19・寒がりな私と、賑やかな街並み
しばらく市場を回って、ようやく編み物の材料が集まった。
「満足したか?」
「はい……! これで満足のいく服が作れそうです!」
ライナス殿下の問いかけに、私は声を弾ませる。
途中、ライナス殿下がお金を出そうとしてくれたが、全て断った。
だって、彼へのプレゼントなんだからね。
彼が出してくれたお金で編み物を作っても、なんか違う気がしたのだ。
「どんな服を作ってくれるつもりなんだ?」
「それは秘密です。ですが、今から腕が鳴ります……! 殿下も、楽しみにお待ちくださいね!」
「ああ、期待しておくよ」
と柔らかい笑みを浮かべるライナス殿下。
やっぱり、彼は優しい。
冷酷な王子だなんて評判が嘘のよう。
最初は緊張していたが、ライナス殿下と市場を回るだけで胸が弾む自分がいることに気付いた。
この時が永遠に続けばいいのに……そう思ったが、編み物の材料も集め終わったのだ。
ふと、これでデートが終わりかと寂しくなった。
「あとは、お城に帰るだけでしょうか?」
「いや……せっかくだから、ランチを食べていこう。リュカとよく行く喫茶店があるんだ」
リュカさん……ライナス殿下の従者だ。
「少し子どもっぽく思うかもしれないが、俺はそこのオムライスが好物でな。君にも食べてほしい」
「ぜひ、お願いします! 殿下の好きなもの、私も食べてみたいです!」
「よかった。じゃあ、行こうか──っと、ランチにはまだ早い時間だな。その前に、少し俺の用事を済ませてもいいか?」
「……? もちろん、いいですけど」
ライナス殿下の用事?
そういえば、彼も彼で『買いたいものがある』と言っていた気がする。なんだろう?
ライナス殿下の後を付いていき、辿り着いたのは雑貨屋らしき店の前だった。
「ここですか?」
「うむ」
ライナス殿下が頷く。
「悪いが……ここから先は、一人で行きたい。店の前で、少し待ってくれるか? すぐに戻るから」
「わ、分かりました……?」
ますます気になる。
だけど尋ねたりもせず、店の中へ消えていくライナス殿下を見送ろうとすると──不意に鼻がむずむずした。
「くしゅんっ」
「寒いのか?」
くしゃみをした私を、心配そうに眺めるライナス殿下。
「は、はい。今日は少し肌寒くて……我慢出来ないほどではないので、どうかお気になさらず」
「そういうわけにもいかないだろう。君が風邪を引いたら大変だ。そうだな……」
少し考え込む素振りを見せたライナス殿下だったが、やがて自分の上着に手をかけ、そのまま脱ぐ。
え? どうして、上着を?
そう思ったのも束の間、彼は脱いだ上着を、私の肩に優しくかけてくれたのだ。
「これで少しはマシになったか?」
「は、はい! とても温かくなりました。なんなら、ちょっと暑いくらいです」
「よかった」
安心したように胸を撫で下ろすライナス殿下。
その後、彼は足早に店内に入っていった。
私をあまり待たせてはいけないと思っているのだろう。殿下の気を遣わせてしまうことに、申し訳なさを感じたり。
「ライナス殿下……」
上着の端を握りながら、私はそう呟く。
上着には、まだほんのりと彼の温かみが残っていた。
こうしているだけで、彼がすぐ隣にいてくれるようで、自然とほっとした。
「本当に楽しい……実家にいる頃からは、考えられないくらい」
妹の代わりに『選定の儀』に臨めと言われた時は、奈落の底に落とされたような絶望を感じた。
しかし、今はそうじゃない。
まさかライナス殿下に選ばれるとも思っていなかったし、いざ婚約者になってみれば、彼は私のことを大切にしてくれる。
時に少々過剰すぎる溺愛っぷりだけど、そういうところも好ましく感じた。
こんな気持ちは初めてだ。
「私……幸せになってもいいのかな。殿下と──」
そう独り言を呟いた時だった。
「──あんた、なんでこんなところにいるのよ」
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