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21・私の婚約者と妹

「そこでなにをしている!」



 辺りに怒号が響き渡る。


 視線を後ろに向けると──買い物を終えたライナス殿下が紙包みを持って、シルヴィアを射抜くように睨んでいた。


「ラ、ライナス殿下っ!? どうして、ここに!?」


 これにはさすがのシルヴィアも、動揺する。

 右手に待っていた炎の粒子もすっと消え、彼女は少し後ずさった。


「アリシアとのデート中だ。婚約者とデートしていて、なにがおかしい?」

「デ、デート……? ()()ライナス殿下が?」


 ますますシルヴィアが困惑する。


 彼女はライナス殿下のことを、残虐非道で冷酷な王子だと思っている。

 そして私も実家と同じく、使用人同然の扱いをされているものだと。


 なのに、婚約者とデートをしていたことが理解出来なかったのだろう。シルヴィアがわなわなと震えた。


「君は……アリシアの妹、シルヴィアだな」


 しかし、シルヴィアとは対照的にライナス殿下は顔に怒りを滲ませ、私を守るように彼女の前に立ち塞がった。


「どうして、貴様がここにいる」

「……っ! あら、大したことではありません。久しぶりに()()()を見かけたものだから、少し話をしようと思っただけですわ」

「ほお、魔力を迸らせて? 先ほど一瞬、魔法を使おうとしたな。それで、貴様はアリシアになにをしようとしていた?」


 ライナス殿下の言葉に、シルヴィアがハッとする。


 私じゃなきゃ気付かないくらい、一瞬の間だったけど……やっぱり、ライナス殿下には分かっていたのだ。

 二の句を継げないシルヴィアを、ライナス殿下はなにも言わずに観察していた。


「……反論はなしか。まあ、下手な反論だったら逆効果だったから、賢い判断だがな。しかし──」


 続けてライナス殿下は手をかざす。


「俺には、君がアリシアを傷つけようとしていたように見えた。大切な婚約者に手を上げる者を、俺は決して許さない。報いを受けてもらう」


 すると、ライナス殿下の周りの氷の華が浮かぶ。

 氷魔法だ。


 確か、ライナス殿下は魔法の中でも『氷』が得意だと言っていた。

 彼には以前、火傷の跡を治してもらったが……その時とは比べものにならないくらいに、魔力が熱を帯びているような感覚がした。


 それこそ、シルヴィアの炎魔法なんて子どもの戯れだったかのように。


「ひっ……!」


 ライナス殿下の魔法を前にして、シルヴィアの顔が恐怖で歪む。

 足がすくんでしまっているのだろう。彼女は手で顔を覆い隠すだけで、反抗しようとしなかった。


 だけど。


「ラ、ライナス殿下! 人が集まってきています!」


 叫んで、周りに視線を移す。


 そこには、騒ぎを聞きつけてか街の人々が集まってきていた。直接手を下そうとはしないが、遠巻きからライナス殿下を眺める。

 彼らの瞳には、恐怖の色が濃く浮かんでいた。


「ちっ……」


 そのことにはライナス殿下も気付いたのか、彼が手を下ろすと、顕現していた氷の華も消えた。


「失せろ。そして、アリシアの前に二度とその面を見せるな。万が一、また彼女に危害を加えようとしたら……どうなるか分かっているな?」

「す、すみませんでした!」


 シルヴィアはくるりと身を翻して、私たちから走り去っていく。

 彼女のあんな惨めな姿を見るのは初めてだ。


 あっという間に離れていき、シルヴィアの姿が見えなくなったところで、ライナス殿下は警戒を解いた。


「アリシア、大丈夫だったか?」

「は、はい。殿下が助けにきてくれたので……なにもされていません」


 言葉の刃でぐさぐさ刺されたけど……なにせ、シルヴィアに何度も手を上げられた経験があるのだ。怪我をしていないで御の字とも言える。


 周りは先ほどの出来事によって、騒然としている。

 近くの者とヒソヒソと話をし、先ほどの平和な街並みの光景が様変わりしていた。


「……今日は帰ろうか。これでは、楽しくデートを再開するというわけにもいかないだろうに」

「そ、そうですね」


 どうしよう……ライナス殿下に迷惑をかけてしまった。

 ライナス殿下は、私が実家で受けている扱いを知らないはず。

 それなのに、妹を怒らせるなんて、私はなにかやったんだ……と不審がってもおかしくない。せっかく上手くいっていたのに……私のせいだ。


 俯いている私を、ライナス殿下は心配そうに眺めていた。

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