11.再戦って勝利フラグ
「や、ややややった! ジンさんが非人道魔法に賛同してくれた!
嬉しいナー。やっぱり、自分の成果が認められるって嬉しいナー!
そうだ。次は内臓をもっと取り替えてみよう!
魔力核の代用は簡単だったけど、まだまだ足りないからね!
あとは良質な魔力神経と魔力口がいるなぁー!」
「うん、ファンタジー用語だな。聞いた事はないが、大体言いたいことはわかる。
たぶん、かなりの外道行為だな」
「流石、私たち! 老夫婦もびっくりな以心伝心だね!
同じ墓に入ろうね、ジンさん!」
「ははっ、おまえと同じ墓に入るのは嫌だなー!
だってたぶんおまえ封印とかかかってる墓に入るタイプだもん!」
「えー、いーじゃん! 封印されるときは一緒だよ!」
「悪いなっ、一緒に封印はされてやれない。
たぶんそのときは封印側に寝返ってると思うから、俺」
「それ封印されてるのジンさんのせいじゃない!?」
「心許したら、常にその危険がつきまとうと思え。
世の中、嘘と裏切りで一杯なんだぜ?」
「うん、知ってた!」
「知ってるならよかったよかった」
流石は魔王。
世の酸いも甘いもわかっているようだ。
こうして俺はオッドアイという神器を手に入れたことで、人体改造を水に流した。
一瞬で仲直りした俺たちは、手を繋いで森の奥へと進んでいく。
色々と会った気はしたが、当初の目標は変わっていない。
亜人さん探しだ。
ただ、隣でぶつぶつと呟くイスカの言葉の内容が怖い。「――ジンさんをさらにパワーアップさせるには何がいいかな……」「エルフの目が欲しいなあぁ」「筋組織は、やっぱり巨人族かな。それとも柔軟な赤蛭とかのを使おうかな」「とにかく亜人の神経は必須だね。ちょっと引き剥がすの痛いかもしれないけど、そっくり取り替えないと――」なんてことを言っている。
まだ改造する気満々である。
そして、次に会う亜人さんの人権が危うい。
俺も一緒に人権失ってあげるから許してくれ。まだ見ぬ亜人さん……。
亜人さんに会わなければいけないとわかっていながら、
亜人さんと会うのが怖くなってくる俺。
何もかも、隣の魔王が悪い。これだから中間管理職は辛いぜ。
そして、再度俺は出遭う。
恋人繋ぎでスキップしていると、
遠目に【魔獣さん】が視界に飛び込んできたのだ。
恐竜のごとき巨体と、怪異であることを証明する複眼。
その情報が網膜に投影され、脳へ信号として送られた瞬間、
脳みその快楽物質の生成が、きゅっと急停止した。
禁断症状のごとく身体は震え出す。
涙腺が緩むと同時に、喉から悲鳴があがる。
「っぎゃああああーーー!! またでたーーーー!!」
魔獣さん登場。
それを認識した瞬間、俺の思考能力はゼロになる。
「はわ、はわわわわ……! ふえぇぇぇ……!」
「うろたえるなぁあ! ジンさぁあん!!」
いまにも泡を吹きそうな俺の顎をイスカの拳が捉える。
手加減はされていたので、意識は飛ばない。
しかし、かくんと膝が折れて動けなくなる。
すげえ! 手加減でこんなことできんの!?
おそらく、神業と呼ぶべき拳だったろう。
その一撃に感動するが、最高のトラウマを前に逃げられなくなってしまった。
ガタガタと身体が震え、呼吸が細く浅くなっていく。
「ひゅ、ひゅい! やばい、やばいって!
逃げよう! 逃げよう、イスカ! もう死にたくない! あれ、めっちゃ怖い!」
少し前の俺に教えてやりたい。
死ぬのは怖い! 誰だって怖い! 死んだら無だぜ、無!
なんにも残らないとか、まじ残酷! それだけは嫌だ!!
けれど、怯える俺にイスカは優しく囁く。
撤退する気は皆無だった。
「ふひひっ! その心配はノーサンキュウーなんだよ、ジンさん!
