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成人式③ 同窓会

 美空が見えなくなると、拓海は1度深呼吸をする。直後に、美空と連絡先を交換していないことに気が付いたが、どうせ明日会えるしいいか、とその件は後回しにした。


 しばらくすると、拓海の後ろから彼を呼ぶ声がした。あたりに響くような声、光太郎だった。

彼は1人の男と肩を組んで拓海の元へ向かう。連れの男は、光太郎より1回り小さい体格で、髪の側面は刈り上げられてスッキリとしていた。


「ひょっとして田崎か?」


「ああ、そうだ。中学校以来、久しぶりだな」


 田崎はサッカー部で数か月だけ同じではあったが、クラスは3年間一緒であった。彼の陽気さは今でも残っていた。


 そんな彼を追いかけるように、後ろからもう1人の男が来た。黒縁の眼鏡をかけて真面目な風貌のその男に、初めは拓海も気が付かなかった。その男が田崎と肩を組んだ瞬間、中学校時代の面影を感じて思い出した。


「倉石か。雰囲気が変わりすぎてわからなかったぞ」


「何だよ。そんなに驚いてないじゃないか。久しぶり」


 光太郎、田崎、倉石の3人は、中学校のときのようにやんちゃにつるみだした。そして光太郎は拓海を誘う。


「これから同窓会まで暇なんだよな。俺たちは駅前のカフェで時間を潰そうと思う。拓海はどうする? 一緒に来ないか?」


「僕は一旦帰るよ。スーツも着替えたいし」


「そうか。じゃあ、あとでな」


 拓海は3人に手を振って西の駅の方へ向かって行った。



 久方ぶりに実家に帰省すると、母は温かく出迎えてくれた。家の香りは懐かしく、自分の部屋に入ると、埃の臭いが初めにツンときたが、すぐに懐かしさに溺れてベッドに蹲った。


 このあとは中学校の同窓会がある。しかし拓海は明日美空と会うことを一番の楽しみにしていた。


 思えば美空と2人きりで話すのは、中学校のとき、唐原に筆箱を届けてほしいと言われて以来。拓海は彼女に謝りたいだけなのに、何故かワクワクとしていた。


 拓海は1時間昼寝をすると、スーツを着替えて部屋のクローゼットに残っていたジーパンとセーターを着こんだ。そして、家を出て同窓会へ向かう。



 駅へ向かう道は、小中学校の通学路と同じ。拓海は道中のT字路に着くと、そのT字の軸に位置する、駐車場も4台しか入らないような小さい居酒屋を見た。色褪せた看板には楷書で『富田』と書かれている。


(明日ここで美空と会うのか……)


 拓海は懐かしさと期待に胸を馳せた。


 しばらく歩くと、両隣には美登小学校と中学校が見える。拓海たちを作り上げた思い出の箱庭。今も児童、生徒の活気は校庭や校舎に刻みつけられているが、拓海がいた頃の痕跡は残っていなかった。


 拓海は歩みを進めると、駅の西口の道路脇に10階建てビルが1棟あり、そこの前は人混みで少々ざわついていた。


 人口の少ない美登市を裏で支配しているかのように大きく聳え立つビル、その4階にある居酒屋を貸し切って同窓会は行われる。ビルの前には既に幾人の同級生がおり、その中には光太郎、田崎、倉石もいた。


「やぁ。みんな待っていてくれたんだ」


 光太郎は、当然だろ、と即答した。


 同級生たちが佇むせいで、通行人を妨げてしまっている。拓海はその状況に嫌気が差すと、他3人と共にビルの内部へ入る。エレベーターは少々込み入っていたため、彼らは階段で居酒屋まで昇って行った。


 時刻は午後5時50分。店内に入ると、店全体の仕切りは取り払われていて、テーブル席が4列に並べられていた。80人まで貸し切れる居酒屋で、幹事によれば参加者は65人だそうだ。


 拓海は入店してすぐあることに気が付いた。


(唐原の姿がどこにもない。あいつ、本当に来ないのかな)


 1日を通して唐原は1度も見なかった。もっとも、拓海は唐原の姿など見たくもなく、中学時代に拓海が怒鳴って絶縁を宣言したのを未だに守っている。


 そう考えると、拓海は心の底から嬉しがった。今後金輪際、唐原に会わなくて済むし、明日美空と会うときも唐原の陰を気にせずに済むからだ。


 席の座り場に困っていると、光太郎が先導して、入り口から1番遠い角の席へ向かった。


 とりあえず右端から倉石、田崎、光太郎、拓海の順で座る。拓海は田崎、倉石と話そうと思えば話せるが、如何せん気まずいため、間に光太郎が挟まってくれるのを内心有難がった。


 席は全然埋まっておらず、同級生たちが揃うまで彼らは暇を持て余していた。その間、彼らは近況話で盛り上がった。


 拓海は都内の大学に通い、光太郎は消防学校で寮生活をしている。

 田崎は警察学校に通い、そこで寮生活を行っている。規律は厳しいからこそ、髪の毛もきれいに整えられているのだな、と拓海は納得した。

 倉石は隣町の役場で職員をやっている。


 話を聞けば、拓海以外は皆公務員としての道を歩んでいた。他の人は普段から必死に汗水たらしているのに、1人だけ学生で将来に関してどこか呑気な拓海は、彼らとの常識にずれが生じそうで怖がった。


 同窓会が始まる直前、席はおおむね埋まってきたが、拓海たちの向かいの席は未だに空いていた。そんな中、拓海の向かいの席に1人の女性が座る。座ってしばらくしてから拓海は気が付いた。


