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この先どうなるのかなんて誰にも分からない。

だから、人々はいつも不安で、様々なものを疑いながら生きている。

不安なゆえに、未来を知りたがる。

その希望に応えるのが私たちの仕事だ。未来のかけらを読み取り、売る。

私たちの示す未来を信じるものもいれば、信じないものもいる。

信じるものたちは私たちを敬うが、信じないのもたちは私たちと信者を蔑む。

私たちと信者は依存しあいながら生きてきた。

信者がいなくなれば、私たちは仕事をなくし、居場所をも失くす。

私たちを失えば、信者たちは未来に潰される。

その信者たちも段々と減ってきたこの頃。

今度は私たちが未来を憂う番となってきた。


この先、どうやって食っていくよ?



「おはようございます。」

朝起きてダイニングルームへ向かうと、いつも通り先に起きているブルークが私に声をかける。

「ねぇ、聞いてくださいよ、お姉さん。私今朝早く公園に散歩に行ってきたんですけどね、誰に会ったと思います?」

ブルークはパタパタと手を上下に振りながら話す。


「えぇ?誰よ?」

なんとなく答えは予想が付くが、話を続けさせる。


「ルイスですよ!もう私びっくりしちゃいましたよ、お姉さんあれ以来あの女にお会いになられた?」

ああ、ルイス。この子が手を振りながら興奮気味に話すときは気に入らない女の話に決まってる。


レイチェルは首を振りながら答える。

「いいや、会ってないねぇ。あの子がこの家を出て行って、それきり。」


「あの女、ちょっと痩せたみたいでしたわよ。ろくに食べれてないんじゃないかしら。」

そう言いながらたっぷりとバターを塗ったトーストをほおばる。

「なんであの女急に出て行く気になったのかしら?占い以外あの女にできることがありまして?」


ブルークはズズっと紅茶をすすり、立ち上がる。

「じゃあ、私午後の集まりのためのお菓子、いろいろ買ってきますね。」

ブルークはスカートに落ちたトーストのかけらを払いながら言った。


「あー、ちょっと待ったブルーク。今日何の日か覚えてる?」

そう言うと、ブルークはこちらを見上げ、はて?というように首をかしげている。

すこしの間考え、「ごめんなさい、何の日でしたか?」


ごそごそとポケットを探り、私はブルークに小さな包みを差し出した。

「気に入ってくれるといいけど。」


昨日の夜、がんばって飾った包み。

「今日はブルークがこの家に入ってちょうど1年目。忘れてた?」

ブルークは綺麗なブルーの目を見開いて、両手でうけとる。

「まぁ、お姉さんたら。私、すっかり忘れてましたわ。えぇ、確かにそうですわ、今日で1年でしたね。

開けてよろしい?」

私が頷くと、ぺりぺりと包みをはがし始める。


「あ、らぁ!」

気にいった?


「お姉さん!」

気に入った?


「なんて綺麗なの。すてきですわ。」


「気に入った?」

彼女に尋ねると、「もちろんですわ!ありがとうございます、お姉さん。」と何度も頷きながら答える。


彼女に贈ったのは石がひとつ付いた細い腕飾り。

「この石、お姉さんが作られたものでしょう?」

「うん、そう。ブルーク、前ひとつ欲しいって言ってたから、この機会にと思って。」

「とっても綺麗ですわ。」

ブルークは手につけたものを目の上で光にかざしながら見つめている。


「できる限り身に着けているといいよ、占いをたすけてくれるはずだから。」

「えぇ、もちろん外したくありませんわ。お姉さんが作られた石の力はすごいって評判ですもの。」



笑顔で出かけていったブルークを見送り、ふぅとイスに座る。

気に入ってくれたみたいでよかったぁ…

あールイス。元気にしてんのかなぁ?痩せたって言ってたな…

どうやって食ってんだろ?なんで占い師やめたくなったんだろ?

