第5話 冒険者ギルドの洗礼
買い物を済ませて解散した次の日、僕は変装して王都に繰り出していた。古着屋で買った衣服を乱雑に着崩し、顔に切り傷をつけ目つきを鋭くすれば、誰も僕が第二王子サウザーだとは気づかないだろう。
あと、僕の手には傷がなくきれいだから、誤魔化すために包帯を巻いておく。
しばらく歩くと、剣と盾を掲げた看板を掲げた3階建ての建築物が見えてきた。
あれが僕の目的地――冒険者ギルドだ。
僕がここに来た理由は、冒険者に登録することでもらえる『ステータスカード』という所有するスキルやパラメーターが表示されるというアイテムを手に入れるためだ。
建物の中には、依頼を受けようとする冒険者が受付に並んでいた。早速冒険者として登録するため、窓口に向かう。
せっかくだし、口調も荒っぽくするか。
「なあ、冒険者の登録って今出来るか?」
「冒険者ギルドにようこそ。新規登録の方ですね。でしたら、こちらにお名前や特技を記入してください」
受付嬢が提示した紙に記入……待てよ?さすがに本名で登録したらマズいか。
だったら、適当に偽名を考えるか。髪の色から連想して――
「確認します。お名前がカキツバタ様、特技が早寝早起き、ですね。では登録料として銀貨2枚をお支払いください」
というわけで、僕の冒険者名はカキツバタに決まった。確か紫色の花だったので、見た目にマッチしているだろう。この国には自生してないけど。
その後、ステータスカード作成のために血液を提供するよう言われたので、針を指に刺し四角の台座に血を落とす。すると、血に触れた台座が光を放ち、やがて収束する。光が収まった先には、一枚のカードが生成されており、受付嬢から手渡された。
「これが……ステータスカード」
「以上で登録完了です。カードに触れて『ステータスオープン』と唱えると、詳細な情報が閲覧できるので、有効に活用してください。」
よし…これで目的達成だ。冒険者研修なるものがあるらしいが、今は必要ない。さっさと帰ってステータスを確かめなければ――
「よお兄ちゃん、面貸してくれや」
建物を出ようとすると、皮の鎧を纏ったガラの悪い男が入り口をふさぐように立ち止まり、絡んできた。
「……俺になんか用か?」
「お前、いかにも金持ちのボンボンって感じだな。なあ、ちょっとばかし分けてくれよ」
ニヤニヤ笑い通せんぼする。後ろに逃げようとしたが、冒険者の仲間が取り囲んでしまい身動きが取れなくなった。
こいつらは新人に対する思いやりはないのか…
「悪いけど、登録料しか持ってきてねえんだわ。残念だったな――
ドゴッ!
「かはっ……!」
言葉を吐き終える前に鈍い音が響き、天井の明かりが目に入る。一瞬何が起きたかわからなかったが、頬に奔る痛みと口に広がる血の味が現実へと引き戻す。
「くだらねえ嘘つくなよ。って、まじで持ってねえじゃん」
「こいつボコボコにすりゃあ親がすっ飛んでくるんじゃね?」
「ギャハハハ!違いねえ!」
それから、3人の冒険者から暴行を受け続けた。拳が体を打つたびに呻き、それに興奮して下卑た笑い声をエントランスに響かせる。
……まさか白昼堂々リンチにあうとは想像もしなかった。周囲の人間もヤジを飛ばしたり傍観したりするだけで誰も止めなてはくれない。
やり返そうとしても、長年外に出ることを避けてきた貧弱な体では、パンチを繰り出すことすらできない。このまま地獄のような時間が永遠に続くのかとさえ思えた。
「――おい、道を開けろ」
入り口の方から声が聞こえる。上等な装備に身の丈程の大鎌を背負った黒髪の女性がチンピラ達がふさぐ正面口から入ってきた。その女性は真っ直ぐ受付に向かうため、僕を取り囲むチンピラ達を横切る。
「へへへ……すいやせんね、おい、ずらかるぞ!」
先程までの威勢はどこに行ったのか、チンピラ達は蜘蛛の子を散らすように去っていった。彼女はつまらなさそうに鼻を鳴らし、床に倒れてる僕へと視線を向けた。
「災難だったな。立てるか?」
「……平気だ。助かった」
手を差し伸べてきたが、僕は自力で立ち上がった。……でなきゃの王子の名が廃る。
動けることを確認すると、彼女は僕から目線を外し受付へと向かっていった。
思わぬ形で助けられた。…必ず強くなって恩を返す、と誓いを立て、冒険者ギルドを後にした。




