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13.異世界と言ったら、エールーフ

 と、魔王とあくどい取引をしていると、背後から視線を感じた。


 改造されてから、身体の五感が研ぎ澄まされている気がする。

 木々のざわめきや、生物の呼気、全てを肌で感じられる。

 その感覚に異物が混じったのを、直感的に感じたのだ。


 ちくちくと背中に突き刺さる何かを感じる。爪楊枝の先端的な何か。


「むっ、視線!? いや、殺気!?」


 俺は嬉々として振り向く。

 別に殺されるようなものは何一つ感じてはいない。

 だが、欲のままに口が勝手に動いた。


「それはジンさんの妄想上にだけ存在する視線でなく?」

「いやほんとに! 発言省みるとそう思えるかもしれないけど、割とほんとに!   

 あっちあっち! イスカもあっち見てみて!!」


 心外だけど順当な返答を受け、俺は遠くを指差す。

 木々の隙間に潜んでいた黒い影が動く。

 何者かが俺たちに気づかれたと知り、逃げ出しのがわかる。

 見間違えでなければ、その姿には見覚えがあった。


「いま、なんかいたよね?」

「うん、いたねー」

「耳長かったよね……?」

「そりゃ長いよ」

「もしかして、エ・ル・フ?」

「そうだよ。よくわかるねー。流石、ジンさん!」

「やった!」


 俺は両手を上げて喜ぶ。

 種族を当てたことも嬉しかったが、

 何より夢に見ていた異種族との遭遇に興奮していた。


 エルフだよ。エルフ。

 耳長かったもん。エルフ以外にないよ。

 もし、耳が長いのエルフじゃないとか言われたら起訴ものだよ。

 いやーよかった。

 この世界のエルフが、地方伝承準拠とか、小さいいたずら妖精とか、

 毛むくじゃらの小男とか系じゃなくて。


 少年の夢を大切にする良い異世界だね! ナイス!


「そっかー。エルフがいるのかー」


 そして、俺は少年らしくエルフについて思案する。

 最初に出会った亜人さんがエルフでよかった。

 

 エルフ――どう料理しても美味しい最高の素材だ。

 エルフの女王に認められて、霊験あらたかな武器もらってもいいし。

 頑固で融通の利かないエルフたちを説得する展開もいい。

 別種族と抗争している間に立ってみるのも面白いかもしれない。

 どうせ、あのエルフさんたちのことだから、一筋縄ではいかないことだろう。

 そこを颯爽と現れた俺が解決するわけだ。

 エルフさんたちに、あの子ちょっとすごくないってところ見せてやるぜ!


「それで、ジンさん。あのエルフ、追いかけるよね?」

「ん、んー。まあ、そのつもりだけど……」


 だが、一つ不安点がある。

 何を隠そう、そこにいるイスカさんだ。

 どれだけ俺が勇者プレイをしようとしても、

 そこの魔王さんがいる限り、うまく行く気がしない。全くしない。

 平時から亜人さんを絶望させると言っているのだから、当然だ。


 むしろ、侵略者と間違われる未来しかない。

 そりゃそうだろう。素人目の俺から見ても、イスカの瘴気すごいもん。

 というか、俺からも瘴気出てきてるのが手痛い。

 力の代償に闇を抱えられたのは嬉しいが、こういうときには不便利だ。


 そんな俺たちに、果たして善人プレイができるのだろうか。

 俺が最も嫌なのは、中途半端であることだ。

 せっかくの異世界で解放されたのだから、もっと突き抜けて行きたい。

 どっちつかずのプレイで、お茶を濁したくない。


 ならば、いま俺がやるべきプレイは善人プレイでなく――

 魔王プレイなのかもしれない。

 隣の魔王様がいる限り、それ以外の選択肢はなさそうだ。


 エルフに対する魔王プレイか……。

 うーむ。


 東大合格確実と思い込んでる高度な脳みそをフル稼働させ、

 俺はこの状況の最適解を導き出す。


「――よし、エルフの村へえろいことしにいこうか!」

「え、えろい!?」


 珍しくイスカは驚いた。


「いや、正直な話な、やりたい放題したいんだけど、その方法がわからないんだよ。  

 だから、ここは魔王の王道として、エルフを陵辱しにいこうと思う。

 大抵、エルフとか陵辱されてるよ。あっちも陵辱待ちだよ、きっと」

「な、なんで、エルフ相手に王道だと陵辱なの……?

 流石の私もびっくりだよ……。引くよ……」

「え、え? そういえば、なんでだろうな……。

 俺の世界の業が深いせいか……? いや、思春期男子の深層的な願望か……?」

「んんー? それって、ジンさんの世界の常識に従ったってこと?

