先導女王ゼリアルアグス】の力が発動してる。

 勝手に【永遠唱室ディストピアリア】ってしまっている。


 おそらく、エルフもモンスターと似通っている要素があるのだろう。

 その僅かな要素に働きかけ、強制的に惚れさせている――あたりか?


 これはひどい。

 けど、俺は容赦なく告白し続ける。


「あなたが近づいた分だけ、俺も近づく! 俺だけじゃなく、あなただけじゃなく、二人で距離を縮めよう! エルフと人でも、手を取り合えるって証明しよう! 俺たちが始まりとなって、子供たちに道を示すんだ! 愛は最も尊いと! 愛があれば、種族の差なんて関係ない! あらゆる差なんて、愛の前では無意味! 性別も、年も、立場も、種族も、何もかも壁には成り得ないんだ! だから、俺はもう一歩もあなたに近づく! そして、もっともっとあなたに近づきたい! それを許して欲しい! だって俺はあなたのことが好きだから! 愛してるんだ! この想いは留まらず、言葉も留まらない! もし、これを留められるとすれば、愛の証明だけ! だから、俺はあなたと結婚したい! 結ばれたい! 契りを交わしたい! お願いだ! 愛ゆえに、もう留まることはできないから! だから、イア! 俺はあなたが好きだぁあああ! 大好きなんだっ! 愛してると何度でも言う! 俺は何度でも言う――!!」


 いつの間にか、二人の距離はゼロになっていた。

 目と鼻の先。少しでも動けば唇と唇が触れる距離。

 

 互いの顔が、互いの瞳に映る。

 その距離で、俺は告白する。


「――結婚しよう!!」

「は、はい……」


 イアは押し切られ、とうとう頷いてしまった。

 もはや、破壊衝動など欠片もない。


 勇者とやらの力は意味を失った。ここには、ただのエルフの少女がいるだけ。


 そして、唇と唇が触れる。

 恥ずかしがってイアは目を閉じた。

 それを好機と、俺は片手でイアの首を絞めにいく。


「ん、うぅ、んぅぅう……!」


 喘ぎ声を漏らすイアは隙だらけだった。

 大した抵抗もなく、頚動脈を押さえつけられ、口をふさがれ、

 脳に酸素が行き届かなくなる。


「んぅう……」


 結果、イアはぱたりと倒れてしまう。

 まさしく、真っ向勝負の接近戦で完全勝利してみせた瞬間だった。


「よし、勝った……! 勇者に勝ったぞ! ふはははは――!

 大元帥たるこの俺が、こんなところで負けるものか! ははははハハハハハ!!」


 そして、俺は高笑いする。

 ドン引きしているセイとイスカ、そしてモンスターたちに見守られながら。



告白だけで4000文字いってしまいました……。

プロットだと「告白して赤面している隙をついて気絶させる」の一行だけなのに、想像以上にげすいですね……。洗脳にしか見えない。まあいいや。


あらすじ直しました。

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