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猫の円卓会議  作者: waka
猫の円卓会議
8/23

名づけの円卓

 帰り着いた猫の屋敷では、町内の猫たちが今か今かと集まり、議長とともに玄関先で待っていた。


「ただいまー」


 クロと私が屋敷へ戻るなり、猫たちは一斉に駆け寄ってきた。


「無事だった?」「怪我は?」「どんな具合?」


 口々に心配の声があがる。


「みんな、ありがとう。おかげさまで子猫は無事に回復しました」


 私の背後から、恥ずかしそうに、それでもしっかりと歩いて子猫が姿を現す。猫たちはその姿を見て安心し、歓声が沸き起こった。


「今日からこの子もこの屋敷に住むことになりました。みなさん、仲良くしてあげてくださいね」


 新たな仲間の誕生に、屋敷中が祝福の声で包まれた。


「静粛に、静粛に! みなさん落ち着いてください」


 議長が慌てて声を張り上げるが、どこかうれしそうだった。


 子猫は私の顔を見上げ、にこっと笑って言った。


「おねーちゃん、ありがとう。ぼく、すごくうれしいよ」


「良かったね。ここなら、もう寂しい思いや寒い思いをしなくてすむからね」


「うん!」


 そんな温かな空気の中、議長が静かに立ち上がり、問いかける。


「ところで、この子の名前はもうあるのですか?」


「名前? ……ぼく、名前なんてないよ」


「ほう、それはいかんのう。それでは、皆で名前を考えてやらんといかんのう」


 すると誰かが言った。


「それなら、臨時の円卓会議を開きましょう!」


「賛成!」


「いい案だ!」


 次々に賛同の声が上がる。


 議長は笑いながら頷いた。


「では、1週間後、臨時の円卓会議を開くとしよう。議題は――この子の名前について、じゃ」


 またしても、屋敷中に歓声が沸き起こった。


 無事に子猫を迎え入れたあの日から、一週間が過ぎた。


 麟はというと、自宅でずっと頭を抱えていた。

 子猫の名前をどうするか――そのことだけを延々と考えていたのだ。


「うーん、うーん……」


 すでに数百回はうなっていた。机にはメモ帳とペン、そして思いついた名前の走り書きがいくつも殴り書きされていた。


「トム?……いや、それアニメだし」

「チビ……でもすぐ大きくなるかもしれないしな」

「政宗?蘭丸? 渋すぎるか……」


 子猫を抱えながら独り言を続ける麟の姿は、もはや軽く心配されるレベルだった。


「名前なんでもいいよ」


 隣で丸くなっている子猫が、ぽつんとそうつぶやく。


「そうはいかないでしょ。名前は一生モノなんだから、ちゃんと付けないとダメなんだよ」


「へー、そうなんだ」


 のんきな子猫の返事に、麟は頭を抱え直す。

 結局、名前は決まらないまま――円卓会議の時間がやってきた。

 屋敷の円卓の間には、再びたくさんの猫たちが集まっていた。

 今回の議題は、「子猫の名前を決めること」。


 議長の老猫が堂々と円卓中央で宣言した。

「では、臨時の円卓会議を開始する。議題は、このたび我らの仲間となった子猫の名づけである」


「わーっ!」

「楽しみー!」

「良い名前つけてあげようね!」

 猫たちの声が飛び交う。


 子猫はといえば、緊張しつつも、ちょっとだけワクワクしている様子で麟の隣にちょこんと座っていた。

 クロが前に出て言った。

「それでは、候補の名前がある方は順にどうぞ」


「はい!『しろみけ』ってどうですか!白いとこあるし!」

「いやいや、『しまじろう』の方が勇ましくていいにゃ」

「『モカ』って響き可愛くない?おしゃれだし!」


 次から次へと飛び出す名前の候補。

 中には「二代目クロ」とか「サスケ」や「にゃん丸」など、どこかで聞いたようなものもあり、会議室内は笑いと混乱が入り混じっていた。


 その様子を見て、子猫はポツリとつぶやいた。


「どの名前も、なんだか嬉しいな。みんな僕のこと考えてくれてるんだね」


 麟はその言葉を聞いて、ハッとした。

 そうだ――大事なのは“誰がつけるか”じゃない。“どんな気持ちでつけるか”だ。


 そして、ゆっくりと立ち上がって言った。


「私からも、ひとつ名前を提案させてください」

 円卓の猫たちが静かになり、注目が集まる。


「私は……この子の目を見て、最初に思ったんです。

 夜の中でも、星みたいに光る、優しい黄色だったって」


「だから――この子の名前は『星夜せいや』にしたいと思います」


 一瞬、場が静まり返る。

 やがて、子猫がぽつりと言った。


「せいや……?」


「そう。星のように、暗闇でも輝く夜の光。君が、これからの猫たちの世界にとって、そんな存在になりますようにって願いを込めて」


 子猫はきょとんとしたあと――ふわっと笑った。


「いい名前だね。僕、それがいい。僕、『せいや』になる」


 円卓の間に、またたく間に拍手と歓声が広がった。

 猫たちが一斉に口々に言う。


「せいや!」「いい名前だにゃ!」「ぴったりだー!」


 議長が満足そうに頷いて言った。

「では、満場一致にて、この子の名は『星夜せいや』と決定!」


 子猫――いや、星夜は、少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに笑った。

 その笑顔は、まるで夜空にまたたく一番星のように――輝いていた。

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