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22・二人の反省

「本当にすまなかった……! 俺の我儘で、君から目を離すべきではなかった!」


 王城に帰って。

 ライナス殿下は深く頭を下げて、私に謝罪をしてきた。


「で、殿下っ! 頭をお上げください!」


 慌てて、私はそれを制する。


「道中でも、何度も謝ってくれたじゃないですか。それに、ライナス殿下が悪いわけではありません」

「だが……」

「全て、私が悪いんです」


 シルヴィアに上着を渡せと言われようとも、私が強く言い返せばよかった。

 それによって、彼女をさらに激昂させてしまうけれど、自分の意思を伝えるべきだったのだ。


 ライナス殿下と婚約して、私は随分変わったと思うけれど、やっぱり家族の呪縛からは逃げられない。

 シルヴィアを前にしたら、体が動かなくなってしまう。


 私が情けないだけなのに、この国の第一王子ともあろう方が頭を下げるなんて……耐えられなかった。


「私なら、気にしていません。()()あることですから。だから殿下は、どうかお気になさらず……」

「…………」


 私が言うと、ライナス殿下がじっと見つめ、なにかを悩むような仕草を見せた。


 え、どうして?


 そう思ったのも束の間、ライナス殿下はこう口を開いた。



「君は、家族からどういう扱いを受けていたんだ?」



「……っ!」


 咄嗟に答えを返せない。


 本当のことを言えば、両親やシルヴィアが報復に出るかもしれない。

 そうすれば、ライナス殿下にも迷惑をかけてしまう。

 だから、私は実家での扱いを隠すことにした。


 しかし、今日のシルヴィアの一件を見て、さすがにライナス殿下も怪しんだだろう。

 シルヴィアは『ただ話したかっただけ』と言っていたけど、とてもそう見えなかっただろうしね。


 でも。


「……そうですね。私は『無能』ですから。妹からは嫌われていましたが、普通の家族だったかと」


 ライナス殿下に心配や迷惑をかけたくなかったから、私はそう説明してしまった。


 それを聞いて、ライナス殿下はしばらく黙り込み、私を見つめる。

 彼に見つめられているとそのキレイな瞳に吸い込まれそうで、さらになにも言えなくなった。


「……そうか」


 追及があると思ったが、意外にもライナス殿下はあっさりと引き下がり。


「君は……家族を大切にするんだな」

「はい。血が繋がっていますから」


 私が両親やシルヴィアになにも言い返せないのは、怖いのもあるけれど、いつか家族に認められたいという気持ちがあるからかもしれない。


 生まれてから、ずっと誰かに認められる経験がなかった。

 愛されるなんて、もってのほかだ。


 だから、ライナス殿下は私のことを『好き』と言ってくれるけれど、まだその愛を真っ直ぐ受け止められないでいる。


「優しい子だ。分かった……そう言うなら、俺も君からこれ以上問い詰めたりはしない」


 とライナス殿下は表情を柔らかくする。


「今日は疲れただろう? ミレーユの手伝いをしなくてもいいから、ゆっくりと休んでくれ」

「分かりました」

「あっ、そうそう──」


 別れ際、ライナス殿下は私の頬にそっと手を当てる。


 なに……?


 ライナス殿下の行動の意図が読めず戸惑っていると、彼はそのままゆっくりと顔を近付け、私の首元に口づけを落としたのだ。


「──っ!」


 言葉を失う。


 それは一瞬のことだった。


 だけど、ライナス殿下の温かさが直に伝わってきて、頭の中が真っ白になってしまう。

 息遣いも感じ取れ、彼と一体になったかのようだ。


「今日のデートは中途半端な形で終わってしまった。日を改めて、また行こう。今度は行けなかった、お気に入りの喫茶店に行きたい」


 ライナス殿下はゆっくりと顔を離し、そう言い残して、私の前から去ってしまった。


「ライナス……殿下」


 首元に手を当てて、彼の名前を呟く。


 まだ、先ほどの感覚が残っている。

 今まで、男性経験なんて皆無だった。だから首元にキスなんて、大したことがないかもしれないけど……未だに心臓がバクバクする。

 今までで、一番嬉しかったかもしれない。


「……っ! いけない。こんな顔、恥ずかしくて誰にも見せられない。私も部屋に帰ろう」


 慌てて踵を返して、駆け足で自室に戻るのであった。




 ──夜。


「そういえば……私、謝ってばかりだ」


 自室で一人、枕を抱きながら私は今日一日を振り返っていた。


 謝ることは、私なりの処世術だったかもしれない。

 あの家では非があろうがなかろうが、すぐに謝らないと生きていない場所だったから。


 だから──今日のデートも私は謝りっぱなしで、ライナス殿下にただ一言、『楽しかった』と伝えられなかった。


 ただでさえ、シルヴィアとの一件で迷惑をかけてしまったのだ。

 優しい彼は気に病んでいるはず。


「……うん。やっぱり、伝えにいこう」


 決心して、私は自室を出る。


 伝えたいことは、そんなにない。

 ただ、『今日は楽しかったです。ありがとうございました』と言うだけでいいのだ。


 夜の城内は人も少なくて、途中通りかかった騎士や使用人から不思議そうな視線を向けられたが、無事にライナス殿下の自室まで辿り着けた。


「殿下、私です。アリシアです。先ほど、伝え忘れていたことがありました。少し、お時間よろしいですか?」


 …………。


 だが、返事はない。


「どうしたんだろう?」


 もしかして、中にいない? 他に心当たりがあるとするなら、執務室とか?


 諦めて帰ろうとしたが、何故だか胸騒ぎがした。ゆっくりとドアノブに握ると鍵がかかっておらず、簡単に開いてしまった。


 電気が点けられておらず、中は薄暗い。


「やっぱり、いない──」


 そう言いかけて踵を返そうとした瞬間。

 苦しそうな顔をして、ベッドで横になるライナス殿下が目に入った。

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