まぁ気持ちがわかんないでもないけどさぁー

今時流行んないしねぇ…



「……ぅわっ」

肩をつかまれる感覚に眠りから呼び起こされ、目の前にいるブルークに驚く。

「な、何?寝てたね、私。」

にこにこと笑うブルークにわたわたと口元をぬぐいながら言う。


「えぇ、ぐっすりと。ごめんなさいな、起こしちゃって。お姉さんにお客様ですわ。

私が帰ってくるまで、ずっと扉の前で待たれてたみたいですわ。」


客…何日ぶりだろ。


ブルークは私の耳元に口を近づけ、「若い殿方ですわよ!」と小さな声で囁く。

若い殿方…そう表される人が占い師のところに寄り付くなんて、今時聞かない。

ブルークが玄関のほうに向かって呼びかける。

「どうぞ!お入りになってくださいな!」

「うわっ、ちょっと待ってよ。よだれついてない?」

'若い殿方'に醜態を見せるわけにもいかない。


「大丈夫ですわ、いつも通りお綺麗ですわよ。」

ふふふ、と笑いながら「じゃあ、私はキッチンで集会の準備をしておきますので。」とブルーク。

「あー、おっけー。」



ブルークは扉のところにたっていた例の客人にすれ違いざまに「ゆっくりなさってくださいな。」

と丁寧に声をかけ、キッチンへと消えていった。

ブルークを目で追ったあと、始めて客人の顔を見た。

あぁ、なるほどね。ブルークの言う通り、'若い殿方'だ。

ほかになんていうんだろう?好青年…って言うほど少年めいていないしねぇ。

少し、気まずい沈黙。あぁ、こんなんじゃだめだ、とすぐに気づき、客人に席をすすめる。


「どうぞ、座ってください。あー、ごめんなさい、外で待たせてたみたいで。」

「いえ、お気になさらず。」

声は特別高くもなく、低くもなく。標準。'若い殿方'らしい声である。

すっとイスを引き、すとんと座る。


「あー。私はレイチェルといいます。

で、えーと、ここの店長で、ブルーク、あの女の子の師匠でもあります。」


まずは自己紹介からですよね?


「私はフランクといいます。いきなり押しかけてきてすみません。

今日伺ったのは、ある人の未来を占って欲しいからなんです。お願いできますか?」

「えぇ!もちろんです。どういった内容の未来をご所望で?」


そのぐらいなら簡単簡単。さぁ、占ってやろうじゃないか。


「ちょうど3ヶ月後の今日の未来です。私の…上司が何をしているのかを知りたいんです。できますか?」


「3ヵ月後ね、その日って絶対その上司の方と一緒にいます?いれば、簡単なんですけど。」


「はい!必ず一緒にいるはずです。」


「なら話は簡単ね、今からあなたの未来を見ます。一緒にいるならそれだけで大丈夫。

その方の外見を教えてくださいます?」


「えぇ、えーと、背は私より少し高くて、黒い髪の毛です。目の色は少し灰色がかった青ですね。

あとは…」


「ああ、それだけあれば十分ですよ。少し、お手を拝借。」

レイチェルはフランクの手をとり、軽く握った。

ふーん。背が高くて、黒髪、ブルーグレーの瞳ー…


フランクは自分の手をとり、目をつむって何かぶつぶついっている占い師を不思議そうに見つめていた。

今、この占い師は自分の未来を見ているのか?

占いを信じているものが少なくなってきたこの時代、占いといえば貴族の間で誕生日に行われる余興の一つになっていた。

結果自体にはこだわらず、雰囲気だけを買うのだ。


人々の声。花束。白いドレス。豪華な食事。誓いのキス?


「あー、こりゃ結婚式だね。」

「やはりそうですか!その新郎の顔は見えますか?」


新郎の顔ー?

あー、目が回る。こいつか?違う。新婦の隣、となり。


いた。

「黒髪でぇー、えーと、顔見えないなあ…結構豪華な服着てますねぇ。どっかの貴族っぽいですよ。」

「その人が私の上司です!新婦の顔は見えますか?そこを一番知りたいんですが。」

「新婦、新婦……。」


どこだー、見失っちゃった。

白いドレス、ドレス。


「あー、黒髪でー。背は低いほうですねぇ。…………んんん?」


あれ?この新婦って…


「どんな方でしょうか?ほかになにか特徴はありますか?」


んんん?この女ってさぁ、


フランクの心配そうな声が聞こえる。

「占い師様?」

ぱちっと目を開くと少しぼやけたフランクの顔。


「あのー。もしよかったら教えてほしいんですが、」

かすんだ視界をクリアにしようと、目をパチパチさせながら言う。

「なんでしょうか?」

「あなたの上司って、どこのどなた?」


3ヵ月後の、


「ああ、たぶんあなたもご存知の方ですよ。」


私の、


「国家付きの文人であられる、ジャック・ストーン殿です。」


3ヵ月後の、私の、夫、ジャック・ストーン。

誰だ、お前?私、ご存知じゃありませんが。

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