第8話 護衛
セシリア視点
サウザー様が浴室へと入っていったことを確認したわたくしはお父様の執務室へと足を運んだ。
「おや、どうしたのかい?」
「……お父様、例の件につきまして、異議を申し立てますわ」
ソファに腰掛け、本題を切り出す。その要件とは、サウザー様に護衛を付けるといったもので、わたくしはメイフラワー家から派遣するのかと思っていたのに、なんとお父様は在野の冒険者を雇うと決めてしまった。
「一体何が不満なんだ。彼女の身元は把握しているし、何より腕は確かだ。」
確かに、騎士との模擬戦をこの目で見て、実力があるのは理解している。しかし、わたくしにはどうしても受け入れられない理由があった。それは—―
「だって、護衛する理由が”一目惚れ”ですのよ!そのような者に任せられませんわ!」
力強く主張すると、お父様は天を仰いだ。
*****
サウザー視点
メイフラワー家の邸宅に引っ越した翌日、すがすがしい朝を迎えた。早朝でまだ使用人たちも起きていないようなので、身支度を整え外に出る。外には夜勤の騎士が眠そうに眼をこすり、宿舎へと戻るのが見えたので、彼らに会釈しつつ、僕はランニングを始めた。
一歩進む度涼しい風を受け、心地よく走っていると、木の上からメキメキと枝が軋む音が聞こえた。
上を見上げると、真っ黒な鳥が枝に掴まり眠っていた。野鳥にしては大きいな、と思いつつ視線を外し走り去る――
バキッ!
一体何事だと振り返ると、黒鳥の止まった枝が根本からへし折れ、落下していった。浮遊感に目を覚ました黒鳥は、慌てて翼をパタパタと動かすが、落下速度は変わらない。僕は慌てて落下地点に飛び込み、そのまま地面にぶつかる寸前でキャッチした。
「危なかった~。大丈夫だったか?」
「カアッ!」
僕が抱えているのにも関わらず、暴れることなく返す。
よく見ると、足が3本あるし、顔の右半分には炎みたいな模様が描いてある。明らかに普通じゃないが、魔物の一種だろうか?
考え込んでいると、立ち上がった僕の肩に飛び乗ってきた。今の一件で懐いたようで、3本の足を折りたたみ二度寝を始めた。
…にしても警戒心がなさすぎる。誰かのペットだとしてもここまでリラックスしないだろう。気持ちよさそうに眠るのを起こさないように、慎重に引き返した。
「おはようございますわ」
「おはよう、セシリア」
新しい自室に戻ろうとした時、セシリアとバッタリ鉢合わせる。一瞬、肩に視線を動かしたが、何事もなかったようにリビングへと降りて行った。
用意された豪華な朝食を平らげ、ティータイムに突入した際、メイフラワー公爵が話を切り出す。
「朝食は口に合ったかな?」
「はい、美味しかったです!」
「それはよかった。…ところで、婿殿には護衛がついていないように見えるが、何故だ?」
「ああ、なんか妊娠したとかで外れまして。そのまま補充もされてないですね」
(替えの者がいないというのは妙だな…)
「…やはりそうか。さすがに困るだろうと思い、私の方で雇わせてもらった。外出の際は彼女を連れていくといい」
彼の目線は僕の肩で眠り続けている黒鳥へと向いていた。……これが僕の護衛?頭に疑問符を浮かべていると、突如目を覚ました黒鳥が僕の正面に飛び立ち、ボワン!と音を立てて煙幕が発生した。
――煙が晴れた先には、顔の右半分を覆う黒い髪に、同じ色の一対の翼の生えた大柄な女性がいた。
「Bランク冒険者、ヤタガラスだ。今日からよろしく!」
「……。あ、ああ、よろしく」
鳥が人に――『魔族』へと姿を変えたことに驚きを隠せず、おっかなびっくり返事する。
僕の護衛についた魔族の女性は、数日前冒険者ギルドで僕を助けた人物だった。




