12・治癒魔法
「ごちそうさまでした。本当にありがとうございます」
ランチの後。
お城の散歩を再開して、私は歩きながらライナス殿下にお礼を言う。
「礼なんて言う必要ないんだ。君は俺の婚約者。嫌でも、毎日あのような食事を取ってもらうんだから」
と苦笑するライナス殿下。
スープやパン、サラダだけでも大満足なのに、その後にフルーツタルトも出た。
もう食べられないと思っていたが、『スイーツは別腹』とはよく言ったもので、ぺろりと完食してしまった。
「腹は一杯になったか?」
「はい! お腹一杯です! 夢のような時間でした!」
顔の前で拳をぎゅっと握る。
ライナス殿下はそんな私を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「よし。まだまだ城内は広い。今日一日で全て回るつもりではないが……少し、休憩しようか?」
「いえいえ、せっかくお腹一杯になったんです。体力も万全ですし、今日で出来る限り回りましょう」
「分かった」
頷くライナス殿下。
「ですが……さすがに少々暑くなってきましたね」
どちらかというと、私は暑さに強い。
反面、寒さには滅法弱かった。
だから、今の私はドレスの上から薄手のケープを羽織っているが……若干、中が汗ばんでいるのに気付いた。
ケープを脱ぎ右腕にかけるようにして持つと、涼しい風が肌に直接当たり、とても心地よかった。
「そのケープ、俺が代わりに持とう」
「殿下に持たせるなんて、とんでもありませんよ。私はこれで十分です。では、行きましょう──」
と歩き出そうとした瞬間だった。
「待て」
急にライナス殿下に腕を掴まれ、呼び止められる。
「殿下……?」
「その肩の火傷はどうした」
彼の言葉を聞き、私はハッとして自分の右肩を見る。
なんてこと……。
昨日、シルヴィアに火魔法を当てられ、火傷の跡が残っていたことを思い出した。
今まではケープで隠れていたわけだが、もう誤魔化しは効かない。
ライナス殿下は、私の右肩に刻まれている火傷の跡を痛々しそうに見ていた。
「昔から……というわけでもないな。最近出来た跡だ」
「こ、これは……」
悩み、私は咄嗟にこう言葉を紡ぐ。
「じ、実は実家で魔導暖炉を移動させている際に、つい倒してしまって……。あっ、でも、大したことはありませんよ。痛みも感じません」
「この火傷の跡で? 百歩譲って痛みを感じていなくても、跡は残る。君のキレイな肌にあってはならないものだ」
私の言葉に納得してくれなかったのか、ライナス殿下が首を横に振る。
「失礼する」
続けてライナス殿下はそう言い、私の右肩に軽く手を当てる。
「どうされるおつもりですか?」
「今から、君の火傷の跡を治す。ピリピリとした感覚がすると思うが、少し我慢してくれ」
ライナス殿下がそう口にすると、彼の掌から淡い青色をした光が灯った。
キレイ──。
見ているだけで、安心するような光だ。
やがて青い光は、私の右肩に浸透していく。火傷の跡がだんだん小さくなったかと思うと、次の瞬間には完全になくなっていた。
「終わった」
そう言って、ライナス殿下は私から手を離す。
「痛みはなかったか?」
「は、はい。あまり慣れない感覚はしましたが、痛みほどというわけでは……もしや、魔法を使ってくださったんですか?」
「ああ」
ライナス殿下が頷く。
魔法──一瞬のことすぎて、すぐには分からなかった。
シルヴィアの魔法はよく見ていたが、彼女は相手を傷つける魔法。それに目にするだけで、心が不安になるような魔力だ。
対して、ライナス殿下の魔力は逆。
治療が終わった後も、彼に触れられたというドキドキは残ったが、シルヴィアの時に感じていたような不安は一切ない。
「す、すごい……! やはり、魔法というのは素晴らしいものですね。『無能』の私としては羨ましいです」
「これくらい、大したことではない。俺の得意魔法は『氷』だが、簡単な治癒なら出来るんだ。それにしても……」
「はい?」
ライナス殿下がじーっと見つめてきて、私は首をひねる。
「君は先ほどから、自分のことを『無能』だと卑下しているな」
「実際そうですから」
「この国が魔法を中心として動いている以上、君がそう考えるのも仕方がないだろう。だが、すぐにとは言わない。今後、自分を『無能』だと卑下するのはなるべくやめろ。『無能』という言葉は、君を縛りつける」
断定するライナス殿下。
自分を卑下……どうなんだろう?
物心ついた時から、両親からは蔑まれ、『無能』なせいでシルヴィアには姉だとも思われていなかったのだ。
自分を低く見積もるのは至極当然の思考で、それが今まで間違っていたと思ったことはない。
とはいえ。
「分かりました。努力いたします」
ライナス殿下直々のご命令だ。私に首を横に振る権利はない。
頷くと、強張っていた彼の表情が柔らかくなった。
やっぱり、彼はこういう顔をしている方が似合っている。
「それでは、今度こそ行こうか。君に見てほしいところは、まだまだたくさんある」
とライナス殿下は歩き出し、私は慌てて彼の後に付いていくのであった。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!




