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6・やっと見つけた

 それはきっと他の令嬢も、同じ感想を抱いただろう。

 みんなは息を呑み、一言も発せられないようであった。


 太陽の光をそのまま押し込めたような、光る金髪。

 切れ長の瞳は色気を漂わせ、見る者は彼の魔性の魅力に囚われる。

 冷たい印象もあるが、その表情は凛々しく、気品に満ちていた。名乗らずとも、彼が高貴な人であることが一目で分かる。



 ──キレイ。



 男性に言うには不適格かもしれないが、私は自然とそういう言葉が頭に浮かんだ。


 たとえ王城のこの場でなくとも、彼を前にすれば、世の女性たちは一歩も動けなくなるだろう。

 誰一人腰が抜けて、気を失わなかっただけでも褒められるんじゃないか。そう思うくらいに、キレイな男の人であった。


「俺がライナス・フェルディアだ」


 彼──ライナス殿下が端的にそう告げる。

 その眼差しは冷たいもので、鳥肌が立った。

 彼は品定めするように私たちを眺めるだけで、愛想といったものは一切持ち合わせていなかった。


『選定の儀』とは、具体的になにをするんだろう?

 両親には『行け』と言われただけで、他にはなにも聞いていなんだけど……。


 そう思っていると、他の三人の令嬢はこぞって声を上げ始める。


「ライナス殿下! どうか、わたくしをお選びください!」

「いえ、殿下にふさわしいのはこの私! 私の手をお取りください」

「私の実家は商売を営んでいます。王族の方々には負けますが、資産なら多く保有しておるのです! ですから、他の二人ではなく、この私を!」


 さっきまではみんな、婚約者に選ばれるのが嫌そうだったのに……。

 豹変したかのように私が私が、と前に出る。


 しかし、彼女たちの反応も仕方がないかもしれない。


 ライナス殿下を一目見て、分かった。

 彼は男性の頂点に君臨するのだと。

 一瞬でそう評価が覆るほど、ライナス殿下からは独特の色気を感じた。


「…………」


 しかし、ライナス殿下は一言も発しない。

 声を上げ続ける令嬢たちを、ただ黙って眺めていた。

 その瞳には失望の色すら浮かんでいるように思えた。


「ライナス殿下!」


 いてもたってもいられなくなったのか。

 一人の令嬢がさらに一歩踏み出し、ライナス殿下に近寄ろうとした。

 その際、勢いが強すぎたためか、肘が私に当たってしまう。いけない……と思うが、私は無惨にもそのまま転倒してしまった。


「私です! この私! 殿下にふさわしいのは、この私ですわ!」


 しかし、彼女は私を一瞥すらしない。

 私を転ばせたことに気付いていないのか、ぐいぐいと前に出る。



 やっぱり、私はこの場にふさわしくないんだ──。



 まるで、この場にいないかのように扱われ、涙が込み上げてくる。


 私はここにいる令嬢たちに比べて、キレイじゃない。

 本来なら公爵令嬢として豪奢なドレスを着させてもらっているはずが、それもない。

 ライナス殿下を前にして、他の令嬢たちのように声を上げることも出来ない。

 ライナス殿下の美しさは認めるものの、ただただ彼のことが怖くなって、俯くしか出来ない。


 私は……このまま誰からも求められず、一生を終える。

 この『選定の儀』が終わっても、私には帰るべき場所はない。実家にはもう戻ってくるなと言われているからだ。

 捨てられた令嬢には、お似合いの末路であろう。



 トン、トン──。



 立ち上がることすら出来ず、泣かないように堪えていると、またあの足音が聞こえる。

 そして足音は、私の前まで来て止まった。


「…………」


 見上げると、ライナス殿下の顔がある。

 彼はただ黙って、私を見下ろしていた。


 こ、殺される……っ!?


 どうしてそんな感想を抱いたのか分からないが、彼の氷のような冷たい眼差しを受けていると、ふとそう思ってしまった。


 蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていると、次にライナス殿下は意外な行動に出た。


「大丈夫か?」


 そう言って、ライナス殿下は私に手を差し出す。

 後ろでは令嬢たちがなにやら騒いでいるが、まるで遠い景色のように感じた。


「は、はい……すみません」


 恐る恐る、そう口にする。

 だが、ライナス殿下は手を差し出したまま、引っ込めたりしない。


 これって、手を掴め……ってことだよね?


 私は導かれるように、ライナス殿下に手を伸ばす。

 不思議と先ほどまで抱いていた恐怖はなくなっていた。


 そして、ライナス殿下の手を握ると──。


「……っ!」


 彼が目を見張った。


 手を掴んだまま私を引き上げようともせず、その場で静止する。


「ライナス……殿下?」


 どうして彼が固まっているのか分からず、私は疑問を発する。


「……見つけた」


 すると、ライナス殿下はぽつりとそう呟く。


「見つけた……とは?」

「この日を長らく待ち望んでいた。君で間違いない」


 え? ──と思ったのも束の間、彼は私から手を離し、その場で屈む。

 一体、なにが起こっているの?


 そう思うが、なんとライナス殿下はそのまま両手を伸ばし、私を抱きかかえたのだ。

 所謂、『お嬢様抱っこ』である。



「やっと見つけた、俺の愛する人」



 私を抱きかけたライナス殿下は、そう口にする。


「『選定の儀』はこれで終わりだ。そしてそれは、今日だけという話ではない。未来永劫、俺のために『選定の儀』が行われることはないだろう」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 ライナス殿下の告げた言葉に、令嬢たちが抗議の声を上げる。


「まだ始まって、五分も経っていないですわよ!?」

「そうです! それに俺の愛する人……って、まさかその醜い女ですか?」

「彼女をよく見てください! 私たちと比べて、とても貧相な姿をしてします! 殿下の勘違いですわ!」

「黙れ」


 令嬢たちの声を、ライナス殿下は一蹴する。


「人を転ばせても、手を差し伸べることすら出来ない。ただ、自分のことしか考えていない貴様らより、彼女は美しい。自らの醜さを反省し、二度と俺の前に姿を現すな」


 有無を言わせぬ言葉。

 ライナス殿下が厳しい眼差しを向けると、令嬢たちはそれ以上言葉を発することが出来なくなった。


 次にライナス殿下は私に視線を戻し。


「大丈夫だったか? 痛いところはないか?」

「は、はい。おかげさまで……」


 と声を絞り出す。


 すると、ライナス殿下は先ほど令嬢たちに向けた視線が嘘かのように、穏やかな目で、


「よかった……君に万が一があっては、俺はきっと罪の意識に耐えられなくなる。だが、もうなにも恐れる必要はない。これから、俺が君のことを一生守り続けるから」


 そう言って、私に笑いかけた。


 ああ……もうダメ。

 目眩が……。

 寝不足と緊張。そして、ライナス殿下の色気にあてられて頭がくらくらする。


 それでも──私を抱きかかえるライナス殿下を見上げながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

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