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18 三百年祭2

 間もなく舞いが始まる。

 姫巫女の衣装に着替えたリィナと剣士の衣装のヴォルフは舞台の近くで構えていた。

 これが最後という苦しさと今はまだヴォルフと一緒にいられる幸せ、そして三百年祭という大舞台を前にリィナは緊張していた。

 貴賓席までもうけられ、そこには王族らしき人物も見えて、普段の祭り以上に盛大な大舞台なのだと、実感する。

 けれどリィナにとってはおそらく最後の幸せな時間になるのだ。舞いを終えればリィナは日常生活と別れることが決まっている。

 姫巫女として、この三百年祭の大舞台でお披露目がされるのだから。

 だから今日は、舞いも他のどんなこともめいいっぱい楽しもう、いっぱい心に焼き付けておこう、リィナはそう決めていた。

 この舞いをヴォルフとの大切な思い出にするのだ。

 村に戻ってから何度かエンカルトがリィナを訪ねてきた。彼がやってくる一番の目的がリィナに釘を刺すためであろう。そして、姫巫女として神殿に上がるための準備を進めるためでもあった。

 いろんな事がリィナの望まぬところで、勝手に決まっていた。

 今リィナが身につけている衣装もそうだった。

 毎年の舞いで着ける衣装ではない。これは本物の姫巫女の衣装だった。

 三百年祭で新しくあつらえたと誰もが勘違いしているが、違うのだ。これはリィナのためにあつらえられた、本物の姫巫女の衣。エドヴァルドの姫巫女に送られるはずだったリィナの作った紫泉染のベールもまた、リィナ本人が使うことになった。

 重い、重い、枷のような衣装を纏い、けれど幸せな最後の舞をヴォルフと舞う。


「行こうか」

 ヴォルフが手を伸ばした。

 リィナはそれにそっと手を重ね、ヴォルフを見上げた。

 夢見た私の剣士。望んではいけない人。

 しゃらん、と身につけた鈴が鳴る。

 リィナは微笑みを纏った。

 さあ、最後の舞台を華やかに彩ろう。幸せな生活の終わりに。


 舞いが始まった。

 どんと鳴り響く太鼓の

 しんと静まって息を潜めて見守られている舞台の上で、姫巫女がしなやかに腕を上げ、シャンっと鈴を鳴らす。

 普段のリィナを知る者には想像も付かないほどに、どこかピンと張り詰めた空気を纏い、ただそこにいるだけで魅入られるような壮絶な迫力があった。

 その迫力は、姫巫女を彷彿とさせる気品のようにも感じられた。

 ヴォルフと共に舞っているのは、無邪気で愛らしいだけの少女ではなかった。

 どこか愁いを秘めたようなその瞳と、剣士を恋い慕う表情。剣士を愛し導く、尊く高貴な姫巫女の姿そのもののようだった。

『……ちびちゃん?』

 舞いながら、リィナはヴォルフに呼びかけられた気がした。まるで心が通じ合っているかのような感覚があった。ヴォルフがリィナの瞳を、問いかけるように見つめていた。

 その瞳を受けて、リィナは一層切なげに微笑んだ。

『さようなら、さようなら、ヴォルフ様……』

 リィナは、心の中で別れを告げる。

 姫巫女も、そうだったのだろうか。時の流れに翻弄され、剣士と別れるその時。こんな切なさを抱いたのだろうか。

 けれど姫巫女は良い。剣士とまた出会えるのだから。

 私とは違う。私はきっと、もう二度とヴォルフ様には会えないのだから。ヴォルフ様は私の剣士ではないのだから。


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