「菅野さんか。菅野亜季だよね?」


「そうだよ。お久しぶり」


 彼女はかつて眼鏡をかけていたが、今はコンタクトレンズに変わっていたため、初めは誰かわからなかった。もっとも、拓海と亜季の面識は1年ほどしかなく、ほぼないようなものであった。


 拓海は亜季と言葉を交わす。


「あまり話したことないのもそうだけど、見た目変わりすぎじゃない?」


「目元が変わればイメージも大分変わるでしょうね。眼鏡が煩わしくなっちゃってさ」


 眼鏡を外すようになった亜季に対し、眼鏡をつけるようになった倉石は、亜季に反論した。


「あのなぁ、目の中にモノを入れる方が煩わしいだろ。眼鏡なんていつでも取り外しできるんだからよっぽど便利じゃないか」


「あのねえ。これは個人的なことだけど、わたしは眼鏡ばかりつけてきたから、自分イコール眼鏡、と思われたくなかったの」


「別に思われても良くねえか?」


「嫌だね」


 2人が口論になりそうだった空気を、拓海は傍から笑いながら見守った。2人はお酒も飲んでいるわけでもないのに、気分は妙に高まっている。


 宴会が始まると、テーブルにはコース料理が続々と運ばれた。前菜のサラダを食べながら、皆は過去の思い出を振り返る。5人は小学校から同じ。美空ともそれなりに付き合いはあり、亜季のふとした言葉で話題は美空のことに移った。


「そういえば美空ちゃんって来ないのね」


 拓海は硬直すると口に含んだモノを飲み込んだ。話の雰囲気はしんみりとした方向に傾きだす。


 亜季は続けた。


「拓海君、どれくらい覚えている? わたしたちが小学6年生だったときのこと」


「うーんと、言われれば大体思い出せるぐらいかな」


「唐原っていたじゃん。わたし、あいつが苦手で、あいつの対処を全部拓海君に押し付けちゃって。それを今になって後悔している。わたしがもっとあいつをコテンパンにできたら、美空ちゃんに救いの手を差し伸べられたなら、美空ちゃんは不登校にならなかったと思うの」


 亜季は後悔を吐露した。経緯は違えど、美空を救いたかったし救えた、という考えは拓海と同様に持ち合わせていた。美空が不登校になった原因の一端を拓海が担っていることは、彼の心の中で永久に塞いだ。


 拓海は話を繋げるように素朴な疑問を呈した。


「美空が不登校になったこと、知っていたんだね」


「ええ、わたしはクラスが違ったけど、噂はあっという間に広がっていったよ。根拠があるのかもわからない憶測で、会ったこともないであろう人たちに叩かれていたのは、わたしも見ていて辛かった」


 亜季は俯いた。その態度には自身の未熟だった過去を拭い去ろうとしてもできない辛さが表れている。


 拓海と亜季は、見て見ぬふりをしてきた後悔で喉を詰まらせる。


 暗い空気感を無理矢理明るくするために、拓海は緑茶を、他の4人はビールを流し込む。なみなみと注がれていたジョッキは一瞬の内に空になった。ぶはぁ、と喉が潤されると、倉石が思い出に更け始めた。


「懐かしいよな。サッカー部の部室で拓海が激怒したこと」


「やめてくれよ、恥ずかしい。あれは本当に迷惑過ぎて今でも申し訳なかったと思うよ」


 倉石を振り払おうとする拓海をフォローするように、田崎が付け加えた。


「お前は知らなかっただろうけど、唐原はあの後、サッカー部をやめたんだよ」


「えっ? そうなの?」


 拓海は思わず緑茶のジョッキにかけた手を止めた。


「本当だよ。拓海がいなくなって部内のどこにも居場所がなかったんだろうな。あいつの中に占める拓海の割合は相当大きかったと思うよ」


「そうか……」


(それなら美空にソフトボールを復帰してほしかったな。だけれどそんなものは僕のエゴでしかないのか……)


 拓海は緑茶を一杯流し込んだ。田崎は続ける。


「それにしても拓海は自我が強いよな。サッカー部を退部してから本当に唐原と喋らなくなっちゃったし」


 フォローになっているのか、いないのか、絶妙にわからない言葉を拓海は右から左に流した。



 同窓会はここから2時間は続いたが、拓海は同テーブルの4人としか話さず、出された食事を適当に食べて、ジョッキの緑茶を何杯も飲んだ。あまりにも高頻度で飲むものだから、トイレに行く頻度もその分多くなった。


 同窓会は終わった。実際は同窓会とは名ばかりのただの飲み会だったのだが、久しぶりに亜季に会い、美空に対する後悔を共有できたことは、拓海にとって僅かにプラスに働いた。


 会計を席で済ませると、5人はビルの前で解散した。


 明日はいよいよ美空と2人で話す。明日が真打だとしたら、今日の同窓会は所詮前座でしかない。


 美空へのカウントダウンは刻一刻と迫っている。時計の秒針を刻むように拓海の心臓の鼓動も刻まれる。


 しかし彼は心なしか時間の流れが早くなったように感じていた。成人式も同窓会もあっという間、このまま明日なんて飛ぶように過ぎ去ってしまう。美空と邂逅するまでの無限とも思えた時間に着々と終わりが見え始める。


 それが嬉しいようで、寂しくもあった。

最終章に入りました。残り3話です!

最後まで応援よろしくお願いいたします!

気に入っていただけましたら、ブックマーク、ポイント、感想、SNSでの拡散等もよろしくお願いいたします!



三峰勾洋

X:@mitsu_kooyoo

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