その新たな力、試してみたいと思わない?」
「俺の新たな力……?」
『新たな力』というワードに引かれ、俺は少しだけ心が動く。
え、でも、相手あれだぜ?
獣というか、どっちかつーと竜だぜ?
あのウェイト差見てみろよ。どんな力を得れば、あれがどうにかなるんだよ。
常識で考えようぜ、イスカ。
ここは逃げるが正解。正解だって。
「その喉と心臓……。使いこなせれば、あの程度の魔獣なんて楽勝だよ?」
「ら、楽勝……?」
「うん、楽勝。まず私が魔獣なんて超楽勝だからね。
だから必然と、私から力を貰ったジンさんも楽勝になるわけ」
楽勝……?
な、なら、やってもいいかな……?
でも、もう死にたくない。
それに、なんだかいまちょっと体調悪い気がするし、お腹空いて力でないし。
やるなら明日がいいんじゃないかなあ……?
「楽勝だよ? それでもリベらない? そんな消極的なジンさん、らしくないなー。
その腕の力は、さっきわかったでしょ? いける気、してこない?
ねえ、本当にいかないの……?」
「――っ!?」
イスカの俺を見る眼が少しだけ落胆しているのがわかる。
どれだけ蔑まれても罵れても構わない。
けれど失望だけは耐えられなかった。
俺はぎゅっと拳を握り締める。
そこには以前にない超常の力が宿っていた。
それは間違いない。もはや、膂力は人間を超えている。
ならっ、ならば――!
迷う必要など一切ない! やるしかない!
でもその前に、前置き! 前置きしないと怖い!
「ふっ、ふふふっ、ふふふふふ……! 俺の新たな力……? 確かに俺は変わった。死を乗り越えてからのパワーアップ的な何かを感じる。ああ、イスカのおかげで強くなった――気がする! けれど、これを使って戦って、それで俺は満足できるのか? 人は言うだろう。借りものの力は偽ものだと、過ぎたる力は身を滅ぼすと、身分不相応の財は心を腐らせると、他人の力に頼っていては成長できないと――! ああっ、わかってる。こんな手段で手に入れた力、自分の力じゃない……! 決して、自分の力じゃない!!」
「じゃない、けどぉー!?」
イスカの合いの手が入ることで、俺の口は加速する。
恐怖を【逆接】する!
「じゃない――けどっ! 俺は違う! 違うんだ! 自分の力で手に入れていないから、自分の力じゃない? 使うことが恥? いつか痛い目に遭う? いいや、違うね! 俺はそう思わない! そうじゃないだろ、生きるってことは! 道具を使うことが恥というのならば、人の進化とは一体何なのだ! 生物の多様性とはっ、進化論とはっ、適応の意味とは何だ!! 古代――人が火を覚え、石を研ぎ、自らより大きい獣を狩ったことは恥なのか? その知恵と工夫が力でなければ何が力だというのか! その戦い方は間違いじゃない! 決して間違いなんかじゃない! その理に反逆するというのならば、細胞がミトコンドリアに頼っているところから反逆しなければならなくなる! それは違うだろ!? 俺たちは支配する! 全てを支配し、全てを力とする! それが俺の力! 俺の名前はジン! 人でありながら神に至るものっ、神であるゆえに人と異たるもの! 魔なる全てを支配してみせる!!」
「きゃーー! ジンさん、かっこいーー!!」
「だろ!? ちょっと行ってくるぜ、イスカ!! うぉおおおおおおおおお!!」
勢いのままに俺は駆け出す。
木の葉を手で払いながら森を抜け、散歩中だった魔獣さんの前へと躍り出る。
余りにも身体の大きさが違いすぎて、目線が合わない。けれど、俺は一切気後れすることなく叫ぶ。
「さあっ、かかってこいぃいい!! この俺が相手だあああ!!」
焼き直しの光景。
しかし、俺は迷わない。学ばない。
だって、異世界人の勇気が異世界を救うと信じているから――!