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20・シルヴィア再び

 名前を呼ばれて、咄嗟に振り返る。


 すると、そこには──豪華な服に身を包んだシルヴィアが立っていた。


「シルヴィア……!」


 どうして、ここにシルヴィアが?


 いや、彼女の買い物好きは今に始まったことじゃない。よく使用人も連れず、こうして街をぶらつくことも珍しくなかった。


 頭の中がグルグル回る。思考が一つにまとまらない。


()()()()()? あんた、偉くなったもんね。私の名前を呼ぶなんて」


 シルヴィアに敵意を向けられて、体がぶるっと震える。


「まあ、今はそんなことより──奇遇ね。こんなところで『無能』と会うなんて」


 続けて一歩、前に踏み出すシルヴィア。

 彼女が近付いてきても、蛇に睨まれた蛙のように私はその場から動けなくなってしまっていた。


「聞いたわよ。あんた、『選定の儀』で選ばれたそうね。それで、ライナス殿下の婚約者になったって」

「それは……」

「まさか、あんたが選ばれるなんてね。一体、どんな手を使ったのかしら。色目でも使ったんじゃない?」


 もっとも──とシルヴィアは嘲笑い、口元を持っていた扇子で隠しながらこう言う。


「そんな貧相な体じゃ、色仕掛けも考えにくいけどね。それとも、ライナス殿下は()()な趣味なのかしら? 悪趣味だわあ」

「……っ!」


 私のことはいい。

 しかし、ライナス殿下のことをバカにされるのは許せなかった。


 とはいえ、私はなにも反論できない。

 実家にいる頃に、彼女からは嫌というほど上下関係を叩き込まれているからだ。


 沈黙する私を、シルヴィアは不満そうな目で見る。苛々しているのか、足で地面をトントンを叩いていた。


「まあいいわ」


 だが、激昂することもなく、シルヴィアはこう続ける。


「あんたが、ライナス殿下と婚約して、お父様とお母様も喜んでる。王族と結びつきが強くなったら、ルネヴァン家の格も上がるしね。婚礼金もたくさんもらったし」

「それは……よかったです」

「そうよ。あんたが身代わりになってくれて、私たちは万々歳。最後に役に立ってくれたじゃない。いい子、いい子」


 ふふふ、とほくそ笑むシルヴィア。


 もしかして……褒められた?

 役に立ってくれた、なんて今まで一度も言われなかったしね。


 だけど一転。

 シルヴィアはすっと表情をなくして、


「……なーんて、言うと思った? 勘違いしないで」


 さらにまた一歩と、私に接近するシルヴィア。


「あんた、ライナス殿下に見初められて、調子に乗ってるんじゃない? 私はまだ、婚約者もいないしね。私より上になった……って」

「そんなことは……」

「私は、男なんて選び放題だから、まだ婚約者を選んでないだけよ。ちょっとキレイな洋服を着させてもらっただけで、調子に乗って……」


 そう言って、シルヴィアは私が肩からかけている上着に気が付いたのか、「あら」と声を発する。


「それ……男ものの上着よね。どうして、あんたが着てるのよ」

「こ、これは……ライナス殿下のものでして……」

「ライナス殿下? なんで、あんたが? それに仮にも王子殿下の婚約者が一人で街にいて……ああ、そういうことね」


 ニヤリと笑うシルヴィア。


「お使い中だったかしら? ライナス殿下は、残虐非道で冷酷なお方。笑顔が多くなった……って噂も聞いたけど、嘘だったんでしょう。婚約者に対しても容赦せず、あんたは城内でも使用人同然の扱いを受けている」

「ち、違います! これは……」

「口答えしないで」


 シルヴィアはぴしゃりと言い放つ。


「問題は、どうして殿下の上着なんか身につけてるってことだけど……なんにせよ、気に入らないわね」


 とシルヴィアは手を差し出す。


「それ、私にちょうだい」

「え……?」

「それは、あんたにふさわしいものじゃない。私が代わりに着てあげる。殿下には、暴漢に盗られたとでも伝えればいいでしょ? 間抜けなあんたのことだから、と殿下も納得してくれるはずだわ」


 手を引っ込めないシルヴィア。

 彼女の顔を見ていたら、実家にいる頃を思い出す。


 虐げられて。

 たまに中庭に咲いているキレイな花を摘んで宝物にしようとしても、全てシルヴィアに取られた。


 反抗は許されない。

 そんなことをしても、シルヴィアの怒りをかうだけだからだ。

 ライナス殿下の婚約者になろうとも、彼女との関係は変わらないだろう。


 でも……。



 ──渡したくない。



 だってこれは、ライナス殿下のものだもの。


 シルヴィアに取られないよう、上着をぎゅっと握る。


「なによ、その反抗的な目」


 すると。

 シルヴィアの顔が怒りで歪んだ。


「あんた、随分反抗的になったわね? しばらく家から離れて、自分の立場を忘れた? しょうがないわ。久しぶりに躾けてあげましょう──」


 そう言って、シルヴィアがさっと手を上げる。

 彼女の手を中心に、炎の粒子が舞った。


 ──炎魔法。


 彼女が癇癪を起こしたら、よくあることだ。


 私は咄嗟に目を瞑り、それでもライナス殿下の上着だけは守ろうとさらに強く握り──。



「そこでなにをしている!」

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