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14・一方のルネヴァン家(シルヴィア視点)

 一方、その頃──。


 アリシアの実家であるルネヴァン家では、予想だにしていなかった吉報に湧き立っていた。



「ガハハ! まさか、アリシアがあの残虐非道で冷酷な王子に選ばれるとはな! なにが起こるか、分からないものだ!」



 ルネヴァン家の当主、ギルベール・ルネヴァンが高笑いを上げる。


 彼の前のグラスには、なみなみとワインが注がれている。一本で庶民の家が建つと言われるほどの高級な酒だ。


「本当ねえ。まさか、あの『無能』がライナス殿下に選ばれるなんて。捨てた娘が、最後に役に立ってくれたわ」


 ギルベールと同じテーブルにつく母イザベルも、上機嫌だ。

 二人はアリシアのことを考えながら、数々の絶品な料理に舌鼓を打っている。


 しかし──両親の一方、アリシアの妹シルヴィアの表情は浮かないものであった。


(今まで、多くの令嬢がライナス殿下に振られた。だからてっきり、アリシアもそれと同じ道を歩むことになると思ってたけど……)


『選定の儀』で、アリシアがライナス殿下の婚約者に選ばれた。


 その報せは、アリシアが王城に向かった日の夜に、王城の騎士によってもたらされた。

 同時に現在、アリシアは体調を崩しており、すぐに実家に帰ることが出来ない。殿下と婚約したら、王妃教育のためにもしばらく王城に住みこんでもらう……ということも。


 それに対して、シルヴィアの両親は両手を上げて喜んだ。


 当然だ。いかにライナスの評判が悪くても、彼がこの国の第一王子であることには変わりない。

 次期国王という地盤は揺るぎそうにもないし、そうなったらアリシアは王妃となる。

 王妃を輩出したルネヴァン家が、いかに貴族社会でさらに力を持つのか──シルヴィアだって、それは理解していた。


「でも……気になるわね」


 高価なワインをガバガバと飲む父ギルベールに向かって、シルヴィアはこう問いを紡ぐ。


「どうして、あの『無能』が選ばれたのかしら? 殿下はアリシアが『無能』であることを承知しているの?」

「さあな、知らないんじゃないか? だが、婚約は正式に結ばれた。今さら、そう簡単に婚約破棄は出来ん」


 ギルベールは楽観視している。母のイザベルも似たようなものだ。


 だが、シルヴィアはとても納得出来なかった。


(なにか裏がありそうな気がするわ……だって、なに一つ長所を持たない子なのよ? 公爵家の令嬢ではあるけど、貴族としての所作も身につけていない。なのに、ライナス殿下が彼女に惹かれる理由なんてないはずよ)


 アリシアはいつも自分の影に隠れているような人間だった。


 貴族でありながら、魔力を持たない『無能』。

 この国にとって、『無能』は恥だ。

 だから両親はアリシアを極力表に出さず、使用人として扱っていた。


 そして、両親の態度はシルヴィアにも伝播した。


 幼い頃から、自分がちょっと大きい声を出したらビクッと震えるアリシアは、愉快で仕方がなかった。

 どんな罵詈雑言を浴びせても、アリシアはシルヴィアに反抗しない。無駄だと悟っているからだろう。


(私がアリシアに劣っているところなんて、なに一つない。そうよ……なにも焦る必要はない。どうせ今頃、王城でコキ使われているに違いないわ)


 なにせ、相手はライナス殿下。

 残虐非道な行いによって、今まで令嬢だけでなく、数々の人間を泣かせてきた王子だという。

 そんな王子が婚約者が出来たからといって、態度を一変させるはずがない。


 今頃、アリシアは苦しい思いをしているだろう。

 貴族としての所作も身につけていないから、城内の人間から眉を顰められ……常にライナスの冷たい目線に晒される。


 そう考えると、シルヴィアは心の奥がすーっと軽くなった気がした。



 だが──ギルベールの次の言葉によって、シルヴィアの心に再び暗雲がかかる。



「そういえば知ってるか? ライナス殿下は、アリシアと婚約してから笑顔が多くなったようだぞ」


 え──。

 予想だにしていなかったことに、シルヴィアの思考が一瞬停止する。


「ええ、昨日に婚礼金を持ってきた騎士が言っていたわね」


 イザベルも答える。


 アリシアとライナスが婚約を結んだことによって、ルネヴァン家に婚礼金がもたらされることになっていた。

 その額は決して少なくない。公爵令嬢として贅沢な生活を送っているシルヴィアも、思わず目を見張るほどだった。


 たかが婚礼金でそうなのだ。

 もし、婚約がスムーズに進み、アリシアがライナスと正式に結婚した場合──婚礼金がバカらしく思えるほど、多額の支度金が舞い込むだろう。

 ギルベールが機嫌よく高いワインをバカスカ空けているのには、そういう理由もある。


「今まで、臣下には笑顔すら見せなかった王子。だが、アリシアの前だと人が変わったようによく笑うという」

「一体、どうしてかしらねえ? まあ、殿下の態度が柔らかくなったら、私たちにとって都合がいいのだけれど」

「その通りだ。可能性は低いが、婚約破棄をされたら全てがパーだからな。少なくとも、アリシアが殿下の不興をかっていないのなら安心だ」


 そう言って、ギルベールがさらにワインを飲む。


(笑顔が多くなった……? なんで……)


 アリシアがライナスに選ばれたとしても、所詮相手は冷酷な王子。

 どうせ辛い目に遭っているんだろう……と心の安定を保っていが、これでは話が違うじゃないか!


(私はまだ婚約者もいないっていうのに、アリシアばっかが上手くいって……そんなの、私は許さない)


 両親に見えないように、シルヴィアはスカートの端をぎゅっと握った。

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