第3話 初めての魔法
サウザーの記憶を整理していると、セシリアが戻ってきた。小柄な彼女が両手にトレイを持ってせっせと運ぶ姿は、見ていて癒される。
「お待たせしました。こちら、特盛フルーツサンドですわ」
「ありがとう。……ん?」
トレイの上のコップを見ると、中には何も入っていなかった。ここが王城内の僕の寝室なら、近くに給水の魔道具があったはずだけど……
「申し訳ございません。魔道具の点検中でしたの。サウザー様なら魔法で出せると思いまして……」
「確かに。教えてくれてありがとね」
彼女の言う通り、僕の適性は水属性。転生前のサウザーは、魔法の練習に力を入れていたから、いくつか魔法を習得している。
記憶をたどりながら、コップに手を掲げる。体内の魔力を練っていくと、魔法を使う感覚が研ぎ澄まされた。
『宙に揺蕩う水の精よ…球を成して顕現せよ。〈ウォーターボール〉』
詠唱を終えると、指先から水の球体が現れた。それをコップの真下に移動させ、落とす。制御を失った魔法はただの水に変化し、コップを満たす。飲んでみると、乾いた喉がしっかり潤った。
やはり、体の持ち主の記憶があるのは便利だ。なんの知識もなしに異世界に放り込まれるよりよっぽどいい。オリジナルサウザーの置き土産、有効に使わせていただく。
二杯目を同じように満たしていると、イスに座ったセシリアがそわそわしていた。視線の先には、手を付けてないサンドイッチがあった。
おっと、こっちも忘れずに食べないと。
「いただきます」
ホイップクリームと果物がこぼれそうなくらい盛られたそれは、ちょっとのズレで崩れてしまいそうだ。丁寧に持ってほおばると、ガツンとした甘さが口に広がった。
「……うん、美味しい」
「本当ですの⁉」
僕がポツリと感想を口にすると、セシリアは目を輝かせて喜んでくれた。笑顔がまぶしいと思う反面、僕って元々甘いものがそこまで好きじゃなかったはず、という疑問が生まれた。
これも体が変わったからだろうか?
胃もたれすることなくあっという間に平らげ、元気を取り戻した。
「ごちそうさまでした。用意してくれてありがとね」
「お口に合って良かったですわ。もう”毒”が抜けたみたいで安心しました」
……毒、それで倒れたところをセシリアが治癒魔法で治したってことか。彼女がいなければ間違いなく手遅れになっていただろう。
「でも、お元気そうで何よりですわ。犯人と思わしきメイドは既に拘束済みですので、ご安心くださいな」
マジか、仕事が早いな。
これ以上危険はないとわかった途端、安心感とともに眠気が襲ってきた。
まだ体力が戻っていないのだろう、ここは睡魔に身を任せ眠りにつくとしよう。
「ふわあ……すまない。少し寝てもいいかい?」
「わかりましたわ。ゆっくり休んでくださいね」
布団をかぶり、目を閉じると、瞬く間に意識が闇へと落ちていった。




