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わたしの未来の夫はかなり有能な人物のようだ。

このフランクの物言いときたら…。なにが文人か!そんなに偉いのか文人って!


さっきからベラベラと、私は沈黙しているのをいいことに、上司の自慢をたれている。

この若者、はじめ見たときは、静かで疑り深そうな男、という印象をもったものだが、いまや上司を売り込むチャンス!といわんばかりの勢いで喋っている。

なんだと、異例の出世だと?学者たちの憧れの的だと?王からの信頼も厚いだと?


そんなこと私には関係ねーのよ!


なんて心の中で叫びつつ。


「はぁ、そうなんですねー。」とあいまいな相槌を打っておく。


「ええ!そうなんです!

ああ、すみません。色々しゃべってしまいまして…もちろんご存知でしたよね?」


なんと、嫌味のない言い方だろうか。

いや、私はご存知ではありませんよ。世間知らずなもんで。みんなにそれはよく言われるんですよー、とか言えないので


「あー、もちろんですよ。」と肯定。


「それで、新婦の方はどのような方でしたか?

見覚えなんてありませんか?著名な方でしょうか?」

新婦を知ることがこの取引の目的らしい。

ここで、はい!私が花嫁でしたよーなんて言ったらどうなるんだろう?イヤ、言わないけどね。


適当にごまかそう。

なーに、はなからこの男、占いなんて信じていないだろうよ!


「花嫁さんは見たことない方でしたよ。あまりはっきりは見えなかったんですが、どこにでもいそうな若い女の人でした。」

レイチェルはしれっと嘘をつく。

この商売、嘘を言ってナンボである。いや、そんなことは断じてないのだが、今回ばかり許されよう!


それを聞いたフランクははーっと小さくため息をつき、

「そうですか…。髪の色なんて見えなかったですか?」

と尋ねる。


「あー、茶色じゃないっすかね?そんな風に見えましたよ。」


それを聞いたフランクは少し不思議そうな顔をした。


な、何よ?

少しムッとして見返すと、こちらの表情に気づいたのか、すこしあわてて取り繕う。


「あの、いえ。実はこれで花嫁殿について占ってもらうのは7、8回目でして…。

そのすべての結果で、花嫁は黒髪だ、という結果だったのです。

茶色というのは確かでしょうか?」


いや、嘘です!黒でした!!

肩までぐらいの癖のある黒髪でした。てゆーか、私です!


「いやー、確かじゃないんですがねー。

うーん。なんとゆうか、占いとゆうのはですね…すべて確かじゃないとゆうか…。

統計が取れるってわけでもなくて…。」


なんだ、フランクめ!この占い師インチキじゃないか?って丸出しの目つきしやがって!


「いえ、すみません。茶色の可能性もあるということで…。」


なんだ、この感じ。

私が間違えたみたいな!!私の腕は確かですから!

ちゃんと黒髪って見えましたからね!嘘ついただけです…。


「えぇえぇ、その可能性もありますよー。」と笑顔でいっておく。


それにしても、なんでフランクは花嫁についてしらべてるんだ?

ふと気になってフランクに聞いてみると、微妙な顔をする。


「実は、ジャック殿が、先日29回目の誕生日を迎えられて、その祝賀会の席に占い師をひとりお呼びしたのです。」


「あ、おめでとうございます」


めでたいじゃないか、29歳なんて。さぞかし豪華だったことだろう。

誰が決めてそうなったのか、起源は知らないが、この国では9のつく誕生日に盛大なパーティーが開かれる。


私も19の誕生日のときに師匠にお祝いしてもらったのを覚えている。

初めて飲んだお酒はラム酒で、夜中に家の表で盛大に吐いてしまったのを鮮明に思い出した。

なぜあんな強い酒飲ませたんだ、師匠よ!

しかし、そのおかげか何故かは分からぬが、めっぽう酒には強くなり最近はペロリと飲んでしまい、ブルークに飲みすぎは毒ですよー、と幾度となく注意された。これで煙草も吸っているのだから最悪だ。自分でも将来が心配である。


「あ、ありがとうございます。」

照れたように礼をいうフランク。

いやいや、あんたにお祝い言ったわけじゃねーわ。あんたの上司にだよ!


なんとも、このフランクという男、よっぽどストーンとかいう上司を愛しているように見える。


話しを元にもどそうではないか!


