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12.聖女と魔王

 そして、また並ぶ。デパートで売られているお肉。


 二tトラックがあっても相対したくない化け物を、

 徒手空拳の暴力だけで封殺してしまった。

 びっくりだった。戦った俺がびっくりだった。

 チートコードも真っ青な楽勝っぷりだった。


 やっぱ、現実にも無敵時間あるじゃん……。

 世界って平等だなぁ……。

 そう思った。

 

 だが、気持ちよく復讐リベったものの、それ以上の気持ち悪さがつきまとっていた。


「つ、強くなりすぎじゃね?」


 まるで自分の身体じゃないような感覚は、そう簡単に慣れられそうにない。

 本能的な嫌悪感が、全ての感覚に勝る。


「ぶっちゃけた話、前が弱すぎだったんだよ!」 

「怖えぇ、急に強くなるのって怖えぇ。

 何をどう改造すればこうなんだよ」

「ふひひっ、どやぁ!」

「いや、褒めてないからね。ほんっと相変わらず邪悪な笑顔だなぁ、おまえ」

「照れなくていいんだよ、ジンさん! 私はジンさんの天使エンジェルだから!」

「んー、最近の天使は、本人の許可を得ずに人を魔改造するのかー。

 いや、よくよく考えれば、天使の加護ってそういうものか?」

「ねっ、天使でしょ!?」

「ああ、もう天使でいいや」

「エンジェー!」


 天使と評され、イスカは気分をよくする。

 俺の中の天使の評価が奈落の底へ落ちていると知らずに。


 おそらく、この異世界で天使と出会えば、その瞬間に殺し合いが発生するだろう。

 そのくらいまで、信用ならない生物まで格下げとなってしまった。

 

 だって、イスカと同じだぜ? 

 とりあえず、殺してから考えるレベルの災厄だろ?


 俺は喜び歌うイスカの頭を撫でながら、「天使だわー」と繰り返した。

 結果、機嫌のよくなったイスカがキスしようとしてきたが、

 それは丁重にお断りした。


 これ以上の天使(邪神)の加護はノーサンキューだった。


「しかし、本当に怖いな」


 俺は手を開け閉めしながら、森の中を歩きだす。

 亜人さん探し続行だ。


 そして、歩けど歩けども、失われない体力に驚く。

 確か、竜の心臓を使ったと言っていたが、

 それを信じざるを得ないほどの変化だった。


 イスカの無断手術により、本当に俺は強くなった。

 どれくらい強くなったかというと、

 この魑魅魍魎が跋扈する魔界で敵がいなくなるレベルだった。


 大抵の魔獣さんは目が合っただけで、逃げるようになってしまった。

 別に田舎の不良の如くメンチを切っているわけでもないのに、

 「財布なら置いていくのですいやせん!」と走り去る。


 もしくは、仲間になる。


 別に倒してもないのに、魔物の餌をやったわけでもないのに、

 「起き上がってこちらを見ている!」という過程を経ることもなく、

 後ろについてきている。


 その数は、森を歩けば歩くほど膨らんでいく。

 四人制限とか馬車制限とか関係なく、ずらりと長蛇の列が伸びていく。


 魑魅魍魎が百鬼夜行している状態だった。

 温厚で大らかな性格で通っている俺でも、流石にこれは許容できなかった。


「……おい」

「なーに? ジーンさんっ」

「これは一体何だ」


 森を進む俺たちの後ろへ続く、魔獣たちを指差す。

 恐竜のような巨体モンスターから、小型の昆虫モンスターまでより取り見取り。

 醜悪な鳥モンスターや不定形のスライムモンスターといった、

 特殊なモンスターまで完備されていた。


 その全てが、俺に熱視線を飛ばし、嬉しそうについてきている。

 うっすらと魔獣さんの気持ちが察せられるようになっている自分が嫌だった。


「ふひっ、すごいね! 動物に好かれやすいんだねー、ジンさんって!」

「いや、一般動物は逃げてね? 

 寄ってきてるの、グロ系モンスターだけじゃね?」


 時々、普通の獣も見つけることがある。

 俺のいた世界でも見たことのある猪や兎あたりだ。

 だが、禍々しさの足りない一般獣さんたちは、この百鬼夜行に参加していない。


「見た目で差別よくないよ! 彼らだって好きで、あんな見た目じゃないの!

 たとえぐちゅぐちゅの見た目でも等しく愛してあげて!」

「おかしくね? なんかおかしくね? 俺、変なフェロモンとか出てる?

 こう、墓場のモンスターが落ち着くような腐った臭いしてる?」

「いえいえ、これも殿下の人徳ゆえでございまする」

「バレバレの嘘つけやこらぁあああ!!

 俺はなぁ、俺の人徳の薄っぺらさほど自信のあるのものはないんだよ!

 猫に引っかかれ、犬に噛まれ、鳥につつかれ!

 果てには姪っ子と妹に通報された俺を舐めるなよ!?」

「流石はジンさん! 私そっくり!

 私なんて姪っ子に刺されたことあるよ! 数回くらい!

 まっ、親族全部合わせると、殺されかけたのは百超えるんだけどね!」

「いやぁもうそれ人徳とかの話じゃないなあ! 怨恨の話だよ!

 きっとおまえ、姪っ子に殺されても仕方がないことしてたんだよ!」

「えん、こん……?」

「そこで本気で不思議そうな顔するから刺されるの!

 もっと人の気持ちを考えてあげて!」

「ヒトノ、キモチ……?」

「そこくらいはわかっとこうぜ!

 おまえと意思疎通してる俺の正気が疑わしくなるからさあ!