 駄目だよ、ジンさん。大衆的な欲求に釣られちゃ。

 ジンさんはジンさんのしたいことをしないと!」


 一理――いや、八理くらいある。流石イスカだ。

 イスカは生きていく上で、最も大切なことを教えてくれる。


 それは人が真の幸福を掴みとるために必要なものだ。

 なにせ、人の個性は無限にある。

 ならば、人の欲求も無限にあるということだ。

 俺は俺にしかない欲を見つけなければ、この異世界に来た意味がない。


「そうだな。まだまだみたいだな、俺も。

 少し気を抜くと、すぐこれだ。エルフ陵辱とか素人すぎる」


 やれやれと肩をすくめる。

 元の世界の癖で、自然と心のブレーキがかかっていたのかもしれない。

 赤信号をみんなで渡るのが心の髄まで染み付いているのが情けない。


 そうじゃない。

 ここにはもう『他の誰か』なんていない。

 赤信号を渡るときは一人だけだ。一人で自分の好きな道に飛び出していいのだ。

 おっと、いまはイスカを入れて二人か。


「俺はエルフをどうしたい……?」


 自問自答する。

 けれど、答えは易々と出てこない。


 ゆえにテンションを上げていこう。

 さあ、アゲていこうか! それがいまの俺の選んだ道なのだから!


「【魂の衝動エンディアフェロン】よ……、俺に答えを教えてくれ……」

「え、えんでぃあふぇろん? どういう意味?」

「魂の衝動と書く。それはいわゆる、心からの叫びでありパッション」

「ふーん。して、その意味は?」

「イスカ……。ルビってのはな、愛であり、哲学なんだよ。

 だから、意味なんて言葉の中に収まりきらないんだよ。

 つまり、心が感じる七番目の選択なんだよ」

「んー? ちょっとジンさんとの意思疎通に自信なくなってきちゃったなー」

「イスカ、意味を求めるから世界が狭まる。それはいけない。

 意味ではなく、それそのものを感じとるんだ……。いいね……?」

「つまり、ぶっちゃけ、意味はないんだね……」

「ふっ。違うな、イスカ。意味など最初からないんだ。

 なぜならば、全てのものに意味などないのだから」

「お、おう?」

「ゆえに、意味がないことは普遍なんだ。そして、普遍なものこそ美しい」

「え、あ、うん。……いや、ん?」

「だからこそ【魂の衝動エンディアフェロン】はかっこいいんだ」

「お、おう……」

「しかし、【魂の衝動エンディアフェロン】は何も答えてくれない……」

「そりゃそうだろうね、自分で意味ないって言ってるし」

「な、ないけどあるんです! ないけどあるんですぅー!!」


 世の真理と絡ませて煙に巻こうとしたが、

 新たな概念【魂の衝動エンディアフェロン】の確立はできなかった。


「ジンさん。遊ぶのはいいけど、追いかけないと見失うよ?」

「う……、確かにそうだな……。

 仕方ない。追いかけながら考えるか。

 いや、もうエルフと接触したあとに決めようぜ。

 ぶつかってから、あとは流れで。うん。それでいこっか」

「じゃー、出発! 走るよ、ジンさん!」

「おう! 奔るぜ!」


 結局、俺たちは方針を決めないまま、走り出す。

 逃げだしたエルフの逃げた方向はわかっている。


 改造された俺が本気で走れば、すぐに追いつけるだろう。

 エルフ特有の結界とかない限り。


 まだ見ぬ結界に胸を膨らませながら走っていると、後ろから轟音が聞こえてくる。


「追いかけるのはいいが……」

「どったの、ジンさん」

「色々と引き連れてるせいか。森のバランスぐちゃぐちゃになってないか?」

「うん、なってるね」


 俺とイスカは器用に木々の合間を縫って走れる。

 しかし、勝手に仲間となっていた魔獣さんたちは違う。


 恐竜クラスの魔獣さんたちが木々を折りながら俺たちについてくる。

 その轟音たるや雪崩のようだ。

 俺たちが通ったあとは、戦車も通れそうな獣道ができてしまっている。

 いや、魔獣道か?


「ちょっと森の生態系とか色々やばい気が……」

「え、そんな理由でジンさんは歩みを止めるの!?

 さっきから名もない草木を、たくさん踏み潰しているのに!?

 いまさら、そんなことを気にするの!?」


 イスカは少しだけ煽りモードに入る。

 けれど俺はそれを華麗にかわす。

 ここで【逆接】を頑張って、エルフを見失いたくない。


「いや、大小の問題なんだよ。気に留まるか気に留まらないかの問題。

 草木へし折れる、些細。森へし折れる、煩い。おーけー?」

「わっかりやすい!」

「なっ!」


 説得は数秒もかからなかった。

 俺たちは走るのを止めて、後ろへと振り返る。

 まずイスカがぷりぷりと怒る。


「君たちっ、うるさいから動いちゃだめ! めっ!」


 俺から見たら可愛らしいだけだが、動物たちは違ったらしい。

 びくりと身体の毛を逆立たせ、この世全ての悪に出会ったかのように怯えだす。


「はーい、かいさーん! 解散! いまから自由行動ねー!」


 さらに俺が【喉】を使って、モンスターたちに指示を出す。

 すると、モンスターたちは言われたとおり、すごすごと森の中へと散っていく。


 すごい。

 まじで、この【喉】があれば意思疎通ができるようだ。

 人とモンスターはわかりあえる。それが証明された瞬間だった。


 ただ、もうちょっと後半で起きて欲しいイベントだったと少し不満だ。

 けれど、気にしない。


 これから俺は異種族の絆を育みに行くのだ。

 人とエルフもわかりあえる。


 それを証明するために、俺は森を歩き出すのだった。


異世界迷宮一巻明日発売!

思い出したかのように宣伝!

特典SS注意してくださいませ! 


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