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猫の円卓会議  作者: waka
猫の円卓会議
9/23

クロの受難

 町内には――

「言ったことが必ず当たる」

 そんな驚くべき力を持った猫がいるという噂があった。


 麟はその話を、星夜から聞いていた。


「麟ねーちゃん!聞いて聞いて!」


 いつものように屋敷の庭で遊んでいた星夜が、興奮気味に駆け寄ってくる。


「え?どうしたの星夜、そんなに急いで」


「この町にね、なんでも当てちゃう猫がいるんだって!予言者ってやつ!」


 その小さな体を躍動させながら、キラキラとした目で話し出した。


「へぇ〜、そんな猫がいるの?面白そうね。一度会ってみたいな〜。クロ、知ってる?」


 麟が隣にいた黒猫に目を向けると、クロは頷いて答えた。


「はい、存じております。町外れに住んでおられる“占い屋のチイさん”です。鋭い勘と観察力で、過去も未来も言い当てるとか」


「おお〜ますます気になる!行ってみようよ!」


「ぼくも行くー!」


 麟と星夜の勢いに押されるように、クロは小さくため息をつきながら「では、参りましょう」と歩き出した。





 町外れの小道を抜け、古びた茶屋のような建物の前にたどり着くと、ちょうど暖簾が風に揺れていた。


「ここです。失礼して……チイさん、ご在宅ですか?」


 クロが声をかけると、障子の奥からかすかな声が返ってきた。


「入っておいで、来るのは分かってたよ」


 麟と星夜は目を合わせて、顔を見合わせた。


「ほんとに予言者だ……」


 中に入ると、薄暗い空間の真ん中に、白髪交じりの長毛猫が座っていた。目は細く、しかし鋭い光を放っている。


「いらっしゃい、麟さんに星夜くん、そして……あぁ、クロか。なるほどなるほど、今日は“運命のさざ波”が強く揺れてるわけだ」


「運命のさざ波……?」


 麟がきょとんとして聞き返すと、チイはにやりと笑った。


「まぁ、ちょっとした波紋さ。さて、今日は誰の未来を見てほしいんだい?」


「クロお兄ちゃんの未来が見たいな〜」


 星夜が無邪気に言い放つ。

 クロは思わず「えっ」と声を上げた。


「いえ、わたしは特に……」


「見てほしい!」


 麟と星夜の視線を受け、観念したようにクロは座り込む。

 チイは目を細め、しばらくクロをじっと見つめた後、静かに告げた。


「ふむ……クロ、お前さんには“女難の相”が出ているよ」


「……えっ」


「しかもかなり強いのがね。今後しばらく、お前さんは“女”に関わって色々な苦労を背負うことになる」


「じょ、女難……ですか……」


 クロの顔が一瞬で青ざめた。その横で、麟と星夜は笑いをこらえきれず肩を震わせている。


「やっぱクロお兄ちゃんってモテモテだったんだね!」


 星夜の素直な一言が追い打ちとなる。


「ちょ、ちょっと星夜、それは誤解を生む発言ですよ……!」


 横でくすくす笑う二人を、クロは苦々しい顔でじっと見ていた。

 そんな中、ふと麟が二人を見比べて首をかしげる。


「ねぇ、よく見たら……あなた達、なんだか似てるわね」


「へ?」


「もしかしてだけど……星夜って、クロの子供だったりして?」


「ちょ、ちょっとやめてくださいよ! そんな覚えは全くありませんからね!」


 クロが慌てて否定するが、星夜が調子に乗ってぱっと顔を輝かせる。


「えっ!? クロが僕のパパなの!?」


「違います、違いますったら!!」


 クロは半泣きになってうなだれた。


「ふふ、冗談よ冗談。星夜もこの辺にしといてあげなさい」


「はーい。クロおにーちゃん、ごめんなさい〜」


 そんな和やかなやりとりが続くなかチイ宅を後にする一行、予言の話しに盛り上がりながら帰り道屋敷が見えて来た、その時だった。


「クーローさーま〜っ!!どこですの〜?クロさま〜!!」


 どこかで聞いたような高い声が、屋敷の方からこちらへ近づいてくる。


「ま、まさか……」


 クロの耳がぴくりと動いた。


 次の瞬間、屋敷の門が勢いよく開き、一匹の猫が飛び込んできた。

 金色の毛並みに鮮やかなピンクのリボンをつけた猫――隣町からやってきた鈴音すずねだった。


「はぁ、はぁ……間に合いましたわ……やっとお会いできましたの、クロ様っ……!」


 その美しい顔立ちは怒りで染まり、まるで嵐のような勢いでクロに詰め寄った。

「クロ様が、クロ様が……私に何も言わずにこちらに来てたなんて! ああっ、心配で、いてもたってもいられなかったんですのよ!」


 鈴音は息を切らせながら、クロの前までずかずかと進み出て、鼻先が触れるほどの距離で詰め寄る。


「鈴音さんっ!? な、なんでここに……!?」


「リリーおねーさまと武先生のところで全部聞きましたの! あなたがこちらの世話人のところへ同行していたこと、そして……わたくしを置いてけぼりにしたことも!!」


「どうして私に会いに来てくださらなかったのですの!?どこの雌猫と浮気していたのですか!?西町?東町?ま・さ・か南町のいけ好かないあの猫じゃありませんでしょうね!?」


 クロは必死に手を振りながら後退る。


「誤解です!違います、鈴音さん、落ち着いてください!」


 麟と星夜は、まるで演劇を見ているかのように目を丸くしていた。


「……クロって、本当に女難の相、当たってるんじゃ……」


 麟がぽつりとつぶやき、星夜が「こわい……」と震えながら小さくなった。


 嵐のような鈴音の登場により、チイの予言が恐ろしいほど的中したことを、誰もが認めざるを得なかった――

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