 俺は常識人突込み枠キャラ目指してるから、

 おまえもちゃんと応援してくれよ!?」

「ふひひっ、冗談だよ! やだなーもう! 人の気持ちくらいは察せるよ!」

「じゃあ、おまえはなんで姪っ子に刺されたん?」

「私の可愛さに嫉妬して――かな?」

「あー、事情全く知らない俺でもわかる不正解言っちゃったよ!

 こいつやっぱ人の気持ちとか全くわからない系キャラなんだ!」

「いや、いやいやほんとなんだって! まじでまじまじ、まじまじまじまじ!

 超モテモテの私に嫉妬しての話なんだって!」

「その超モテモテとは、今の俺のような状況?」

「うん。ちょっと、竜とか巨人とかキメラとかグールとか引き連れて、

 家に帰っただけなのにねー」

「大体わかった! 

 で、その布陣の中、おまえまで近寄って刺した姪っ子ちゃんすげえ!!

「うん、自慢の姪っ子だよ。

 彼女こそ、勇者の加護なくとも、真の勇者と呼ぶべき存在だと私は思ってる」

「できれば、そっちの子に呼ばれたかったなー俺!」

「えー? もうジンさんたらー。冗談うまいんだからー」

「いやー、本気マジで。本気マジで、そっちの子がよかったー。

 ぜってー、そっちの子のほうが可愛いって。確信あるもん」

「そんなに姪っ子ちゃんがよろしいと……?」

「うん」

「ならば、ここに用意したるは姪っ子ちゃんの遺体でございまする」


 イスカは服の中から、ごとりと身の丈を超える鉱石を落とした。

 その鉱石は曇り一つない透明な水晶。形は棺のような長方形。

 そして、その鉱石の中には、一人の少女が眠っていた。


 髪は陽の光のような金。肌は白磁のような白。

 一目見ただけで太陽を髣髴とさせる――のに、少しイスカと似ている少女。

 イスカは邪悪そのもの。悪の化身と呼ぶべき存在だ。

 だというのに、似ていると思ったのは遺伝子的な類似だろう。

 目鼻口の作りや体格が、姉妹のように似通っていたのだ。


 だが、その姿はまさしく、光の女神と呼ぶべき存在だった。


「す、すっげー可愛いーーーーーーーー! けど、案の定故人だったよ!

 初めまして、姪っ子ちゃんっ、できれば生きてるときに会いたかった!

 それならば、完璧なボーイミーツガールだった!

 そこを失敗したせいで、現在進行中で俺ってば闇堕ち中なんだ! 運命を恨む!

 なんで生きているうちにっ、生きているうちに彼女と出会えなかったんだ!!」

「神の手を借りことなく勇者に覚醒した彼女は、

 命を賭して私の力を封印したんだよ……。

 聞くも涙、語るも涙のお話なんだよ……」

「なんだよそれ、聖女か。すげえ、マジ聖女じゃん。

 イスカ封印とか本気の聖女じゃん。初めて見た、これが聖女か。

 まじ可愛い、触りたい。いや、奉りたい。家に」

「え、え? 違うでしょ、私が聖女だよ? 聖女イズ私!

 ほら、可愛いイスカちゃんだよー?

 いまならお嫁さんとしてお家に住んじゃってあげるよ?

 毎朝キスで起こしてあげるよ?」

「ぺっ」

「唾棄!?」

「おまえが聖女っつーなら、このモンスターたちどうにかしろよ。割と本気で」

「んー、すぐには無理だよー。

 改造が進んだせいで、私とのシンクロが上がってるからね」

「シンクロ上がればモンスターに好かれるとか。もうあれだね。

 魔女とかいうレベルじゃないね。邪神とかそういう類だね。

 で、契約した俺は悪魔神官あたりか。ツーの悪魔神官がいいな。強いから」

「うん! 強いよ!

 たぶん、もうちょっとやそっとの瘴気じゃ、びくともしない身体!」

「あーまじかー、そういう身体かー。

 どっちかつーと、瘴気に苦しむ勇者の身体がよかったな。

 くっ、この瘴気! やつの魔力か! とか言いたかった!

 かーっ、まじで姪っ子ちゃんがよかったー。

 こっちの子とシンクロ上がってれば、聖なるオーラとか出せてたんじゃないの?

 正義の勇者オーラMAXで女の子にモテモテな人生まってたんじゃねえの?

 なんでだよ! なんで、俺は正義の味方じゃないんだよ! 理不尽だ!

 姪っ子ちゃん! 俺は君を絶対に生き返してみせる! 命に代えても!!

 イスカを一緒に倒そう!! その代わり俺と結婚して!!」


 俺は水晶にすがりついて、自らの運命を呪って慟哭する。


「あ、その水晶、大事に扱ってよ。

 そのうち、その子の内臓をジンさんのと取り替えるんだから」

「さらっとそういう外道な台詞吐くから、

 俺のおまえへの評価が奈落の底なんだよ!!」

「いや、でも、それをしないとモンスター引き寄せ体質治らないと思うよ?」

「え、まじ?」

「まじまじ」

「……そ、そうか」


 そっと俺は聖女の入った水晶を魔王へと差し出す。

 それを邪悪な笑顔を浮かべて受け取って、服の中へとしまうイスカ様。

 俺の決意は、たった数秒で霧散してしまった。


 くっ……、魔王め……!

 なんて卑劣な取引を……!


 恨まないで欲しい、姪っ子ちゃん。

 君は俺の中で永遠に生き続ける。



たぶん、この子がラスボス。ホステスはヒロイン。


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