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猫の円卓会議  作者: waka
猫の円卓会議
20/37

VTuber扇

 その日は朝から陽射しがきつく、空を見上げるのも億劫になるほどの蒸し暑さだった。

 屋敷の庭はいつもなら子猫たちの遊び場になっているが、さすがに今日は誰も姿を見せていない。


「無理無理、こんな日に外で遊んだら、溶けちゃうってば……」


 汗ばんだ額を拭いながら、麟は大広間の障子を閉め、屋敷の中を冷気が巡るように調整した。

 既に子猫たちは居間のカーペットの上でごろごろと寝転び、扇風機の風に吹かれながら涼を取っている。


「ねえ、今日も扇ちゃんの配信観ようよー!」


「カートレースの企画だって!」


「ゲーム機つないでーっ!」


 子猫たちの要望に応え、麟は秘密のゲーム部屋にモニターを移動し、いつもの配信プラットフォームを起動した。

 画面が映し出されると、そこには毎回テンション高めで登場するVTuber――


「はいはーいっ! 今日も元気に全開でいくよー! おうぎちゃんチャンネル、スタートっ☆」


 涼しげな浴衣姿に大きな扇子を背負った、狐耳風の少女が画面に現れる。

 甘すぎない元気な声とテンポのいい喋りで、瞬く間に場の空気が明るくなる。


 麟もこのVTuber扇の配信をよく観ていて、明るくてちょっとドジなところもありつつ、リスナー想いな姿勢がとても好きだった。


(今日は、リスナー参加型のゲーム企画か……)


 その日の企画はこうだった。

「視聴者全員で、カートレース対決しよう!」


 使うゲームは、最近発売されたばかりのハリネズミたちがカートで爆走する超人気レースゲーム。

 あのゲーム部屋にも同じソフトが導入されており、麟も星夜も子猫たちも、何度か対戦していた。


「ねえ麟姉ー、出よ! 出よ出よ!」


「星夜兄ちゃんもやろうよ!」


「やるからには、勝つよ?」


 いつの間にか背後に現れていた星夜は、ゲームパッドを持って淡々と準備を始めている。


「よし、私たちも本気出すか……!」


 麟も負けじとゲーム機にログインし、視聴者参加ロビーに入った。


 オンラインネームは“リンリン”(麟)と“セイヤ”(星夜)だ

 既に数百人のプレイヤーが集まっており、扇も番組の中で呼びかけを続けていた。


「今回の対戦相手は、VTuber扇チャンネルをご覧の皆さま全員ですっ!

 最後のレースで上位に入った人には、ちょっとしたサプライズもあるかも〜♪」


 リスナーからのコメントが流れる中、レースがスタートした。


 ――1回戦。


 ――2回戦。


「速すぎる……」「え、誰あの二人?」「セイヤって子ヤバくない?」


「リンリンって子、攻撃アイテム全部避けたよ!?」「バケモンかよ!?」


 SNSとコメント欄がざわつき始める。



 画面に映し出されたのは、煌びやかな夜のコース。

 ネオン輝く未来都市を舞台にした、全20コース中でも屈指の難易度を誇る「ハリネズミシティ・ナイトラン」。

 急カーブ、ジャンプ台、狭い路地、すべてがプレイヤーの技術を試すこのマップに、100人以上のプレイヤーが集まっていた。


「それでは、ラストレース! 準備、よーい……」

「スタートッッ!!」


 ドンッと爆音が鳴り、カートが一斉に飛び出す。


 麟のハリネズミキャラは、流線型のスピード特化マシン。

 スタートダッシュの瞬間、ブーストゲージを完璧なタイミングで決めた麟は、一気に10人を抜き去った。


「いっけぇーーっ!!」


 右手の指がコントローラーを滑らかに走る。

 前方のジャンプ台で回転を加えて空中ブーストを得ると、すかさずスライドターン。

 後続を引き離す。


 一方、星夜のプレイスタイルは真逆だった。

 マシンは安定性と加速のバランスタイプ。

 アイテム管理を徹底し、後方からじわじわ順位を上げてくる。

 コーナーでは最短距離を滑るように抜け、攻撃系アイテムは的確にライバルにぶつけていく。


「ぐっ……うしろからバナナか!?」

「違う、セイヤって子が投げたぞ!?」

「全部狙って当ててくるなんておかしいだろ!」


 実況チャットがざわつく。

 中盤で麟が1位、星夜が4位という布陣になると、扇の焦りが配信音声にもにじみ出た。


「うわーっ、え!? 速っ!? うそ、さっき1位だったのにもう抜かされた……!」


 扇のプレイ画面は、次第に混戦の渦に巻き込まれていく。

 周囲のプレイヤーから狙われ、ミサイルに吹っ飛ばされ、逆転を狙うも追いつけない。


「なんで!? この人たち、どんな反射神経してるの!? ゲームの精霊なの!?」


 そんな中、最終ラップ。


 麟がジャンプ台からの着地直後、背後から赤いターゲットマークが表示される。


「追尾ロケットか……っ」


 普通なら確実にクラッシュする場面。

 だが麟は、直前に取得していた防御アイテム“反射オーブ”を見事に合わせ、カウンター。

 ロケットは弾かれ、近づいていた3位のマシンが直撃して吹き飛んだ。


「ひっどい……リンリンちゃん、反射まで完璧とかズルい……!」

 扇の悲鳴が響く中、星夜も静かに追い上げを見せる。

 2位のプレイヤーを内側ラインで抜き去ると、そのまま麟に次ぐ2位へ浮上。


 最終コーナー。

 鋭角な右カーブを抜ければゴール。


「ここで決めるよ!」


 麟はドリフトをギリギリまで引っ張り、カートを斜めに滑り込ませる。

 タイヤが火花を散らし、ターボ点火。


「麟ねーちゃん、右後ろからアイテム来る」

「わかってる!」


 星夜の言葉と同時、麟はターボの爆発で一気にゴールラインへと飛び込んだ。


 ──1位:リンリン(麟)

 ──2位:セイヤ(星夜)


 ゴール画面に花火が上がり、ランキングボードが表示される。

 圧倒的。そう言うしかない走りだった。


 チャット欄はざわめきの渦。


「圧勝すぎて草」

「扇ちゃん一瞬で抜かれたwww」

「リンリンとセイヤってプロゲーマーなの?」

「いやマジで、どこのチーム所属……?」


 やがて扇の配信画面が戻り、呆然とした顔のVTuberが映る。

 目の中には悔しさと、どこか嬉しそうな輝きがあった。


「……こ、こんなことある!? でも、でも、こんな強い人と遊べて……う、うれしいっ!」


 麟と星夜のカメラは映っていないが、麟の唇はにやりと笑っていた。


(この感じ……やっぱり、ゲームって最高だ)


 子猫たちも後ろで大騒ぎしていた。


「麟ねーちゃん最強!」

「星夜兄ちゃん、アイテム神!」

「扇ちゃん、また挑戦してこないかな~!」


 その声が聞こえたのか、扇は配信の最後にこう言った。


「ねえ、リンリンさん、――私と、本気の直接勝負、してくれない?」


 カメラの奥で、狐耳の少女が微笑む。


 その笑顔の裏に、麟は何かが隠されていることに気づいていた――。

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