表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時渡りの姫巫女  作者: 真麻一花
2幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/91

20 望む未来2

 元の時代に戻る、という目的が無くなったヴォルフは神殿に関わるのをやめる事を念頭に置き、一度はエドヴァルドを離れることも考えていた。

 異人街の治安が悪くなってきているためだ。

 神殿の警備隊は相変わらず続けていたが、巡回の度に治安の悪化を感じていた。物価の高騰はますますひどくなり、エドヴァルドの住民感情は悪化の一途をたどっている。同時に異人街の人間がエドヴァルドの町中で暴行にあったなどという話も増えはじめ、エドヴァルドと異人街の溝は深まり、対立が表面化しはじめているような状態だった。

 ここ何年かの間もこうした値段の高騰は何度もあったという事だが、それまではここまでひどい対立になったことはなかった。長く続く戦が人の心を不安定にしているにしても異常と見る者もいる。物価の高騰が始まってこれほどまでに早く悪い噂が広まるのは、何か他に原因があるのではないかと噂されることもあった。

 そんな状態でいろんな不安もある。けれど、ヴォルフはエドヴァルドが直接的な戦火に陥ることはないだろうとも思っていた。

 それは、グレンタールの歴史にも起因している。


 ヴォルフが改めてこれからどうするかについて話していくのをリィナは頷きながら聞いていた。

「戦が激しくなってきているが、ここにとどまりたいのは、もう一つ理由がある」

「はい」

「まだ、全く想像の段階なんだが」

 少し言い出しにくそうなヴォルフに、話を促すようリィナは首をかしげる。

「ちびすけ、もしも、の話だぞ。もし、グレンタールが俺たちのいる間に興ったら、君は未開の地でもグレンタールに帰りたいか?」

 ヴォルフの顔は真剣だ。

「え? どういうことですか?」

「三百年以上昔の話で、エレイネ川の利権を争ってのゾルタンとの戦というと、俺が知っているもので、グレンタールが興る直前に起こった戦があるんだ。他にも時代に符合することがいくつかある。もし、今起こっている戦がそれならば、十年以内に……いや、おそらくもっと近い内にグレンタールが興る」

「ホント、に……? グレンタールに、帰れるんですか……?」

「もし今の時代がそうなら、だけどな。時渡りの姫巫女も百年出てないというし、グレンタールを興した最後の時渡りの姫巫女がいつ現れてもおかしくはない。もしそうなら、二人で、グレンタールを一から作るのに、加わるか?」

 ヴォルフが眼を細めてリィナを見ている。

 戻ったところで知る人がいるわけではない。けれど、グレンタールに、あの土地に戻れるのなら……。

 ヴォルフも同じ気持ちなのだろう。元の時代に戻ることは出来なくても、せめて、グレンタールに戻りたい。リィナは自然に顔がゆるむのを感じていた。

「……はい!!!」

 リィナの返事に、ヴォルフが嬉しげに微笑む。

「よし、じゃあ、ここからが本題なんだが」

 そう言うと突然にヴォルフが身を正し、表情を引き締めた。そして少しかがんで彼女の肩に頭を乗せるようにして小さな体を抱きしめる。

 その突然の抱擁に動揺する間もなくヴォルフが囁いた。

「リィナ、愛している」

 愛しくてたまらないというように髪を撫で、頬をすり寄せる男に、リィナは未だ慣れない様子で顔を真っ赤にする。

 それを楽しむように彼が笑うと、「またからかって」とリィナが怒りかけた。しかしそれを遮るようにヴォルフが真面目な顔をして片膝をつき、彼女の手を取った。

「リィナ――俺の、姫巫女」

 神妙な表情のままヴォルフは彼女に視線を合わせ、ちゅっとその手に口付ける。

「……あの?」

 戸惑うリィナに、ヴォルフが言葉を続ける。

「俺は、君の一生を守り共に過ごす、君の剣士になりたい。――俺と、結婚してくれ」

 突然の求婚に、リィナが固まった。

「結婚?」

 リィナはよく分かっていないかのように、口の中で繰り返すように呟いた。

「ああ」

 頷くヴォルフに、ゆっくりと実感がわいてきて、リィナの目にはじわりと涙がうかぶ。

「ほんとに、私で、良いんですか?」

「君がいい。君でなければ、望まない」

 その言葉をうけてリィナが倒れ込むようにヴォルフに体をあずける。

「嬉しいです。私も、ヴォルフがいい。あなたと、ずっと一緒にいたいです。これからも、あなたが、帰ってきて、落ち着けるって思える人になりたいです」

 ヴォルフの首元に顔を埋めるようにして、リィナが精一杯の言葉を返すと、ヴォルフがしっかりとその体を抱きしめ返す。

「ありがとう」

 しばらく抱き合っていたが、先に顔を上げたヴォルフが、ちょんちょんとリィナの耳元をくすぐるように触れ、顔を上げるように促す。

 リィナの涙に潤んだ真っ赤な顔がおずおずと上げられると、ヴォルフがその唇に軽く口付ける。

 リィナの顔が更に赤くなって、けれど何度もくすぐるように軽く繰り返されるキスに、次第に二人で秘密でも共有しているかのようなくすぐったさがこみあげ、クスクスと笑いはじめる。

 ヴォルフはそんな様子を愛おしげに眺めながら、二人の未来を口にする。

「結婚して、戦が終わったら、必ず、二人でグレンタールに、戻ろう」

「……はい!」

 二人は抱き合ってそのいつか来るであろう未来を誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