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「だーかーら、みんなで協力すれば出来るかもしれないでしょーが!
何やらないうちから諦めてんのさー。」
レイチェルはこれまで何度言ったか分からない言葉をまたも叫んだ。
叫んだついでに、口からブルークが作ってくれたクッキーのかけらが一緒に飛び出る。
「キタネー。」
といつものように突っこんでくるのは、レイチェルの兄弟子であるチェイ。
いつもと変わらず危機感をもっていない自分の兄弟子をキッと睨むレイチェル。
「自分だって、机の上にぼろぼろこぼしてんでしょーが!」
怒鳴ったついでに、またもクッキーが口から出てしまった。
「キタネー。」
ニヤニヤと笑いながら性懲りもなくからんでくるチェイから視線を外し、集会に出席した面々を見渡す。
前回より集まる人数かーなり減ったわね…。
前まではブルークと二人でしていた集会の準備も、いまではブルークだけで事足りるような状態になってきた。
「いっつも言っとるんじゃけどねー。みんなでない金出し合うて、連盟作ったってー。いまさら未来のかけらなんか買う人は増えんと思うんよー。」
第一回目の集会から参加しているメリッサは、毎回このようなことを言う。
このくそばばぁ!
話が進まん!
「私だって毎回毎回言ってるけど!やってみなきゃ分かんないだってば!
いつまでも堅いことばっか言ってるから時代においてかれるのよ。私が提案してる通り、みんなで資金を出し合って占い師同士で連盟をくんで、顧客を分け合う!
いわば会社よ。みんなで資金を出せあえば各地に小さい店舗だって開けると思うし。
だいだいメリッサが構えてる辺境になんか今時誰も来ないでしょう?」
メリッサは表情をひとつも変えずに続ける。
「でもねぇ、そうゆう事をしたら占いの価値が下がると思うんよねぇー。
誰にでもかけらを譲るとゆうことじゃろ?」
「違う違う。私が言いたいのは、みんなに占いを利用してもらう機会を増やそうってことよ。安売りしたいわけじゃない。」
前も説明したろ!
こうも毎回毎回堂々巡りだと、説明する気力も失せてくる。
最近、こいつらただでお茶会したいから集まってんじゃねーか?と本気で疑いを持ってきた。…たぶん私の推理は当たっている!
私の力説にもかかわらず、みんなお茶を飲んだりお菓子をつまんでばかりいる。
もうだめだ!これだけ言っても動かないってことは最早一筋の望みもなし!
「もういいや。私一人でやるから。
帰った帰った!」
もう爺婆なんてしーらね!
「ブルーク、みんなもう帰るから!」
ブルークを呼ぶと二階のほうからトントンッと階段を下りてきた。
「あらぁ、もう皆さんお帰りなの?」
ぞろぞろと扉に向かう爺婆たちを見ながら残念そうに言う。
「私、ひとつ占いを終えたらご一緒にお話をうかがおうと思っていたんですのにー。」
それを聞きとめたチェイが
「あーら、残念だねそりゃ。僕もご一緒したかったナー。」
とブルークの手を取ろうとしながら言う。
その手を美しく避けたブルーク。
「それで、お話はまとまりましたのー?」
「全っ然!交渉決裂だよ!
あの石頭どもめ。」
そう叫ぶと、まだ帰ろうとしないチェイがうはは、と他人事のように笑う。
「何なんだ!あんたも私の兄弟子ならちょっとぐらい肩もってくれたっていいのにさー!」
「いやー。アイデアはいいと思うんだけどねー。お金がないからねぇ、僕にも!
ホントは助けてあげたいんだよー?」
助ける気なんてないくせに、チェイのやつ。
「まぁまぁ、レイチェルはレイチェルで頑張ってみなよ。根本的なところで賛成してない人たちを無理やり君の組織の中にいれたって、あとから揉めるのは目に見えてるしー。」
師匠ならレイチェルに賛成したんだろうなー、と続けて小さくつぶやく。
「私、いつも聞きたいと思ってたんですー。お二人の師匠さんってどんな方だったんですか?」
大きな目をくりくりさせながら私とチェイの顔を交互に見ながら尋ねる。
「どんな人って…ねぇ?言葉じゃ言い表せないよね、レイチェル?」
ニヤニヤしながらこちらを見ながら言う。
「あの人のことはどーでもいい!
死後の世界でよろしくやってんでしょうよ、どうせ!」
あはは、とチェイが笑って続ける。
「確かにそうだろうねぇ。どこでも自分らしくやれる人だから。
才能だろうね、あれ。」
その才能を手にして、あの女のようになってしまうなら、その才能断固拒否だ!
「ふふふ。楽しいお方だったんですねー。なんだかそんな感じがしますわ。」
ブルークが口を隠しながら笑う。
「あ、分かった?」
「ええ。なんとなく。また今度お話きかせてくださいな、チェイさん。」
モチロン!と意気込むチェイを玄関に押しやる。
「じゃあね、兄さん。今度来るときは寄付金持ってきて。じゃないと家にいれないから!」
ええー、なにソレー!とわめくどうしようもない兄弟子を向こう側にバタンと閉じ込めた。
レイチェルに家から追い出されたチェイはすこしの間、その扉をぼーっと見つめたあと、自宅へ帰ろうと足を動かした。
「あーあ。昔はかわいい妹弟子だったのにナー。」
なんであんなサバサバした子になっちゃったんだろー。などぶつぶつ言いながら歩いていた。
「ふー、疲れた。」
扉をあけようとしたが、何がが扉の向こう側にあるようで開かなかった。
「ええっ、何これー?
家はいれないじゃーーん。」
「あー、だるいったらしょうがない!
占い師も世の末!あとで後悔するがいいわー。絶対成功させてやるからー!」
椅子にどかっと座ってブルークに零す。
「お姉さんなら出来ると信じてますわよー。私も出来る限りお力になりますからー。」
みんなが食べ散らかしていったクッキーやらお茶やらを片付けながらブルークが言う。あいつら、本当に全部食べつくしていったわね。クッキーのカスしか残ってやがらん!
「ありがとうね。私にも確信なんてものはないし…どうなるかは分からないんだけどー。こうなってくるとやるしかないし。」
はー、とため息をひとつ。
「まずは宣伝!新聞社に頼みたいんだけど、どのくらいかかるか知ってる?」
「新聞社ですかぁ…最低でも100パムはかかると思いますよー。」
100パム!!!
「ねぇねぇ、ブルーク。お願いがあるんだけどー?」
たっぷり裏を含んでいる声音で尋ねる。
「なんですかー?」
「あのさー、
お給料、もう一月待ってもらっていい?」
「……。またですの?」
「ゴメンッ!!」
ぱんっと両手を合わせて謝る。ああー、こんな私がこんないい子の師匠でいいのか?