「で、その占いの結果はどうだったんで?」


「その占い師は、ジャック殿が半年後に結婚するだろう、と言ったのです。

その花嫁はすべてに影響を与え、いつか何か大きなものを変えてしまうだろう、とも。」


うひゃひゃ、で、その花嫁が私ってオチなのか?

笑わせるんじゃねー!

私に何を変えろと?国か?はたまた世界の理か?


「その占い師、信用できる筋のものなんですか?

出鱈目いってる可能性だってあるのに。」


その占い師が確かな腕をもってるのは確かなんだろう。私も見たのだから。その男が結婚式をあげている未来を…私と。

それにしたって信じるのか?信じたのか、そのストーンは。

今時占いを信じるものなんていないのに!


「私は信じる必要はない、そう思ったんです。占いなんて昔用いられていた術ですし、信憑性なんてひとかけらも……ゴホン、失礼……」


聞き捨てならんぞ、そのせりふ!

占いが昔のものだと?信憑性がないだと!


私がそういう思いをこめながらじーっとフランクを見つめると、彼もそれを感じ取ったのか、失礼をわびた。


ふん、口先だけだろう、どうせ!


「で?」

続きをうながす。


「しかし、ジャック殿はそれを疑うことはせずに、私にその花嫁について調べるようお命じになりました。ジャック殿に、近々花嫁になるような近しい方はおられないそうで…。

この3ヶ月ちかくの間、私も調べまわったのですが、あまり手がかりは得られずに、最近はこのようにして占い師の方のところで尋ねて回っています。しかし、今回もまたあまり芳しくない結果に……。」


「はぁ、すみませんね。」

さらっと答える。


なんで私がストーンと結婚に至るのかは謎だが、いいさ。

占いだって絶対じゃない。私がこれから気をつけて生活していればストーンとやらと出会うこともないだろう。

未来は変えられるものだからな。師匠のところに弟子入りして、最初に教えられたことだった。

悪い事態を避けたいからこそ、人々は占い師から未来のかけらを買うのだと。

ただ単に何が起こるのか知りたいから、という理由でかけらを買うものはいないのだ。


「さぁて、このぐらいでよろしいですかね?これ以上続けても花嫁の正体に迫るかけらは見つけられそうにないので。」


さっさと切り上げよう。そして絶対安全な対策法を考える。ストーンに会わないための。

結婚なんてクソくらえだ、正直。

なんたって、私はまだ若いのよ!


「ええ、そうですね。ありがとうございました。

これ、お礼です。」


緑のつやつやした生地でできた財布。みっちりと膨らんでいるように見える。

おお、羽振りがいいねぇ、ストーン殿。

まだ出会ってもない花嫁のためにこんな大金はたくとは、どんなやつなんだろう?


「はい、確かに。まいどありー。」


フランクをドアまで見送る。

ドアまで行くまでに、フランクがじゅうたんの切れ目でつまずいたが、気づかなかったふりをしてあげた。心の中では笑ってやったけど。



「じゃあ、また占ってほしいことがあれば!」

別れ際にすこし売り込んでおく。

どうせ来ないでしょうがね!


フランクは丁寧にお辞儀をして帰っていった。

律儀だねぇー。


さぁーて。


「ブルーク!」

家の中に戻りつつ、大声で彼女をよぶ。


「今日は夜ご飯豪華にしよう!

久々に儲かった!」


おくからブルークが出てきて、

「あら、そんなに謝礼金いただけたんですの?

なにを占ってさしあげたんですか?」


「そうなのー。今日は運がよかったかも!

ただ近い未来を占ってあげただけだよ。あんまり価値のある答えは渡せなかったんだけど、それでも満足してくれたみたいだし。」


上機嫌で返す。

フランクが店にいたのはたった30分くらいだった。

その30分で200パムだと?

こんなにいい商売ほかにねぇ!


ブルークにそういうと、

「じゃあ、私にもこの3ヶ月ぶんのお給料、払っていただけますね?」

にこっと笑いながら、言われる。


「も、もちろん!月80だから…えっと200ぐらい?」

「240パムですわよ、お姉さん。」


計算は苦手なのである。

30分のレイチェルのいんちきは、3ヶ月ぶんのブルークの頑張りに劣るようだ。


「ごめん、やっぱ今日のご飯、いっつも通りね。」とレイチェル。



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